第15話 挑戦者達
◇ ◇ ◇
その頃、バルドルに宣戦布告したシン達のパーティーは普通の攻略を行っていた。
「いいかい? ダンジョンにも前と後ろがある。一見すると無限に広がっている草原だけど、それは間違いなんだ。ここまで来たなら分かるんじゃないかな?」
スライム、クラグミ、リーフマンを倒したシンに、斥候のルスが問いかけた。このパーティーは基本的に上級生は手を出さず、危険になったら手助けする方針だ。
「ああ。草原だけど緩やかな上りと下りを繰り返していた。その間隔は前に進むと狭まって行っている」
「イエス。そして前に進んでいると、やがては階段を見つけることができる。ダンジョンは神々の試練場だ。気づきさえあれば攻略はスマートに進む」
冒険者としてシンは知識と経験を何よりも大切にしている。大切な人を守るために、危険にさせないために知識と経験は何よりも重要だからだ。
スライムは弱点の魔石を狙うのは難しいが、粘液の体積の三分の一切り落とせば絶命する。スラグミは打撃や斬撃が効きにくいが、熱に弱く生活魔法カードの炎でも溶かすことができた。リーフマンも同様に火に弱く順調に倒すことができた。シアが目に涙を浮かべ始めた時にはだいぶ焦ったが、心を鬼にして仕方ないと言い聞かせた。
「ねぇお兄ちゃん、滑るのは無理なの?」
「え?」
「下に降りる時は芝生の丘を滑ったみたいに楽しいって聞いてたから、楽しみだったのに……」
シアは可愛らしい童顔を不満で膨らませ、何かをねだる子供のようにシンを見上げた。
「えっと、そのー……」
この目に弱いシンは助けを求めるようにルスを見た。え? とルスが裏切られたような顔をする中、「どうして?」というシアの上目遣いがルスに突き刺さる。
「あー」
弱った顔を浮かべる。
シアは見た目が幼い。容姿の年齢は8歳のようで、小さな背丈に制服を纏った姿は兄と同じ姿をしたいと望んだ妹のようだ。
平べったい体付き、魔女の帽子のような物を被り、くすんだ金色の髪は短く、魔女の帽子の下にはアホ毛がある。
手には黒い宝玉を嵌め込んだ杖を装備している。
その杖を両手で握り締め涙目で見られると、逆らえる者はここにはいなかった。
「シアちゃんが言う穴は本当に見つかりにくいんだ。女神が微笑んだ時、すなわち運によるものが大きい。一節には前ではなく後ろに行くほど穴の出現率が増えると聞くけど、後ろに行けば行くほど、出現する魔物の数が減っていくから、非効率なんだ。特に希少種のブロックンと出会うのは百回潜って一回の確率になるから……そのー……ごめん」
「……分かった」
「そうか、分かってくれ──」
「じゃあ戻ろっか」
「……いや、あの……」
「戻らないの?」(懇願した目)
「……………………助けてシン君ーーーーーー!」
その後、四苦八苦したシンの説明により今度と約束することで現状を回避し、シン達は複数の魔物と戦い、一時間ほど進んだ頃、階段を見つけることに成功した。
「本当にあった」
シンは階段を見つけたことに愕然とした。階段が草原にある。普通に存在していた。話に聞いたことはあったが、自分の目で見ると異常だと感じた。しかも、この階段を見つけたのはルスではなくダグマールだった。
「ダグマール先輩はどうやってこにあると分かったんだ?」
「筋肉だ」
「……」
「筋肉は全てを解決する。今回この階段を見つけることができたのは我が大胸筋セルムンドスのお陰だ。帰ったら鍛えてやらととな。ハッハッハッ!」
良い人ではあるのだが、脳筋過ぎる先輩に乾いた笑みを浮かべるシンだった。説明を求めるように斥候のルスに視線を向けた。
「ダグマール先輩は特殊魔法を使ってるんだ。その名も「筋肉魔法」。筋肉に関する魔法で、何でも直感を鋭くできる魔法があるらしくてね。一節には第六感、筋肉センサーと呼ばれるものを発現することすらあるそうだ」
「え? いや、マジ……?」
普通科でありながら
「ククク、怪力が怪力たる所以はその異様なまでの脳筋さにある。流石我がライバルであり最良のパートナーだ。今後も前衛は任せるぞ」
「おう」
黒く不気味なローブ姿に仮面を付けたベラーゼは、唐突に喋り始めるとまた口を閉じる。一番よく分からない人物にシンは遠い目をする。
(この人達に力を借りても良かったのだろうか?)
ベラーゼの唯一知っている情報が魔石をコレクトしているという点だ。魔石は魔物によって変化し、リーフマンの魔石だと綺麗な緑色で、内側には葉っぱの模様が入って綺麗だったりする。そのため、コレクトした魔石をシアに見せることで仲良くなっていたりした。
(……この人は危険だ)
兄として妹の交友相手に相応しくないと思いながら、シン達は階段を降りていく。
階段を降りると通路に出る。地面壁天井全てが緑の岩でできた通路だ。シン達が降りた階段の他にも、幾つもの階段が存在し、また壁には複数の穴が空いている。そして、この通路には他の生徒もいた。
次階層までの休憩地点であり、同じ試練に挑む者と情報交換を行える場所だ。他にも魔力を流すことで登録・帰還できる転移
「お、おい! あれってまさか……!」
シン達の事情を知る者が騒ぎ出す。
「まだ魅了達は来ていないぞ! ということは……!」
ザワザワと普通科の生徒達が期待に胸を踊らせる。シンは当たり前だと先輩の力を借りた手前表情を取り繕うが、心の中で勝った! という激情が渦巻いていた。
そして、転移システムに魔力を登録するべく、列に並んだその時だった。
「「「──!」」」
遠くから声が聞こえた気がした。
非常に嫌な予感を感じたシンは、早く早くと列が進む速度にじれったい感情を抱く。
徐々に列が短くなり、徐々に声が近づいてきている。
シン達が次の番になった瞬間。
「わーーーーーーーーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーーーーーーーー!」
「ひゃーーーーーーーーーーーーー!」
何か滑ってきた。
通路の壁にある穴からバルドル、エルトリーア、ユニの順番に滑り到着した。
「う、嘘だろ!?」
「そ、そこから登場だと!? 特殊科だから特殊な方法で来ますってか!?」
「何上手いこと言ってんだよ!?」
勝利からの同点に混沌とした場。その場を見回し状況を理解したバルドルは、一瞬前の空気は消え失せ、不敵に微笑むと体の動きを止めた人達の間を通り、転移システムの登録をシンより先にしてしまった。
「残念だったね。君達は手を止めていたみたいだから、先に登録させてもらったよ」
「お、おまっ……!?」
「マナー違反などと言ってくれるなよ? 君達が動かないから仕方なく、俺が登録したんだ。それに穴は長くてね、滑り終わるのに時間がかかってしまった。では、また会おう」
軽く手を上げたバルドルは澄ました顔の王女と聖女を引き連れ二階層に向かって行った。
「す、滑るのに時間がかかった? 絶対にアイツら逆走してただろ……!」
シンの叫び声が、虚しく通路に響き渡るのだった。
この後も似たようなことを繰り返し、一日の攻略階層は同じだが先を行かれる展開になるシンであった。
「絶対に負けないからなーーーーーー!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます