第30話 竜魔決着
その頃、エルトリーアとダンは
空気を引き裂き、陽光を受け煌めく竜爪。
獲物を補足する力、眼力が上がったダンは瞬時に軌道を見切り、揺れるように躱す。その際に全身から水を生み出し、エルトリーアに巻きつけるように動かす。
だが、エルトリーアは無詠唱で魔法陣を念写していた。小さな方陣、掌に収まる魔法陣は《
「おら!」
水を巻き付けた拳を振るった。
その
ダンは弾丸に意識が向き、地面を見ていなかった。
──《
敵を焼き尽くす炎が獄炎の弾丸を吹き飛ばしたダンに襲いかかった。自分を巻き込みかねないが、竜の炎は敵対者のみに効果を発揮する。
一瞬にして蒸発する水。肉体は炎上し、わけも分からず攻撃を喰らったダンはしかし、冷静だった。
熱に酸素が奪われ詠唱はできない。だが、彼の異能は自身の魔力を水へと変換する。肌を通して外気に魔力をやる時、人が領域を展開するように魔力を広げる感覚で外に出た魔力は水に変換され、即座に消火する。
エルトリーアは振るった手を翻し、魔法を念写しながら竜爪を振り下ろす。ダンが生成した水を紙のように裂き、水の防御に切り傷を作り風圧が水を吹き飛ばした。
同時に発動する魔法、
手の甲に生えた竜鱗を含む全ての鱗は魔力を無効化する力を発揮し、振り抜いた手で裏拳を放つ。
ただでさえ水の防御を竜爪の風圧に吹き飛ばされた所に、咄嗟の防御も意味をなさない攻撃だ。
ダンは腕を割り込ませるが、
「失せなさい」
押し込まれ、埒外の膂力に吹き飛ばされ宙を舞った。
この時までにかかった時間は数秒だ。
次の瞬間には無詠唱で魔法陣が二つも展開され、吹き飛ばされ中のダン目掛け、3桁を超える獄炎の槍が放たれた。
「ハハッ、つえぇ」
ダンは笑った。
エラ呼吸ができる彼にとって先程の水を生み出す行為は酸素を生み出すも同然の行いだ。エルトリーアの魔法が着弾する前に魔法を使える時が生じる。
「《
それは特殊な
混沌の砲撃は炎の槍を全て飲み込み、エルトリーアに迫った。
「温い」
踏み込み一閃。
竜の爪は全てを切り裂く。
混沌の輝きは裂かれた部分から魔法維持不可能と判断され消滅していく。それはもはや消滅する輝きが彼女を彩る光背となっていた。
そして、二人は50メートルの距離を開け対峙していた。辺りの木々は風圧に耐えきれず圧し折れ、残りはダンの水とエルトリーアの魔法で吹き飛ばされている。
開けた草原の上で向かい合う。と、突然として林の中心の方から光が天に登ったのが見えた。その瞬間、エルトリーアと何故かダンが笑みを浮かべた。
「──気持ち悪いわよ」
「そりゃ悪かった。ただな、マルクさんの本気が見れるかもしれねーと思ったらつい笑っちまった」
交わす言葉はそれ以上なく、殺し合いをしているという実感を強く持ち、一秒も気を緩めずに張り詰めた空気を従え、二人はまたしても地面を滑走するような勢いで駆けていく。
「お返しだ!」
水を纏いし拳が突き出される時、全てをその渦に巻き込み破壊するかのような
何の魔法を使うかで思考を埋め尽くしていた彼女は、対抗する魔法を選定しながら手の甲で迎え撃つ。
竜鱗は容易く受け止め勢いを減らしたが、範囲が範囲だ。水飛沫が散らばり、それは一つの生物のようにエルトリーアに食らいついてきた。獰猛なサメのように。
あまりにも繊細すぎる操作、突如として演じる役者が変わったような感覚。だがそれは違う。ダンの本能レベルに刻み込まれた暴食を表すものだ。
相手を食べることを至上とする彼が可能な唯一の精密制御だった。
「我が邪魔をするとは良い度胸ね」
両腕を左右それぞれに振るう。
水流を防御していた方の腕を強く振り抜き、水流自体を少し吹き飛ばす。そして両の手の甲は水のサメを弾き飛ばし、激流は届く寸前で念写した魔法が発動し、獄炎の波が水とぶつかり合い対消滅した。
