第37話 伊賀・北近江制圧(1563) 修正版
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2024.12.8修正
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北勢四十八家を壊滅させた織田勢別働隊は伊賀国に侵入して六角支配下の阿拝郡と山田郡、仁木支配下の伊賀郡を相次いで制圧。伊賀全域を支配下に組み込んだ。
「伊賀は北畠家にお任せする」
「それは」
「織田と北畠がそれぞれ京都に出る手段を持つべきだと御館様が判断されての事。その内容で大納言様にお伝え頂きたい」
「承知致しました」
具房と満栄は申し出を固辞しようとしたが信行は聞き入れず伊勢の晴具に遣いを出すようぬと押し切った。伊賀の件を知らされた晴具は驚いて断りを入れようとしたが、別に送られてきた信行からの手紙を読むとやむを得ない事情が出来たと申し出を受け入れる返事を出した。
*****
伊賀の仕置きを行っている具房を手伝う信行に手紙が届けられた。
「兄上が北近江を制圧された」
「おめでとうございます。浅井は降伏しましたか?」
「最期まで抵抗したらしい。嫡男賢政はいち早く降伏したが、当主久政は頑として譲らなかったそうだ」
「朝倉の助けが来ると信じていたのでしょうか?」
その場に居合わせた直政は浅井家と朝倉家が友好関係にあった事を知っていたのでそれが理由だと考えた。
「それもあるが、浅井久政は我々を嫌っていたのが一番の理由だ」
「嫌われる理由が思い付きませんが…」
「正保から聞いた話なのだが、我々の事を成り上がりだと馬鹿にしていたようだ」
「京極から北近江を簒奪した浅井がそのような事を?」
「私も直政と同じ思いだよ」
織田も斯波から尾張を簒奪しているので後ろめたい部分がある。同じ行為をした浅井からその事を言われるのは侮辱以外何物でもなかった。
「嫡男賢政の扱いが気になりますが」
「開戦直後に降伏したと聞いている。沙汰も軽いものになると思う」
「噂では中々の器量を持っていると」
「そのようだね。兄上も使い所があると判断して受け入れたのだろう」
信行は具房と頼旦を自陣に招いて北近江制圧が終わった事を伝えた。
「朝倉が動かなかったのは意外でした」
「確かに」
「意外ではありませんよ」
「下間殿?」
頼旦の思わぬ答えに二人は驚いた。
「越前に居る門徒から聞いた話なのですが」
頼旦は少し前に越前を訪ねており、その際に朝倉家の内情を知る門徒から聞いた話を二人に伝えた。当主の朝倉義景は家宰を務めていた朝倉教景(宗滴)が亡くなってから芸事に力を入れるようになり、政務については敦賀郡司の朝倉景紀と大野郡司の朝倉景鏡が分担して行っていた。
利己的な景鏡は権力を握る為に景教の追い落としを画策したが、景鏡自身が他の家臣から嫌われている事から上手く行かず狙いを義景の籠絡に切り替えた。甘言に乗せられた義景は景鏡の言葉を盲目的に信用するようになり、景紀は次第に遠ざけられる形になった。
浅井が織田に攻められた事を知らされた景紀は救援する為に必要な増援を求める使者を一乗谷に送ったが、景鏡に握り潰されて義景の耳には届かなかった。痺れを切らした景紀は嫡男景垙を一乗谷に送り込んで義景に直談判させたが、本人は事の重大性を理解しておらず景鏡に任せると言ったきり一切口出しをしなかった。
景鏡は浅井を助けたところで何の得にもならないとして救援要請に応じないと景垙に通告した。一連の話を聞いた景紀は自分だけでも兵を出すべく敦賀を出発しようとしたが小谷城陥落の知らせが届いたので断念せざるを得なかった。
「朝倉景鏡か…。越前を攻める時に利用出来そうだね」
「治部少輔殿?」
「権力を握りたい願望があるなら手助けしてやると言って上手く動かしてやるんだよ。切りの良い所でこちらが根刮ぎ頂いて景鏡には消えてもらう」
「欲というのは限りがないので深みに嵌まれば抜け出せなくなりますね」
「景鏡は既に深みに嵌っている。越前を手に入れる欲望を精々満たせばいい。後で待っているのは全てを失うという地獄だ」
*****
北近江侵攻の陣頭指揮を執っていた信長は小谷城を落とした後、佐和山城に拠点を移して六角との戦いに備えていた。その最中に信行から伊賀を攻め落とした旨の知らせが届いたので上機嫌だった。
「流石は勘十郎だ。こちらの動きに上手く合わせている」
信長は丹羽長秀を呼び寄せると手紙を見せた。
「北畠勢と下間勢も功績を挙げているようですね」
「さり気なくやるのが勘十郎らしい」
「どういう事でしょうか?」
「五郎左(長秀)でも分からんか。勘十郎は北畠と下間の力量を見極めているのだ」
「なるほど。使い物にならなければ置物扱いをするわけですか」
「勘十郎は俺と違って露骨にやる事はない」
長秀は何と返したら良いのか分からず苦笑いして誤魔化していた。
「五郎左、今から話す事は口外無用だ」
「分かりました」
「勘十郎は北畠家と具房の事を大いに買っていてな。市を嫁がせて関係を強化するべきだと言っている」
市は信長と信行の同腹妹である。母に似て気が強く、信長ですら手を焼く時がある程のじゃじゃ馬である。
「上洛すれば大納言の地位にある北畠晴具の権威は公家との交渉では大いに助けとなりますが…」
長秀も市の事を良く知っているので性格が合わなければ大変な事になると考えた。
「心配するな。勘十郎によれば北畠具房は物静かで思慮深い性格らしい」
「勝ち気な性格のお市様なら合いそうですな」
「性格が真反対だから上手く行くと勘十郎も言っている」
「某は話を進めるべきだと思います」
「爺(政秀)の意見を聞いた上で最終判断を下す」
腹心の長秀も賛成したので信長は岐阜に残る政秀に遣いを出して北畠との婚姻同盟を検討するようにと命じた。
*****
【登場人物】
浅井賢政
→1545年生まれ、浅井家嫡男
浅井久政
→1524〜1563、浅井家当主
朝倉義景
→1533年生まれ、朝倉家当主
朝倉教景
→1477〜1560、朝倉家臣
朝倉景紀
→1505年生まれ、朝倉家臣
朝倉景鏡
→1529年生まれ、朝倉家臣
朝倉景垙
→1544年生まれ、朝倉家臣
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