第39話 褒美(1563年)修正版

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2024.12.17修正


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六角討伐を終えて近江の大部分を手に入れた信長はは占領地域の治安維持を名目に六角や浅井の残党狩りを行っていた。


「兄上、我々に出来る事が無ければ三河に戻らせて頂きたいのですが」

「遠江か?」

「三河の復興に目処が付く頃なので」

「そうだな」


信行が率いている別働隊も結構な人数を抱えているので兵糧や金銭も必要である。信長が全て負担しているが長期に及べば本国(美濃と尾張)にも影響しかねない。信行も遠江侵攻の準備を始めようとした矢先に三河を離れたので状況確認する為に帰国する必要があった。


「上洛するなら相応の準備が必要になります。それに北畠と願正寺も体制を整える必要があるでしょう」

「なるほど」

「私も遠江が片付けば上洛に同行するつもりです」

「此度は近江と伊賀を手に入れた事で矛を納めるか。勘十郎、上洛まで遠江を何とかしておけよ」


信長の許可が出たので信行は北畠具房と下間頼旦に近江制圧の目途が付いたので帰国する準備を始めるように伝えた。


*****


帰国を翌日に控えた夜に北伊勢と伊賀の制圧に功績を挙げた北畠と願証寺に礼を伝える為に宴席を設けた。別動隊の総大将を務めた信行もその席に呼ばれた。


「此度は貴殿らの協力に感謝申し上げる」

「頭を下げられては困ります」

「その通りです」


信長が頭を下げたので具房と頼旦はどう返せば良いか分からず顔を見合わせた。


「兄上、頭を上げないと話が前に進みませんよ」

「確かにその通りだ」


見かねた信行が助け舟を出すように信長へ伝えたのでようやく頭を上げた。同席していた織田家臣は信長の態度に驚いてざわついた。人に頭を下げる事は滅多にしない事のでそうなるのも無理はなかった。


「治部少輔が伝えた通り、北畠家には伊賀を譲渡する」

「主晴具に成り代わり御礼申し上げます」


伊賀を制圧した時点で北畠には伊賀を譲る話をしており、晴具も了承していた。


「願証寺には石津・多芸・海西の三郡と安八郡の南部を譲渡する」

「有り難くお受け致します」


尾張南部は帰属が曖昧になっていたので那古野から派遣された郡の代官も対応に苦慮しており、問題が起きる度に那古野にお伺いを立てるなど手続きが煩雑になっていた。


「兄上、此れで懸案事項は無くなりましたね」

「まだあるのだが…」

「例の件は改めて話をした方が良いでしょう」


周囲が賑やかになる中で信長と信行は顔を寄せて話をしていた。


*****


宴席がお開きになった後で具房と頼旦は別室に案内された。部屋には信長・信行に加えて丹羽長秀と塙直政の姿もあった。


「人が多く居ると話しにくい事もあるので場を変えさせてもらった」

「話しにくい事と申しますと?」

「具房殿に妹の市を嫁がせたい」


近江に向かう前に信行が提案したもので政秀に諮問したところ、公家に影響力のある北畠家を後ろ盾に出来るなら是非進めるべきだと賛成したので具房本人に提案した。


「祖父と父の許しを得なければなりませんが、某はお受けしたいと思っております」


具房はいつものように思案してから口を開いた。疎遠だった願証寺と繋がりが持てた事に加えて伊賀一国を譲られたので話を断れば北畠の立場を悪くすると考えて了承した。


「良い返事を待っているぞ」


当主の北畠晴具は上洛出来る機会を与えてくれた織田に対して恩義を感じているので断る事は無いだろうと信行から聞いていたので信長も笑みを浮かべていた。


「頼旦殿、願証寺証恵殿に織田領内において浄土真宗の布教を認めると伝えてくれ。但し法度には従ってもらう事になるが」


織田家は信長と信行がともに宗教嫌いで通っているので布教は困難と言われていた(信行は山岳信仰なので厳密に言うと宗教嫌いではない)。加えて願証寺が一向宗である事から布教許可が出る可能性は限りなく低かった。


「寺に持ち帰り検討させて頂きます」


一向宗は浄土真宗の一派なので根本は同じだが過激な思想で一揆などの騒乱を引き起こして面倒な存在になっている。織田家が一向宗ではなく浄土真宗での布教を許可した事に意味があった。願証寺が法度を遵守した上で浄土真宗の教えに基き真っ当な活動をしていれば領内での安全も保証すると信長自身から言質を得た事になる。


頼旦も住職の証恵と同じく王法為本の教えを守る事が一向宗を存続させる方法だと考えているので過激な思想に傾きつつある石山本願寺と距離を置く方向で証恵を説得すると約束した。

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