「忘れてねぇか? 俺は魔法を使ってねぇ! 《
静かに荒々しく魔力の質を昇華させていたダンは、オリジナル上級魔法を起動する。
ダンは自分で撃ち出し続けた水の流れに乗り、水中を泳ぐように接近したのだ。激しい水の流れは透明感がなく、激流の対処に意識を割いたエルトリーアの不意をつく
炎の波を突き破る。
正面から大きく口を開けたダンの口撃。
見えない位置にはダンの口撃と遜色のない威力を誇る、確実に相手を食べるという法則を持った水の牙。
いつぞやで見た
だが、それでも──エルトリーアの身体能力は圧倒的だった。
「慣れてきたわ」
第二段階 《
それももう過去の話だ。
バルドルの信頼を受け取り、ユニが無事だと知り、先程の数秒の戦闘を経たエルトリーアは、気負うものがなく実戦に集中し、竜鱗の一部を取り込んだからだろうか? 使い方を百パーセント理解していた。
ダンの口が彼女を捕える前に、緩やかに竜の爪が振り上げられ、真下に置かれていた。
刹那の時間に水の牙は竜爪に貫かれ、ダンの歯は竜の爪に受け止められていた。
それでも諦めずに角度を変え竜爪を噛み砕こうとする。
「へぇ」
カチン、と閉じられた歯は竜の爪を破壊すること叶わず。
驚くほどの鋭利さを持つ歯は、エルトリーアの竜爪の耐久力を越えられなかった。
「っ!?」
「残念ね。もう少し強かったと思ってたけど、ここまでとは……力加減はできないわよ」
もう片方の腕を引き絞り、エルトリーアはダンの顔面を撃ち抜いた。
吹き飛ばされた彼は地面を転がり草を巻き込み、エゲツナイ距離を吹き飛ばされる。
「て、あれ……? 血が……」
エルトリーアは不意に痛みを覚えた。
ダンの口が閉じられた時、皮膚を通っていたようで、指先が少しだけ切れ血が流れていた。幸いダンには食べられていない。
なのにどうしてだろうか。
身の毛とよだつ奇妙な感覚に鳥肌立った。
「良いことを教えてやろうか?」
「っ!?」
ダンは何もなかったように立ち上がった。
その声を強化された聴覚で捉えた。
ダンの体に不思議な変化が訪れている。
肌に模様が広がっている。いや、その肌色とは違う薄い色合いには見覚えがあった。
楯鱗、皮歯だ。
「俺の身体強化はただ身体能力を上げるだけじゃない。身体の活性化だ。時間が経てば経つほどに俺の体は魔物に染まっていくぜ」
人としての側面は魔物側の活性化により塗り潰されていく。骨格はより強靭に、肉体はより強い負荷に耐えられるよう丈夫に、歯は更に鋭くなっている。
染まる。染まる。染まる。染まる。
無数の楯鱗からなるサメ肌が顔を除く肌を侵食した時、腕に、掌に、手の甲に、口が生まれる。
鋭い牙のような
肉を噛むことに特化した
その全てが変化した理由は、ダンの活性化を促したのはエルトリーアが流した血だ。サメは血の臭いに興奮する癖がある。
そしてその対象に獰猛になり攻撃的になる。半人半魔物というべき魔族状態ならばこんなサメの習性は表に出ることはなかった。だが、《
人としての理性を手放す代わりに、魔物の本能と高い身体能力を手に入れた。
元々バカなダンにはあってないようなものだ。
「これがホントの
「ガッツク男はモテないわよ」
ダンはより戦闘に熱中し、エルトリーアは逆に時間を経るに連れ冷静になっていく。
対象的な二人はしかし、同じように笑った。全力を振り絞る感覚が清々しくて、腹の底からスッキリとした笑みを浮かべる。
その全力をぶつけ合うように、目算距離70メートルの間合いを1秒で踏破した二人は各々の攻撃を繰り出す。
相手の手を読むことはない。二人の速度が既に思考を無駄だと切り捨て、本能的に攻撃を放っている。
