第36話 憂さ晴らし(1562) 修正版
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2024.6.25修正
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先鋒を任された水野信元は八風峠に到着すると明智光安から出発前に預かった南蛮銃を準備した。
「御大将、南蛮銃が必要ですかね?」
「西国では南蛮銃を持つ勢力が増えていると軍監殿が言っていた。国人衆は持っていないと思っていたら痛い目に遭うぞ」
「も、申し訳」
「謝るのは後にしろ。攻撃を始めるぞ」
「撃て!」
信元が軍配を振り下ろすと南蛮銃が火を吹いた。
その攻撃を受けた梅戸高実率いる四十八家の将兵が次々と倒れた。
その直後に梅戸側から叫び声に続いて南蛮銃の発射音が聞こえた。
「御大将の言った通りだ」
「言ったのは儂ではなく軍監殿だ。よく覚えておけ」
「敵は混乱していますが、どうします?」
「絶好の機会を逃す気か?」
「冗談じゃありませんよ。念の為に聞いただけですって」
驚く家臣を笑い飛ばすと信元は刀を抜いた。
「狙うは梅戸高実の首だ!」
水野勢は血に飢えた獣の如く梅戸勢に襲い掛かった。
梅戸勢が蹴散らされると他の四十八家を標的にして暴れ回った。
敵総大将の梅戸高実は信元に討ち取られた上に他の四十八家の当主も後詰めに入った北畠勢と下間勢に悉く討ち取られた。
八風峠の戦いは予想に反して半日も掛からず終結した。
*****
信元の帰還を待っていた信行は大勝の知らせを聞いていたので笑顔を見せていた。
「凄まじい暴れっぷりだったね」
「正直に申し上げますが、暴れ足りませんな」
安祥城で三河攻めの後方支援を務めていた信元は武功を挙げる機会を求めていたので今回の戦いに満足していた。
しかし参陣を認めた信行と光安の恩に報いる為にもうひと暴れしてやろうと考えていた。
「近江に入るまで我慢してほしいところだけど…」
「心得ております」
自分一人が目立てば北畠と下間が割りを喰う事を分かっているので信元は一旦控えて近江での決戦に備える事にした。
「治部少輔様、残存勢力への掃討は?」
「北畠殿と下間殿にお任せしたい」
「心得ました」
「承知致しました」
四十八家の残党については疲労の少ない北畠勢と下間勢に任せる事にした。
北畠勢には塙直政率いる青母衣衆を、下間勢には滝川勢を後詰めに付けて万全を期した。
*****
北畠勢と下間勢は八風街道周辺を隈なく見回り四十八家の残存勢力を掃討した。
両軍勢を出迎えた信行の前に北畠勢の軍監を務める鳥尾屋満栄が見知らぬ者を伴い現れた。
「鳥屋尾殿、そちらの方は?」
「梅戸高宗殿です」
高宗は先の戦いで討ち死にした梅戸高実の嫡男である。
生来病弱だったので一族から厄介者として疎まれており家督も実弟が継いでいた。
「梅戸高宗と申します。六角義賢の甘言に惑わされて身の程を弁えず戦を仕掛けた事のお詫びに参りました」
「戦を仕掛けたのは梅戸高実であって貴殿は無関係です。気にする必要はありませんよ」
「それでは申し訳が立ちません」
高宗は四十八家大敗の知らせを聞いて病床を無理やり抜け出して北畠勢に接触した。
高宗の名を知っていた満栄が対面して事情を聞いたところ本人だと判明したので保護されて信行と対面する事になった。
高宗は信行に謝罪した上で自刃して梅戸家嫡男の義務を果たそうと考えていた。
「北畠殿、良い知恵はありませんか?」
「梅戸殿には養生に努めて頂きましょう。体調が良くなれば四十八家の纏め役として朝明郡を治めてもらいます」
具房はしばらく思案した後、四十八家が事実上治めている朝明郡を高宗に任せる案を出した。
「名案ですな。長年懸案していた事が収まるので御館様も喜ばれるでしょう」
「という事だ、高宗殿。責任を感じて自刃するのは簡単だが、後に残された者が梅戸家不在に乗じて主導権争いを始めたらこの地は再び地獄を見る事になるぞ」
この地が再び手入れされる時は今回以上に苛烈な手段を取ると警告した。
「分かりました。北畠家の指示に従いまして朝明郡に争いが起きないよう微力を尽くします」
「今は無理をせず養生に努める事が高宗殿の役目と心得られよ」
「承知致しました」
信行と具房による暗黙の連携で北勢四十八家は梅戸高宗を総領とする体制で落ち着く事になる。
北畠に加えて願証寺も監視役に加わったので体制を覆そうとする者は現れなかった。
*****
【登場人物】
梅戸高宗
→1535年生まれ、北畠家臣
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