第76話 岩村城陥落

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服部党と青母衣衆の働きで岩村城の指揮系統は無茶苦茶になり大手門もあっさりと開かれた。信行は青母衣衆を率いて城内に入り本丸を取り囲んだ。


「長政、状況は?」


「武田寄りの家臣が降伏を拒んでおります」


「この期に及んでまだ理解出来ないか」


「武田勢が来れば窮地に陥るぞと強気の姿勢を崩しません」


「直政が中山道を封鎖している事を知れば啞然とするだろうね」


「確かに」


「持久戦に持ち込むか早々に決着を付けるか…」


「武田勢の事を考えれば早々に決着を付けるべきかと」


「さっさと落としたいけどね」


「尾張守様に許可を頂く事は可能でしょうか?」


「そうだね。秀孝に頭を下げて大筒を使おう」


長政の提案を受けて信行は岩村城本丸攻撃の許可を貰う為に遣いを走らせた。


*****


「秀孝から構わないと返事が届いた」


「それでは」


「本丸の包囲を解いて搦手と大手門まで後退だ」


「承知致しました」


信行の指示を受けて長政は青母衣衆に影響範囲外までの後退を命じた。籠城している敵方は織田勢の動きに首を傾げていたが、その直後から大筒による攻撃が始まり本丸内を宛もなく逃げ回った。


「城内の死傷者は増えていますが降伏する気配はありません」


「意地を張ったところで詰んでいるのに馬鹿な連中だよ」


「攻撃を続けますか?」


「向こうがその気なら徹底的にやるだけだ」


「引き続き大筒を使います」


「それで構わないよ」


秀孝から許可を得ている事もあり、信行は岩村城を破壊する前提で攻撃を継続した。


*****


数日後、援軍を率いて到着した秀孝は岩村城の変わり果てた姿を見て苦笑していた。本丸は至る所で穴が開いており一部屋根が崩落している所もあった。籠城していた者は大半が崩落に巻き込まれて死傷して無事だった者も悉く捕まっていた。


「兄上、とことんまでやりましたね」


「降伏しないから止めようが無かったよ」


「見たところ本丸以外は短期間で修復が可能なので新たに本丸を築けば使えるでしょう」


「手間を掛けるようで済まないね」


「叔母上には悪いですが、中途半端な存在になっていた遠山家を他所に移せる事が出来るので」


「三郎兄上と相談しなければならないが、尾張以外で新たに土地を任せた方が良いだろうね」


「確かに。引き続き任せるのも良いのですが、家臣が武田に与する土豪と結び付けば厄介なので」


遠山家は影響力の強い勢力との結び付きを重視していたので手を組む相手を度々変えていた。家臣だけに留まらず周辺の土豪も織田に与する者や武田に与する者で入り乱れていた。


「兄上、適任者に心当たりはありませんか?」


「美濃に居る金森長近は適任だと思う」


金森長近は美濃出身で父が土岐氏に仕えていたが後継者争いの混乱に巻き込まれて失脚して近江へ逃れた。十代後半になった長近は尾張に入って織田家に仕官した。信長に目を付けられて赤母衣衆に加えられ近江平定や上洛の際に戦功を挙げた。その後は家老に就いた丹羽長秀の補佐役に抜擢されて内政面でも功績を上げていた。


「三郎兄上に相談してみます」


「私が推薦していたと書いて構わないよ」


*****


信行は岩村城の後始末を秀孝に引き継ぐと福島方面に向かった。武田勢西下を止める為に中山道を封鎖している塙直政に加勢する為である。


「直政、武田勢の動きは?」


「一度攻撃を仕掛けてきましたがそれ以降は動いておりません」


「服部党に動向を探らせよう」


「承知致しました」


武田勢は一度攻撃を仕掛けた際に南蛮銃で手痛い被害を受けており、攻撃続行を主張する秋山虎繁と被害が大きい事を理由に一時退却を主張する木曽義昌が対立して身動き出来ない状態が続いていた。


「今度はこちらから攻撃を仕掛ける。木曽義昌の恐怖心を煽って福島城に退却させる。秋山虎繁が単独になれば攻め込むのは不可能だ」


「直ぐに準備を始めます」


信行は南蛮銃を前面に押し出して武田勢に対して攻撃を始めた。予想通り木曽義昌は恐怖心に駆られてしまい秋山虎繁の命令を無視して福島城に退却した。最初の攻撃で多数の兵士を失っている義昌にしてみればこれ以上兵士を失えば福島城の守りが覚束なくなる事と虎繁率いる部隊の盾代わりにされるのは御免だという考えがあった。


「敵陣は混乱しているようです」


「こちらの思惑通りになった。この隙に岩村城まで後退する」


信行は混乱する武田勢を尻目に退却を始めて被害を受ける事なく無事に岩村城まで後退した。対する武田勢は多数の負傷者を出した事で西下する事が不可能となり福島城への退却を余儀なくされた。

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