第90話 藤氏赦免される

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台風10号が接近しているので皆様お気を付けください。


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「利益、風魔は再び現れると思うか?」

「おそらく無いでしょう」

「だろうな。滝川一族は甲賀随一の武闘派だからな」

「どうでしょうか。忍が武士に姿を改めただけです」

「それがお前たちの強みだ。服部党もそうだが、伊賀の忍は滝川だけは相手にしたくないと言っているからな」

「褒め言葉として受け取らせて頂きます」


滝川一族は甲賀の忍だが、いつの頃からか武士と真正面で戦える忍が居ても良いだろうという考えから武芸を嗜むようになった。そして忍の技量を持つ武士として織田家に仕える事になり、一族の頭領を務める一益は信長に重用された。束縛される事を好まない利益は柴田勝家の配下として働いている。


「今回の件、北条は無関係だと言っていたが」

「風魔が上杉憲政に何らかの恩があり義理立てしたのではないでしょうか」

「北条が疑われる危険性が高いのに敢えて…」

「なので去り際に無関係だと伝えたのでは」

「それなら合点がいくな。会う機会があれば訊ねてみるか」


*****


足利藤氏は信行の指示を受けて岩櫃城を訪れた。ちなみに信行が襲撃された事は藤氏に一切伝わっていなかった。


「公方様は軍使として訪れたとお聞きましたが、どういう意味でしょうか?」

「館林城は既に降伏した。箕輪城も長尾勢に包囲されてどうにもならない」

「だから降伏しろと」

「そういう事になる」

「形勢をひっくり返す手を打っています」

「何?」

「織田信行の暗殺を風魔に依頼しました」

「馬鹿な真似はよせ!成功したとしても状況は変わらない」

「既に終わっている頃でしょう」

「どういう事だ?」

「昨晩実行されている筈。公方様には伝わっていないのでは?」

「その企みは失敗しているぞ」

「…」

「岩櫃城に向かう前、私は織田信行と会っていた」

「そんな馬鹿な」

「諦めて降伏されよ」

「出て行け。今すぐ出て行け!」


ふらふらと立ち上がった憲政はいきなり刀を抜いて切っ先を藤氏に向けた。藤氏はこれ以上話をしたところで状況は変わらないと判断して逃げる様に席を立った。


*****


藤氏は織田本陣に戻ると信行に対面して憲政との一件を報告した。家族の助命を願い出る為に嘘偽りなく内容を伝えた。


「という次第でした」

「藤氏殿、ご苦労だった」

「お役に立てたようで幸いです」

「藤氏殿には京都に向かってもらう。家族共々静かに暮らせば余生を全う出来る筈だ」

「それは…」

「首謀者は上杉憲政と長野業政で貴殿は二人の甘言に上手く乗せられた」

「宜しいのですか?」

「宜しいも何もそれが事実だ。家臣にはその旨で説明しておく」

「分かりました」


藤氏が連れて行かれた後、信行の他に塙直政と明智光秀がその場に留まった。


「治部大輔様、あのような沙汰を下せば…」

「三河衆が反発すると言いたいのだろう?」

「その通りです」

「自ら降伏して首を差し出すと言った者を無碍に殺すわけにはいかないだろう」

「ですが」

「上杉憲政と長野業政の企てだという証拠を持ち帰った功績を認めないのは拙いと思わないか?」

「確かに」

「それは理解していますが」

「まさか…。これを狙っていたのですか?」

「偶然だよ。藤氏が行かなければ憲政もそこまで言わなかったと思う」

「母衣衆は某が責任を持って抑えます」

「三河衆については酒井殿と石川殿に抑えてもらいます」


藤氏の処遇が決まった後、予想通り三河出身者から反発されたが、母衣衆に居た本多忠勝と榊原康政は直政の説得を受けて渋々矛を納めた。他の者については光秀から頼まれた酒井忠次と石川数正が説得に回った事で騒動に発展しなかった。


*****


箕輪城を攻めている長尾政景と新発田重家は館林城攻略の知らせを受け取った。二人は宇佐美定満から増援として送られていた北条高広と毛利秀広も交えて話し合いを始めた。


「織田が館林を落とした。岩櫃もこちらと同様に包囲して持久戦になりつつある」

「こちらに向かう前に家老殿から聞いたが、比奈様が織田家に輿入れする事が決まったそうだ」

「それと付随した話になるが、上野は長尾家が支配する事になっている」

「織田は何の為に上野を攻めたのです?」

「家臣を殺された復讐だ」

「本当にそれだけの理由で?」

「私と重家が織田の関係者から直接聞いたからな」

「話を聞いた時、儂も耳を疑った」


政景と重家は出陣の際に定満から箕輪城は長尾家の領地になるが、その他については織田家から別途話があるとだけ聞いていた。二人が箕輪城を攻め始めた後で陣中見舞いに訪れた信行の使者から上野国は丸ごと長尾家にお任せすると言われたので二人は驚いて顔を見合わせた事を思い出した。


「婚姻の引き出物代わりという事になりますな」

「それなら岩櫃城より早く落とさなければ」

「長野業政を何とかしなければどうにもならん」

「景綱から預かった軒猿を使うか…」

「あの男は腕が立つと聞いております。暗殺は困難を極めるのでは?」

「ちょっと待ってくれ。このやり方はどうだ?」


重家の提案を聞いた三人は即座に賛成した。直ぐに軒猿の纏め役がその場に呼ばれて政景から策の説明を受けた。軒猿はその日の夜中に実行する事を約束してその場を離れた。

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