人の形に落とし込んだ怪物同士のように、エルトリーアの爪撃とダンの口撃が撃ち合った。剣同士が衝突したような激突音を鳴らす。それにインスピレーションを受けたダンは魔法を産み落とす。
「《
開いた
噛み合わさる。
「
奇しくも同タイミングでエルトリーアも魔法を使っていた。
彼女のは新魔法ではない、既存の
《
ダンは口撃の関係上、一番狙いやすい竜爪を狙う。ならばその竜爪を常時燃やしてやろうというダンから見ると悪魔の発想であった。
「うあっつ!?」
流石に口内に火はアカンようだ。
思わず仰け反り思考が停止する。
突然のことに水を生み出す行動を取れない。
その隙を見逃すはずがなく、エルトリーアは準備していたもう一つの魔法を起動させた。
《
長い間発動すると鎮火される獄炎を巻き込んだ竜の
その斬撃はダンの胸に五つの切り傷を刻み込み、斬傷をなぞるように獄炎が広がり、血と肉を巻き込み炎上した。
「あぁ!?」
この戦いで初めてと言っていいまとまなダメージに絶叫。
だが、熱いという事実を感じ取った頭は本能的に水を生み出し鎮火する。
エルトリーアは間合いを詰め、容赦なく竜爪を浴びせた。
それをダンは口で受け止めた。
竜の爪を噛むことで致命傷を防ぐ行い。
死ぬよりはマシだという狂気に染まった瞳がエルトリーアを射抜いた。
産まれて初めて感じる異質な激情に晒され、彼女の動きが一瞬、緩んだ。
ダンの右腕が閃いた。次々にパカリと開かれる口、陽光を受け鈍く輝く楯鱗がエルトリーアの左腕に食いついた。
竜爪とは異なり腕は肌。竜鱗はあるが満遍なく生えているわけではない。その竜の鱗がない柔肌の部分を狙い噛み付いた鱗の歯は、肉に食い込んだ。
本物の歯のように鋭くないため噛み切ることは難しいが、流れ出た
「こ、のぉ!!」
怒りの乗った右腕による竜爪。胴体に振るうと受け止められる恐れがあるため、腕に噛み付いてきた口の隙間目掛け振り抜いた。
一瞬の抵抗と同時に楯鱗を切り裂き、3センチほと斬り裂く。
苦痛にダンの力が緩み、その間にエルトリーアは強引に腕を振るって脱出する。
「お返しだ!」
その間に水を生成していたダンは、左腕に水を巻き付け、それを拳を集束させ撃ち出してきた。
「ぶっ飛べおらぁ!」
螺旋を描く激流が当たり、エルトリーアを巻き込み進み続ける。林に入り背中に木々が当たり骨が軋む。水の渦は全身を包み込みエルトリーアの体を掴んで離さない。水はダンが生み出し続け操作するため途切れることはない。
口を開くことはできず。
だが、彼女に
(《
全身の竜鱗に再度輝きが宿り、触れた水はただの水と化し、振るった腕は激流を吹き飛ばす。水は未だに途切れたわけではないが、一瞬だけ空白を作るのに成功し、サイドステップを踏めば脱出完了だ。
が──当然の如くダンが眼前から出現した。
走るより泳いだ方が早いダンの急接近。予想はしていたが相当に厄介なコンボだ。
「もっとだ!!」
王族の血を味わったダンの目はギラつき始め、徐々にリミッターが解除されている。迫力が先程より増していた。
しかも回復魔法を使用したようで腕につけた傷が癒やされていた。流石に胸の方は傷口を焼いたので、彼が蓄積している魔力では回復できなかったようだ。
「舐めるな!!」
ダンの口撃を躱す。
頭が食い気に支配されているようで、顔から飛び込んできたダンの隙だらけの胴体、脇腹に右足を刳り込む。
「くっ……!?」
衝撃が体を突き抜け、ダンは顔を歪めた。
空を吹き飛ばされる中でダンは冷静に戻る。サメの本能に意識が飲まれかけ行動が単調になっていた。今回はエルトリーアの血を大量に飲んだことがきっかけだろう。そう分析しながら靴で地面を擦らせ前を向く。
