織田氏の家系
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・2120年、蘭と蝶子がタイムマシンに乗って約560年前の弘治2年(1556年)にタイムスリップする。
・そのすぐ後、弘治2年(1556年)に美濃の斎藤道三と息子・斎藤義龍の戦が勃発。道三は敗死。
道三の娘・濃姫(本物)を『
・数ヵ月後、信勝の軍が挙兵。稲生で戦が始まる。信長軍が勝利し信勝は降伏。
・弘治3年(1557年)、秀吉とねねが結婚する。
・蘭が駿河の今川義元のところに密偵に行く。
・永禄元年(1558年)、信長が信勝を暗殺。
・前田利家が不祥事を起こして寺で謹慎処分を受ける。
・桶狭間で今川義元を破り、三河の徳川家康と同盟を組む。
―――
「とまぁ、こんな感じですかね。」
「なるほど。これはわかりやすいな。こうして記録に残しておけば後で見直す事も出来る。なぁ帰蝶。今後もこの年表とやらを頼めるか?」
「もちろん、言われなくてもやるつもりよ。」
信長の言葉に若干頬を赤くした蝶子がぶっきらぼうにそう答えた。
ここは大広間。年表を完成させた蘭と蝶子は、早速信長に見せる為にやってきたという訳である。
「でもこうして見ると、私達のこの二年って何だったんだろうって思うわ。」
「こんなもんだよ、年表っていうのは。でも思い出せば濃かったなぁ~って思うだろ?」
「まぁ、そうね。」
「俺にとってもお前達が来てから休まる暇がなくて敵わん。予定外の事ばかりやらされて、本当なら既に実行していた事柄がまだ出来ていないのだ。」
信長がため息交じりに扇子を開くと、蝶子が首を傾げた。
「実行していない事って?」
「実は……まだ尾張統一が出来ていない。」
「え?それって……」
蘭が驚いて信長を見ると、難儀そうに畳に寝そべりながら言った。
「お前が持っている歴史のテキストとやらに載っていないのか。織田家の事や尾張国の事は。」
「うっ……す、すみません。俺のテキストは一番簡単なやつでして……」
「ふん。初めから当てにはしていないが。……まぁ知らないのなら仕方がない。お前も俺の側近としてきちんと知っておかなければならない事だし、全部話そうか。」
「側近……」
「ちょっと!ニヤニヤしない!」
「うげっ……」
『側近』と言われてニヤける蘭の背中をどつくと、蝶子は言った。
「それは私にとっても大事な事なのね。」
「当たり前だ。俺の正室なのだからな。」
「わかった。蘭よりは物わかりがいいと思う。さ、始めて。」
「あぁ。まず俺の家系から話さないといかん。俺は織田の血筋の中でも『
「はい。国の全体を支配するのが守護で、守護代はその補佐的な感じですよね?」
「うん……まぁ間違いではない。続けるぞ。弾正忠家は尾張の守護代である『織田大和守家』の分家で家臣であった。つまりただの一地方領主だったという事だ。」
「え……?そうだったんですか……」
後世に伝わる『織田信長』像が余りにも大き過ぎて、信長の出自に関しては無知だった事を蘭は反省した。
「でも親父は底辺でくたばるような人間ではなくてな、分家ながら着々と力をつけていった。今川や松平と再三戦を繰り返して実績を積んだ上に、時の将軍にも謁見して顔を売ったそうだ。だから本家の大和守家や守護よりも勢力があった。それでも表向きには分家らしく振る舞っていた。」
そこで信長は起き上がって背筋を伸ばすと続けた。
「その内に俺が元服したが親父は突然病で死んだ。俺は嫡男としてこの織田家を継いだという訳だ。その後は親父のやりたがっていた事を忠実に実行した。本家の大和守家を滅ぼしたのだ。この清洲城は元々大和守家の居城だった。」
「え!?じゃあ主君をやっちゃったの?」
信長の衝撃の告白に蝶子はビックリして思わず大きい声を上げた。
「尾張統一にはまずそこを潰さんと始まらないからな。その後も親戚縁者を暗殺して回って……信勝を最後に弾正忠家の当主として正に敵無しとなった訳だ。」
信勝の名前を出す時に少しだけ眉を潜めたものの、冗談っぽく笑いながら話を締めくくった。
「……何だか壮絶ね。あんたの人生。」
「そうか?この世の中では普通の事だと思うがな。」
「そ、それで信長様。まだ実行していない事って何ですか?」
蘭がまだ茫然とした顔で言うと、信長は扇子をパチンッと打った。
「あぁ。そうだった。忘れていた。実は尾張の守護代は大和守家だけではない。『織田伊勢守家』というのがある。そこを潰さない限り尾張統一とはならないのだ。」
「じゃあ今度はそこを……?」
蘭が恐る恐る聞くと信長は大仰に頷いた。
「今勝家や家康に伊勢守家を探ってもらっている。その内家康から書状が来る事になっているから……蘭丸。」
「はい!」
「支度をしておけ。」
「はい!!」
「…………」
勢いよく返事をする蘭を複雑な顔で見つめる蝶子だった。
「それと帰蝶。」
「何よ?」
「戦から帰ってきたら話がある。そのつもりでいてくれ。」
「話って?今じゃダメなの?」
「まだ不確定な話なのだ。しかし帰ってくる頃には纏まっているだろう。」
「ふ~ん……まぁいいわ。でもちゃんと蘭を返してくれないと聞かないからね。」
「わかっておる。まったく、それしか考える事はないのか。」
「……ほっといてよ!」
「…………」
信長と蝶子の楽しそうなやり取りに、今度は蘭が複雑な顔をする番だった……
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