第80話 強気一辺倒

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第80話について、内容を全面的に改めて掲載し直しました。

旧80話は削除致しました。


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長尾景虎を動かす事に成功したので甲斐国境に兵を動かす準備を始めていた。


「明智秀満様が戻られました」


「こちらに通してくれ」


「承知致しました」


上野の上杉憲政と甲斐出兵の交渉を行っていた明智秀満が帰還した事が伝えられた。

秀満は明智光安の子で光秀の従弟に当たる。

軍事面で才能を発揮する明智一族において一風変わった存在で弁が立つ事から外交関係を任されるようになっていた。


「ご苦労だった。首尾は?」


「交渉は決裂致しました」


「やはり駄目だったか」


「幕府崩壊の責任を取れば協力してやると」


憲政は秀満に対して終始高圧的な態度を取り、織田が幕府を潰したと主張し続けた。

協力する為の条件として以下の四点を出した。

・山城を足利家に返還

・近江を足利家に譲渡

・三遠駿の三国を今川家に返還


「これは話になりませんな」


「決裂ありきで出したとしか思えない」


上杉の態度に光秀と秀吉は呆れていた。


「長野業政は居なかったのか?」


「同席しておりましたが一言も発さず」


「聞いていた噂とは異なる人物だったようだね」


「話には続きが。上杉憲政と交渉を終えた後に長野業政から声を掛けられまして」


二人は業政の屋敷に場所を移して対談した。

幕府崩壊が関東にも伝わって憲政の山内上杉家が代々務める関東管領職が有名無実化した。

憲政は古河公方の足利藤氏を擁立して幕府の再興を画策しているが上手く行っていない。

北条に河越城での雪辱を果たせれば憲政は満足するはずだが、現実を直視出来ないので織田に対して無理難題を吹っかけたと業政は説明した。

業政からは北条を関東平野から駆逐さえしてくれたら助かると要望されたが、秀満は返答しなかった。


「北条を追い払うのは良いが、武蔵の帰属について何か言っていたのか?」


「上杉に譲ってほしいと」


「冗談にも程がある」


「断固として拒否するべきです」


押され気味だった北条は急に勢いを盛り返して里見を下総国境まで押し返していた。

里見が信長と信行を怒らせて報復された事も要因の一つである。


「話にならないな。長野業政も上杉憲政と同類のようだ」


「上杉への対応は?」


「交渉は打ち切りとして今後何を言ってきても一切受け付けるな」


信行は憲政主従の厚顔無恥な態度に対して強硬姿勢を打ち出した。

今後は一切取り合わないという事実上の断交を意味していた。


「秀満、越後に向かえるか?」


「構いませんが」


「長尾景虎に今回の件を伝えてほしい。上杉が余計な真似をして長尾が甲斐攻めを中止する事だけは避けたい」


「承知致しました」


*****


秀満は直ぐに越後の春日山城に向かい出陣直前の景虎と対面した。


「織田の使者殿、どうされた?」


「上野の上杉に対武田の同盟を持ち掛けましたが、条件面で折り合わず決裂した事をお伝えしたく」


秀満は憲政との交渉内容に加えて業政との交渉内容も隠さず伝えた。

長尾家お抱えの軒猿から既に情報を掴んでいると考えての事だった。


「治部卿も動いていたのか。儂も同じ事を考えて宇佐美に動いてもらったのだ」


「そうでしたか。結果は?」


「話にならん」


「某も貴殿と同様の態度を取られた」


宇佐美定満が思い出すのも腹立たしいと言いつつ状況を語った。

定満は憲政に対武田の共闘を持ち掛けて成功した際は甲斐東部を上杉に譲る用意があると伝えた。

憲政の返答は関東管領自ら助けてやるのに甲斐東部だけでは割に合わないので一国丸々譲れというものだった。

武田の主力は北信濃で長尾が引き受ける上に織田が南部に圧力を掛ける事になっている。それを踏まえると東部はガラ空きに近い状態になるから損失は少ない筈だと定満は主張したが、憲政に考えを改める気配が無かった。


「傍に居た長野業政は織田を共闘に絡めるのは関東管領に対する挑発だと言っていた」


「まさかとは思いますが、足利義輝が上野で保護されているのでは?」


「使者殿、その点は大丈夫だ。定満から知らせを聞いて軒猿に探らせたが来た形跡は一切無かった」


上杉の態度が強気一辺倒なのはおかしいとする定満の知らせを受け取った景虎は軒猿を動員して上野を隈なく調べさせた。

足利義輝や幕府関係者はどこにも見当たらなかったので杞憂に終ったと思われた。


「それを聞いて安心しました」


「上杉が未だ強気の姿勢を崩さないので引き続き探っていたら厄介な情報を掴んだ」


「どういう事でしょうか?」


「定満、構わぬから伝えてやってくれ。織田も知る必要がある」


「確かに。上杉憲政と長野業政は古河公方の足利義氏を擁立して幕府再興企んでいるようだ」


話を聞いた秀満は二人に礼を伝えると早々に春日山城を離れて駿河に戻った。


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