「やぁ!」
裂帛の声、腕をクロスし防御に備える。
その行動を嘲笑うかのようにエルトリーアはダンの数メートル手前で踏み込み、地面を陥没させると同時に竜爪を振り上げた。
その風圧は砂を巻き込みダンに襲いかかる。
「クソっ!」
視界が遮られる。ダンは領域が苦手だった。体の外に出す魔力を水に変換する癖がついている彼は、領域を展開する場合はかなり精神を使う。
それ故にエルトリーアの位置を把握することはできない。血の匂いも消えている。
警戒心を高める中、熱を感じた。
前方から途轍もない数の炎槍が来た。
腕を振るい風圧だけで掻き消した。
瞬間、
「なっ!?」
砂煙を隠れ蓑にして跳躍していたエルトリーアが頭上から強襲を仕掛けてきた。その手には魔法陣が浮かび、竜爪に魔力が集まっているのが分かった。
ダンが瞠目したのは、エルトリーアが力任せに
思いも寄らない移動方法に驚愕し、しかも相手は高速だ。
ダンは水を生み出し防御態勢を取ったが、竜の爪が水の防御を突き破り、ダンの腕に切り傷を作った。
直後、ゼロ距離で爪撃が飛翔し、追加攻撃を行う。
斬られた傷が深くなり、右腕が使い物にならなくなる。
「あら? 驚きすぎてお口を開けるの忘れちゃった?」
「ちゃんとチャックしてたからなぁ!!」
煽りにピキリと憤りつつも言い、殴り返す。
その左手による拳撃を右手を振るって掴まえる。その際に口化するが構わなかった。既に王族の魔力を食べられた。ならば多少の痛みは許容し開き直ることにした。
「動きが単純よ!」
ダンの攻撃を止めながら、口の中に指を突っ込み口内を爪で貫く。本来は腕のため、直に柔らかな肉を裂く感触を味わう。
気味が悪いが躊躇ったらどうなるかは、先程の水流の件で思い知らされた。もう気を緩めることはなく、相手を倒すという決意を固めてぶん投げる。
「てぇ……!?」
腕の痛みに顔を顰めながら、両腕が十分な力を発揮できないことを悟り、
そして腕を伸ばし丁度いい所にあった木の枝を掴み衝撃を和らげ着地する。
「ふふ、そのくらいの痛み我慢しなさいよ!」
あからさまな失笑を向けるエルトリーアは、遮蔽物を使いダンに気づかれないように接近していた。
彼女は掌に食い込んだ皮歯に負わされた
それ故に、情けないというように笑ってやると、超至近距離から全力の爪撃を繰り出した。
「生憎と俺はマゾヒストじゃねぇ!」
逆に不敵に笑い返しながら腕を翳す。
「死ね!!」
エルトリーアの逆鱗に触れたようで、腕の筋肉が膨れ上がり、最大膂力を込め竜爪が斜めに斬り下ろされる。
ザン、と腕を斬った。
ダンの体勢が発生した風圧によって崩れた。
同時に待機させていた魔法陣から竜の息吹がダンを飲み込まんと襲いかかる。
チェックメイト。
確信を得た一手に対してダンは苦く、笑った。
──奥の手だ。
本当に緊急時にしか使わないようにとマルクの精神ロックによって制限されていた
「《
チカッと体中が光った。
彼の〈
水、炎、風、土、光、闇、氷、熱、雷、無、精神、加速、隠密、阻害、透明、混沌、竜。
その後にも数え切れないほどに蓄積されていた属性魔力の光が周囲一体を巻き込み破壊し尽くした。
「きゃあ────────────────ッッ!?」
魔力の光と轟音に世界は満たされた。
全ての魔力を出し尽くしたダンは笑みを浮かべていた。
「へ、へ……やったぜ。マルクさんよ」
《
実はダンの本当の魔力はとっくの昔に切れていた。だが、これまでマルクに言われ、毎日コツコツと自分の血を吸って水属性の魔力を溜めていて、それを利用することでエルトリーアと渡り合っていたのだ。
(強かったなぁ。あ~……それにしても腹減った。こんなに腹が減ったのはいつ振りだ?)
