第75話 攻城兵器

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=====


岩村城に向かった筈の信行は目的地を通り越して街道上で行軍を停止した。


「直政、尾張の将兵を全て預ける。ここで武田勢を食い止めてほしい」


「お任せ下さい。この付近は道幅が狭くなっているので武田も一気に攻め寄せる事は不可能です」


「頼むよ。岩村城は私が何とかする」


「治部卿様、尾張守様よりお預かりした物はどうされますか?」


「使い道は考えているから私が持っていくよ」


直政に武田勢迎撃を任せて信行は直率の将兵を率いて岩村城に引き返した。


*****


岩村城に到着した信行は城門を封鎖すると軍使を送り込んで降伏勧告を行った。実権を握る遠山家臣は勧告を拒否して籠城を選択した。


軍使が敵側と交渉を行っている最中、城内に潜入して状況を探っていた服部正成も日が落ちてから本陣に戻ってきた。


「叔母上と御坊丸は?」


「城内にある蔵に閉じ込められております」


「やはり幽閉されたか」


「下手をすれば城攻めを断念させる為に利用されるのでは?」


「間違いなく利用される。要求を拒めば二人共殺されるだろうね」


「それでは敵の要求に従うつもりですか?」


「従うつもりは毛頭ないよ。二人を助けた上で城も落とす」


「夜襲を用いるのですか?」


「いや、今回は面白い物を使って城を攻める」


「面白い物?」


「付いてくれば分かるよ」


信行は正成を伴って荷駄が集積されている場所に向かった。


*****


「これは?」


「城攻め用の兵器だ。南蛮銃を見本にして作ったのは僕だけど、実戦で使用出来るように改良したのは喜六郎(秀孝)だよ」


「大筒と言えば宜しいのでしょうか?」


「そうだね。弾も見ての通りだよ」


正成が見た物は南蛮銃を土台にして作り上げた大砲である。信長の指示で信行が開発に取り組んで完成まで漕ぎ着けたが、遠江攻略と上洛に手を取られて改良まで手が回らなくなり作業は停滞していた。その時に偶々三河で修行していた秀孝の目に止まって作業を引き継ぐ事になり、試射を重ねて実戦で使用可能な状態に仕上げられた。


「これを使えば困難な城攻めも…」


「ある程度は簡単になると思う。今回はこれを使って敵の目を引き付けた隙に二人を助け出す」


「承知致しました」


「長政(浅井長政)」


「はっ」


「青母衣衆五百を率いて搦手に向かい、合図があるまで姿を隠しておけ。攻撃が始まって二人が外に出て来たら城内に攻め込め」


「承知致しました」


「正成、長政の攻撃に合わせて城内に火を放て。それに合わせて誰々が裏切ったと言い触らしてくれ」


「心得ました」


信行から明朝攻撃開始の指示が出された事で本陣内の動きは慌ただしくなった。


*****


明朝夜明けと共に始まった大筒による砲撃で岩村城は本丸や大手門が損傷して城内は大混乱に陥った。於都耶と御坊丸が幽閉されている蔵を監視していた兵士が砲撃による被害を確認する為に持ち場を離れた。


兵士が居なくなった後、正成率いる服部党は蔵に近付くと鍵を破壊して二人を助け出して搦手に向かった。敵兵に見つかる事なく搦手に辿り着いた正成は搦手を開門して城外に脱出した。


「服部殿、後はお任せ下さい」


「忝い。内部に残っている者が間もなく火を放ちます」


「心得ました」


「それでは」


正成の姿が見えなくなるのを見届けた長政は刀を抜いて青母衣衆を見据えた。


「目標は大手門だ。砲撃に当たらないよう本丸には近付くな」


「応!」


「前へ!」


長政と青母衣衆は気勢を上げながら搦手より城内に突入した。


*****


正成に助け出された於都耶と御坊丸は織田勢本陣に到着すると信行が指揮を執る場所に案内された。


「叔母上、ご無事で何よりです」


「勘十郎殿ですか?」


「はい。織田信秀が三男、織田勘十郎信行です」


信行と於都耶は十年ぶりに顔を合わせた。於都耶が遠山景任に嫁ぐ為に那古野城を離れて以来である。信行は於都耶の顔を覚えていたが、於都耶は記憶が定かでは無い様子だったので信行は分かるように名乗りを上げた。


「此度は家のゴタゴタに巻き込んでしまい…」


「叔母上、お気になさらないように。岩村城は織田にとって重要な場所です。何かあれば手を貸すのは当然の事」


「そう言って貰えると助かります」


「取り敢えずあちらでお休み下さい」


「御坊丸も叔母上と共に休まれよ」


「ありがとうございます」


二人は兵士に案内されて休息を取れる場所に向かった。二人の姿を見た信行は幽閉されただけで怪我をしていない様子だったので安心した。

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