第91話 箕輪城攻撃
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「
軒猿から手紙を受け取った新発田重家は上野方面軍総大将の長尾政景にその事を知らせた。諸事情で岩櫃城より早く落とす必要がある事から重家の提案を採用して城内を攪乱させる為に軒猿を潜入させていた。
「何と書かれていた?」
「厭戦気分が蔓延しているので何時でも可能だと」
政景は軒猿に対して城内各所への放火と大手門の開門を指示していた。軒猿が実行可能だと判断したので政景はその日の夜に実行する事を決断した。
「今晩仕掛けるぞ」
「承知した。その旨で返事を出しておく」
「高広と秀広にも伝えてくれ」
重家を通じて知らされた北条高広と毛利秀広を含めて昼間はいつも通りに城攻めを行い籠城する長野勢に気取られないよう努めた。日が暮れると共に明かり代わりの篝火は必要最小限に留めて暗闇の中で夜襲の準備を進めた。
*****
「重家、大手門前で待機。開門と共に城内に突入してくれ」
「承知した」
「高広は搦手門を封鎖してそのまま待機」
「心得ました」
「秀広は重家の後方で待機。重家が城内に入った後は大手門を封鎖してくれ」
「はっ」
「長野業政だけは殺すな」
政景の指示は長野業政以外は全員生きて城から出すなと根切りを意味していた。普段なら敵兵は捕虜として捕らえた上で自軍に取り込むが、同盟相手である織田家の心情に配慮した長尾景虎が政景に対して厳しい対応を取れと予め指示を出していた。
「上泉信綱が居れば難しいだろうな」
重家は懸念を示した。政景以外の三人は長尾家中でも有数の腕利きだが、剣豪と謳われる信綱が近くに居るようなら業政の生け捕りは至難と思われた。
「その時は止むを得ん。織田殿には首級を差し出すしかあるまい」
「承知した。二人もそれで良いな?」
*****
その日の深夜、箕輪城内から火の手が上がった。城内の兵士は消火と犯人探しに気を取られて城外に居る長尾勢の存在を忘れていた。
「大手門が開いた。進め!」
大手門を守る兵士は軒猿によって排除され、新発田隊の侵入を許した。大将の重家は自ら先頭に立ち多くの敵兵を斬り捨てながら本丸に向かった。
「来たか。上泉信綱!」
本丸から出てきた老将の姿を見て重家はニヤリと笑った後、自分の周囲に居る家臣を後方に下がらせた。重家は兜を脱ぎ捨てると刀を構えた。
「貴様が新発田重家か。死ぬ覚悟は出来ているのだろうな?」
信綱は兜は被っておらず鎧も必要最低限しか身に付けていなかった。
「ふん。お前の方こそあの世に行く準備は済ませたのか?」
「若造の分際で舐めた口を聞くな!」
挑発に乗せられた信綱は怒り心頭の表情で刀を抜いて重家に迫った。
*****
搦手門を封鎖している北条高広は軒猿から大手門の状況を知らされた。長野業政の姿が見当たらない事を聞いて何らかの動きがありそうだと思った。
「内部で動きが」
様子を監視している兵士から報告を聞いた高広は合図を出して鉄砲隊と弓隊が門に照準を合わせた。
しばらくすると門の方から何かを動かす音が聞こえてきて徐々に開き始めた。門が開かれると馬に乗った集団が外に向かって駆け始めた。
「放て!」
業政は伏兵に対して警戒をしていたが、大部隊で待ち受けていると思っていなかったので虚を突かれた形になり、複数箇所に傷を負って落馬した。起き上がろうとする業政の目の前には北条高広が仁王立ちしていた。
「長野業政、俺は長尾家臣北条高広だ。故あって身柄を拘束する」
「好きにすれば良い」
業政は全てが終わったと諦めて抵抗せず、大人しく指示に従い拘束された。
*****
重家と信綱は壮絶な決闘を続けていた。流石の重家でも剣豪相手では分が悪く、傷が増えていた。
「先程の勢いはどうした?」
「止めを刺せない爺さんが言う台詞か?」
重家は不利な状況に関わらず信綱を苔にするような発言を繰り返すので信綱は不安になり始めた。
「長野業政は北条高広が捕らえたぞ!」
搦手からあり得ない内容の言葉が聞こえたので信綱の集中が一瞬途切れた。重家はそれを見逃さず信綱に体当りして押し倒した。戦いを見守っていた長尾勢の兵士は一斉に押し寄せた。信綱は重家もろとも兵士に押し潰されて気絶した。
「本来ならやり過ぎだと言いたいところだが良くやってくれた」
重家は気絶する事だけは免れたが胸を痛めてしまい顰め面になっていたが、自分の命を救った兵士たちを労う事は忘れなかった。
城主の長野業政と上将の上泉信綱が捕らわれた事で指揮系統を失った箕輪城は降伏して城を長尾勢に明け渡した。
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