第92話 関東管領の終焉
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箕輪城を落とした長尾政景は毛利秀広に後を任せて岩櫃城を攻めている信行の本陣を訪れた。兵糧などの差し入れに加えて捕虜にした長野業政と上泉信綱の姿もあった。
「長尾殿、感謝する」
信行は政景に礼を伝えると後ろの方で跪いている業政と信綱を一瞥した。信行を護衛する為に傍で控えていた本多忠勝と榊原康政も二人を一瞥したがその目には殺気が宿っており、信行が居なければ刀傷沙汰に及んでいたと思わせるものだった。
「箕輪城も落ちた。明日から総攻撃を行う」
信行は軍議の場で方針を伝えると光秀を傍に呼んで耳打ちした。光秀は驚いた表情を見せた後で信行に対して確認を取ったが間違いなかったので指示に従い準備を始めた。
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翌日岩櫃城の前には大筒が並べられていた。館林城と箕輪城が早々と落ちた事で信行は美濃の岩村城と同じように大筒を用いて城を破壊する事で早期決着を図るつもりだった。
「大筒の威力を見せてもらえるとは」
「大したモノではありませんよ」
織田家の秘匿兵器と思われた大筒をこの目で見れる事に政景は喜んでいたが、信行が笑いながら叩いている鉄の塊(砲弾)を見て言葉を失った。
「岩櫃城を少しばかり壊す事になりますが、補修に掛かる費用は当方にて全て賄います」
政景が複雑な表情を見せつつ頷くのを見た信行は軍配を振り下ろした。轟音と共に大筒は火を吹いて撃ち出された砲弾は大手門や城壁に穴を開けた。威力を目の当たりにして唖然とする長尾勢の将兵を横目に見ながら攻撃は続けられ、上杉憲政が居るであろう御殿にも命中して大きな穴が開いた。
「大手門が開かれました」
しばらくすると大手門が開いて中から敵兵が逃げ出してきたが、門前に陣取る柴田勢は逃げ道を作らず南蛮銃や長槍での攻撃を行い敵兵を一人も通さなかった。大手門前には死体の山が築かれて凄惨な状況となり目を逸らす者も居た。
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搦手門前に陣取る前田利家も勝家と同様に信行の指示を違える事はあり得ないと言わんばかりに南蛮銃の銃口と長槍の穂先を門に向けて敵兵が出て来るのを待ち構えていた。
「御大将、本当にやるんですか?」
「上杉憲政って奴は時勢を見極めず己の欲で俺たちの仲間を殺した阿呆だ。奴を逃せば同輩に合わせる顔が無いぞ!」
甲斐で命を落とした三河衆は一度か二度顔を合わせた程度だが、利家からすれば織田家に仕える同輩であり、信行に従って戦場を共にする仲間だった。上杉憲政は出来もしない理想を掲げて周囲を巻き込んで同輩を殺した。そんな奴を許す事は利家からすればあり得ない事だった。
「中が騒がしくなってきたな。そろそろ出てくるぞ!」
箕輪城と同じように城内が騒がしくなった直後、搦手門の扉が開かれて中から敵兵が逃げ出してきた。
「殺れ!」
利家の号令と共に南蛮銃と長槍による攻撃が始まり逃げようとする敵兵の命をを刈り取った。利家の檄もあって兵士たちは手加減せず攻め続けた。大手門と同様に搦手門でも死体の山が築かれていった。
「突入だ!上杉憲政だけは絶対に逃がすなよ!」
*****
「上杉憲政、出て来い!」
「逃げ切れると思うなよ!」
利家に続いて大手門から勝家も城内に突入した。城内では双方の兵士が憲政を見つけるべく虱潰しに探していた。岩村城攻撃に参加していた兵士が御殿を燃やせば嫌でも出てくるはずだと言い出すなど異様な雰囲気になっていた。
「見つけだぞ!」
御殿を粗方探し終えても見つからなかったので政景に許可を得た上で御殿ごと焼き殺す方向で準備を始めた直後に憲政を発見した。憲政は城内にある小さな蔵の中に設けられた隠し部屋に家族と共に身を潜めていた。
「上杉憲政、無様な姿だな」
厳重に縛られて地面に転がされている憲政は微動だにせず遠くを眺めていた。信行の問い掛けに一切答えず何かを呟くだけなのでその姿は不気味に映った。
「連れて来い」
信行が合図をすると憲政の妻子が刑場に連れてこられた。二人は涙を流しながら命乞いをしたが、憲政はその様を見て笑みを浮かべたのでそれを見ていた家臣の中には呆れる者も居た。
「二人とも恨むなら奴を恨め」
半狂乱になって叫ぶ二人は兵士に押さえつけられ首筋に刃を当てられた。信行が手を上げようとしたら政景から止められた。妻子は傍に居て憲政の所業を見ていたが止める事が出来る立場では無いというのが理由である。信行は少し考えると今回は政景の顔を立てると言って取り止めた。
「儂が関東管領だ。頭が高い、平伏せ!」
憲政は相変わらず笑みを浮かべていたが奇声を発するなど誰が見ても気が狂ったと思うような状態になった。何を聞いても二君に仕える気は無いだのさっさと殺せとしか言わない長野業政や上泉信綱と共にその場で首を刎ねられた。
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