ダンは自分の記憶を振り返り、マルクと出会った時が一番飢えていたと思い出し苦笑した。
彼は海沿いの小さな村に生まれた。
子供の頃から暴食の気質があった彼は、食べ物が足りずに飢えていた。飢餓感から死ぬと行動を起こした結果、村の食料を食べ尽くし、追放されてしまった。
食べる物は何もない。
腹は鳴るばかり。
海には魔物が沢山いる。
反対側には森が広がっている。
さあどうしようかと悩み、小さなダンは仕方なく森の方に向かうことにした。森は食材の宝庫だった。野生の動物がいたから水で捕まえて食べた。
食べて、飢えて、食べて、飢えて、食べて、飢えて、食べて、飢えて、食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて食べて飢えて──。
満たされなかった。
お腹は一杯になっているはずなのに、両親と暮らして腹を空かせていた時の方が、友達と一緒にお腹が空いたと笑っていた方が、満たされていた。
そんなことを考えていた時だった。
「ほう、面白い素質を持つ奴がいると聞いてきてみれば……ふむ、本当に面白そうな奴がいたな」
大人の魔族が森の中を通り抜けダンに会いに来たのだ。
「良かったら来るか? お前の腹を存分に満たさせてやる」
そしてダンは差し出された手を取り、その大人の魔族、マルクと一緒に過ごすようになった。だが、彼は未だに満たされていなかった。
仕事の度に殺す相手はマルクが調整していたからだ。それはダンから見た時、丁寧に調理され眼の前に出された
確かに美味しいし腹は膨れる。だが、何かが物足りなかった。
心を満たす何かだ。
そして、今──ダンは目を見開いた。
「嘘だろ……」
全身傷だらけになりながらエルトリーアが走ってきた。もう体力は使い切ったはずなのに、体に力が入るか怪しい状態なのに、彼女は根性のみで立っていた。
「っ……!」
頭から血を流し、意識が朦朧としている。
エルトリーアが辛うじて動けているのは竜鱗のお陰だ。
後は執念のみだ。
「我は、いや、私は……!」
エルトリーアには学園でしたいことが沢山あった。思い出作りをしたい。バルドルにリベンジをしなければ気が済まない。
「負けない」
まだ助けてもらった感謝も言っていない。
「負けるわけにはいかないんだから!」
ユニには謝りたいことがあった。
「だから、絶対に!!」
ここで自分の人生を終わらせるつもりはない。
「私はアンタに勝って前に進むわ!」
その瞳には生きてこの先を幸せに過ごすという執念が宿っていた。今の彼女にとって生きる目的は友達と楽しく学園生活を過ごすことだったのだ。
「ハハッ、やってみろ!」
そして二人は残りの力を全て出し尽くす。
まさに
エルトリーアは脚部に力の全てを注ぎ込み大地を蹴った。
頭の中に魔法陣は描けない。
そんか余裕はないと詠唱する。
「《
彼女が思ったのはこの一撃で決着をつける想いだった。それが魔法に影響し、応用となりて竜爪に魔力が纏わり鋭さを引き上げた。
そして、エルトリーアの竜爪が、ダンの水拳が、互いに振り抜かれ交差する。
「──────────────────」
「──────────────────」
一拍、水は宙に散らされ、竜爪は拳を通りダンの胴体を深々と斬り裂いていた。
「ハハッ……
ダンはふと思った。
「最後に良い思い出ができたのは俺の方か」
最後に戦えたのが贄ではなく獲物で良かったと。少なくともそれで彼の心は半分満たされていたのだから。
「そっちは任せたわ。じゃあな」
ダンは口から血を流しながら、糸が切れたように地面に崩れ落ちるのだった。
エルトリーアは自分の全てを出し切り、既に満足したような顔つきで地面に倒れて眠っているのだった。
こうして、神造迷宮ユナイト第五層草原フィールで起こった、竜王の力を宿した巫女と、海王の力を宿した魔族の激闘は幕を閉じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます