第38話 六角家滅亡(1563年)修正版

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2024.12.17修正


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信行は南近江を抜けると観音寺城近くに本陣を構える主力部隊に合流して信長と対面した。


「勘十郎、意外と早かったな」

「正保の功績大ですよ」

「三太夫から聞いている」


伊賀を制圧した信行は南近江に向かい、甲賀郡に差し掛かった所で六角家臣の三雲定持が待ち構えており戦闘になった。そこに駿河・遠江での役目を服部党に引き継いだ藤林正保率いる伊賀忍が合流した。信行の要請を受けて正保は敵陣に入り、定持に接触すると織田側に付くよう説得を行った。


定持は領地安堵を条件に降伏した上で甲賀郡を根城にしている甲賀忍も説き伏せて織田に臣従させた。その後は定持の先導で日野郡に入ると蒲生定秀以下南近江の六角家臣を悉く配下に加えた上で観音寺城に迫った。信長率いる主力部隊は一足早く観音寺城下に到着して城を包囲しており、信行率いる別働隊は城下に入ると主力部隊に合流した。


「六角義賢に降伏を促しているが無視を決め込んでいるな」

「おそらく幕府を頼るつもりでしょう」

「長秀に命じて主な街道の封鎖は済ませている。三太夫にも警戒させているから大事に至る事はないだろう」


籠城して時間を稼げば幕府から停戦の仲介が入り危機を脱せると踏んでいた義賢は降伏勧告を跳ね除けた。軍監の竹中半兵衛は義賢の考えを読んでおり、信長に進言して網の目を張り巡らせた。


「甲賀忍を使って籠城出来ないように手を打ちませんか?」

「構わんが何をするのだ?」

「城内にある兵糧を焼き払います」

「上手く行くか?」

「だから甲賀忍を使うのですよ」


信長の指示を受けた甲賀忍は城内に潜入して兵糧庫に火を付けた。好天続きで乾燥していた事が災いして火の回りが早く兵糧の大部分が焼けて使い物にならなくなった。数日で兵糧不足に陥って兵の士気は低下、城から抜け出して織田に降る者が続出した。


*****


「六角義賢と義治親子が城から逃げたぞ」

「しぶとい連中ですね。降伏すれば沙汰も軽くで済んだものを」


六角親子が脱出した事で統制が取れなくなった六角軍は武器を捨てて降伏、織田軍に観音寺城を明け渡した。


「逃げたところで三太夫の網に掛かるのは時間の問題だろう」

「捕まった後の言い訳を聞くのが楽しみですよ」


信行の顔が何か企んでいる時と同じだったので信長は好きにやらせてやろうと考えて何も言わなかった。


「これで近江の大半が手に入ったな」

「問題は湖西地域の残存勢力をどのように扱うかですね」


琵琶湖西岸には比叡山延暦寺と坂本、商人が牛耳る堅田湊、高島七頭と呼ばれる豪族集団の支配下にある高島郡がある。そちらへの対処方法を間違えると上洛そのものに影響する恐れがあった。


「高島七頭は朝倉と結び付きがあると聞いているから潰す方向で考えているが」

「延暦寺は皇族と関係があるので今のところは放置するべきです」

「後は堅田だな」

「堅田には一向宗の寺があると聞いております。下間頼旦に交渉の余地があるか探りを入れて貰いましょう」


堅田については無視する・手を組む・潰すの選択肢がある。堅田には一向宗の本福寺があるので頼旦を通じて探りを入れる事になった。


*****


信行は正保に呼ばれて甲賀に来ていた。信長には甲賀郡で野盗が出没しているので自ら対処すると伝えていた。


「この二人が六角義賢と義治なのか?」

「間違いありません」


六角親子は観音寺城を脱出してから西へ逃げようとしたが要所を厳重に警戒されていたので一旦南に向かい甲賀郡に入った。地元有力者の手を借りて伊賀越えを行い今川領まで逃げようと画策していた。しかし国を失った六角親子に手を貸すような奇特な者は一人も居らず、助けを求められた際に拘束して三雲定持に通報した。


「どうされますか?」

「生かしておくと後々厄介なのだよ」


二人を生かしておけば幕府が六角の復権を画策して織田に対して討伐命令が出される可能性も十分に考えられた。


「やむを得ませんな。某が殺りましょう」

「私が殺るから死体を街道沿いに捨て置いてくれ」

「心得ました」


信行は刀を抜いて六角親子に近付いた。二人は手足を縛られているので逃げられず、身体をくねらせる事しか出来なかった。


「悪かった。助けてくれ!」

「何でも言う事を聞く」

「既に手遅れだよ。兄上の要請を受けていれば良かったものを」


甲賀郡で身元不明の遺体が二体見つかった。遺体が運び込まれた寺に偶然居合わせた三雲家の関係者が六角義賢に似ていると言い出した事から騒ぎになり、三雲定持が急遽現地に向かい確認したところ六角親子だったので観音寺城に知らせた。


*****


「六角親子が見つかりました」

「どこに隠れていた?」

「甲賀郡ですが、見つかったのは死体でした」

「死んでいたのか…」

「見つけた者の話では物盗りの仕業だろうと」


持ち物の中から金銭が見つかっていない事から、逃げている途中で野盗に襲われて金銭を奪われたという事で調査は終了した。


「大和経由で都に向かうか、伊勢湾を渡り駿河に向かうつもりだったのでは」

「足利公方か今川に助けを求める考えだったか…」

「このような言い方は不謹慎でしょうが、野盗に感謝しなければなりませんね」

「そうだな」

「三雲定持と蒲生定秀には領内の巡視を強化するように命じておきました」

「済まんな。下がって良いぞ」


信行が部屋から出て行った後、信長は何とも言えない表情でため息を付いた。六角親子を始末したのは信行である事を察していたが、敢えて何も言わず知らない振りで通す事にした。

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