第40話 野辺送り(1563~1564年)修正版

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2024.12.17修正


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帰国準備の最中、下間頼旦から堅田の件について報告したいと申し出があったので信長は急遽対面の場を設けて信行を同席させた。


「堅田とは交渉の余地無しか」


「はい。本福寺も会合衆と関係が良くないので僧侶たちも居心地が悪いと申しておりました」


本福寺を通じて会合衆に交渉を持ち掛けたが、話し合う事なく拒否された。本福寺も一向宗というだけで会合衆から警戒されるという不利な面もあった。


「会合衆は単なる領民ではなく支配者です。織田家に従わない以上、厳しい対応を取るしかないでしょう」

「強硬手段に出るしか無さそうだな」

「ご期待に添えず申し訳ございません」

「貴殿には感謝している。本福寺にも骨折りに感謝すると礼を伝えてくれ」


頼旦が部屋を出た後、二人はそのまま残って今後の対応について話し合って会合衆排除を目的に堅田へ一軍を派遣する事を決めた。


*****


信行は帰国する準備を済ませると近江を離れて東へ向かった。頼旦は信行に同道して長島願証寺に戻るが、北畠具房は自ら申し出てしばらく観音寺城に留まる事になったので信行に晴具宛の手紙を預けた。信行は北畠の本拠地大河内城を経由して三河に戻る事になったので往路と同じ道を通り北伊勢に向かった。富田で頼旦と別れた後、伊勢街道を南下して大河内城に到着した。


「城の雰囲気が暗いように見えますが、何かあったのですか?」

「治部殿は気付いていたか。三日前に具教が亡くなってな…」

「そうでしたか。お悔やみ申し上げます」


病に臥せていた北畠具教が亡くなった影響で城内は慌ただしくなっており、最期を看取った晴房も憔悴した表情を見せていた。信行は慌てて観音寺城に早馬を仕立てるよう塙直政に指示を出そうとしたら晴房に止められた。引っ込み思案の具房が自ら言い出した事を邪魔したくないという親心から来ていた。この件は具房の帰国を待って伝えるので一切の手出しは無用だと止められた。


「このような時に伝えて良いものか分かりませんが」


織田と北畠の関係を強固にする意味で信長の妹を具房に嫁がせて同盟を結びたい事を伝えた。具房は同意しているが、晴具と具教の許可を得なければならないと条件を出した事も付け加えた。


「返事はしばらく待ってもらえるか?」

「心得ております」 


話が終わると信行は葬儀に出席したいので大河内城にしばらく滞在したいと申し出た。晴具は信行の都合も考慮して気遣い無用と伝えたが、縁戚関係になるのだからその誼で何とか認めてくれと頭を下げられたので最終的には首を縦に振り承諾した。


*****


「伊勢神宮参拝と周辺地域の視察を行う事になったと伝えてくれ」

「承知致しました」

「それと北畠参議の件は口外無用だ」

「心得ております」


安祥城を長期不在にしている水野信元を先に戻らせる事にして岡崎への伝言を預けた。


「直政、手が空いている者は全員北畠の手伝いに回して構わない」

「承知致しました」

「私から家老の藤方朝成殿に話は通しておく」


信行の護衛役として引き続き滞在する直政には出来る範囲で手伝うように指示を出して多忙を極める北畠家臣を手助けした。信行自身も父信秀の葬儀を信長の代理として取り仕切った経験があるのでそれを活かして晴具を助けた。


*****


葬儀が一通り終わった後、晴具は朝成を同席させて信行の慰労を行った。


「治部殿のお陰で無事に終える事が出来た」

「迷惑になっていないか心配でしておりました」

「相変わらず謙虚だな」


具教が亡くなり手が付かなかったところに信行が偶然現れて手助けしてくれた事で葬儀に関わる一連の儀式が滞りなく終わったと二人は思っていた。


「縁談の件だが了承するので話を進めて貰いたい」

「ありがとうございます」

「織田家には色々助けられている。これ位では返したうちに入らん」


都落ちして廃れつつある公家に対して破格の援助を行う者を裏切れば末代までの恥であり、先祖代々にも顔向け出来ないのは明白である。北畠は織田と共に在る事を宣言する事で同盟関係を悪化させようとする者には一切容赦しないという姿勢を内外に見せた。


「実は願証寺に南尾張四郡を条件付きで譲る事になりまして」

「条件付き?」

「一向宗ではなく浄土真宗として活動する事です」

「願証寺は石山とは一線を画しているが…」


住職の証恵が石山の本願寺証如と懇意な関係である事を知る晴具は上手く行くとは思えないと懐疑的な考えを持っていた。


「下間頼旦殿が証恵の首を縦に振らせると申しておりましたので期待しております」


側近であり僧兵の長を務める頼旦が何とかすると言っている事を聞いた晴具は考えを改めた。


「朝成、我々も条件付きで土産を渡してやるか?」

「員弁郡を譲るのはどうでしょうか?あの地は願正寺の影響力が強い所ですし」

「それで良いだろう。治部殿、手間を取らせるが頼まれてくれるか?」

「承知致しました」


晴具は願証寺が一向宗ではなく浄土真宗として活動するなら喜んで協力すると信行に伝えた。帰属がはっきりしない員弁郡について願証寺の態度次第で割譲する事は吝かではないと付け加えて間接的だが頼旦の後押しをした。

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