エピローグ



 医療施設を後にしたバルドル達は、少し距離を置くまで、口を開かなかった。そうして、シンとシアの声が聞こえなくなった辺りで……ユニがエルトリーアの方を向いた。


「いつから起きていたんですか?」


「あの兄妹が感動の再開を迎えた所よ。だから、素直に起きられなかったの」


 エルトリーアは持ち前の身体能力を使い、誰にも気取られることなく、ベッドを後にしてバルドル達を追ってきたのだ。


「……ユニ、あの時はごめんなさい。魔族を通してしまったばっかりに、辛い目に合わせてしまったわね」


「随分としおらしいですね」


「うっ、まあ、ね……」


 いつもあったペンダントの重みがなかった。


 それが一因でもあるが、今回の襲撃時、エルトリーアは幾つものミスを犯していたからだ。マルクに誘導されていたから、というのもあったが、そこら辺はもっと真剣に《竜化ドラゴン・フォース》の訓練に取り組んでいれば、解決できたことなのかもしれない、という思いがあった。


 バルドルに神聖なる決闘タイマンを挑んだように、エルトリーアは自分の力に絶対の自信を置いている。それは言い換えると、圧倒的な敗北を知らないからこそだ。


 本気を出せば勝てた。


 その気持ちがエルトリーアには常にあった。


 竜化にはまだまだ先がある。


 王族の力はそれほどまでに、凄まじい。


 ……今回の死合は、そんな言い訳は通用しなかった。そう、エルトリーアは殺し合いというものを初めて経験したのだ。


 それは自分の心のどこかにあった甘さを認めさせ、メンタル面を成長させていた。


 魔族がいないと気づいた時、ユニが死んでしまう可能性を考えて、本当に怖くなったのだ。


 だから、もう甘さは捨てると、エルトリーアは決意していた。


「バルは、本当に助けてくれてありがとう」


「当たり前のことをしたまでだよ」


「そういう意味じゃないわ。私は生徒会だからお礼を言ってるんじゃないわ。私を信じてくれたバルドル=アイゼンに言ってるのよ」


「っ……」


 バルドルが助けた行動は生徒会としてのものだが、そうだ。レオンハルトとの話の時、彼はエルトリーアを気にかけてはいたが、どちらかといえばバルドルの思いを確かめるような雰囲気だったのだ。


 兄妹らしい、カリスマとでも言うのだろうか。真剣な目でこちらを見つめるエルトリーアに、バルドルは「どういたしまして」とはにかみながら応じるのだった。


 そうして彼ら彼女らは、寮に帰ると各々新たな決意を胸に宿し、眠りにつくのだった。



    ◇ ◇ ◇



 それは、神造迷宮ユナイトで魔族の襲撃が起きてから丁度、二日後の出来事だった。


 その日の放課後、バルドルは生徒会室に訪れていた。


 生徒会室前に着くと、彼は違和感を抱いた。


「あれ? お客さんかな?」


 生徒会室にはいつものメンバーと、もう一人、別の人がいたのだ。


 そのことに首を傾げながら、ノックしてから入室した。


「失礼します」


 バルドルの挨拶に手を上げ応じたレオンハルトは、「紹介しよう」と一人の生徒に手を向けた。


「私から自己紹介させてください」


「ああ」


 その女子生徒の姿形に、バルドルは見覚えがあった。


「この度、生徒会執行部の会計を担当させて頂くことになりました、ミルフィ=ミルミゼです。これから一緒に生徒会を運営する一員として、よろしくお願いします!」

 








────────────────

というわけで、ミルフィの登場です。

ミルミゼ家の秘匿魔法「錬金」は唯一魔法薬ポーションを人工的に生み出せる魔法です。それ故に、商売では他を圧倒し、錬金魔法に適性のある一族の者は金銭トラブルが起きないように英才教育を施されています。そう、会計にはピッタリです。


……この一章は本当に詰め込みたいものを詰め込む勢いで話を書いてしまい、かなりの長編になっていまいました。そのため、途中で読む手を止めた人もいると思います。ですが、ここまで読んで楽しんでもらえたなら、とても嬉しいです!


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