第32話 今川も武田も北条も(1561) 修正版

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2024.6.17修正

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今川が武田と北条を巻き込んで三河奪還に動くと思われたが、曳馬城に留めていた軍勢を東に向けるなど撤退する構えを見せていた。

信行は今川による目眩ましだと見て要衝に援軍を派遣していた。


「岡崎から知らせが届いたが、武田と北条に動きは無いようだ」

「一斉に動くと見ていましたが…」


吉田城の佐久間盛次は援軍として訪れた石川数正と情勢を話し合っていた。


「本当に動く気が無いのか、こちらの油断を誘っているのか。狙いが分からんな」

「こちらから誘ってみますか?」


数正は吉田城の西方にある高天神城跡に兵糧庫を設ける事を提案した。

典型的な山城なので飲み水の確保さえ出来れば長期間の籠城も可能だった。

今川領内にある事から織田にとって敵中に打ち込んだ楔、今川にとって獅子身中の虫となる。


「それなりの量を運び込めば、遠江に対する大規模攻勢があると思われるだろうな」

「三河を取って勢いに乗っていると今川が考えてくれたら儲けもの」

「出て来なければどうする?」

「その時は吉田城と田原城の兵糧庫として利用します」

「名案だな。盛重を呼んで手伝わせよう」


田原城の佐久間盛重と酒井忠次は要請を受けて早々に吉田城を訪れた。


「良い案だと思う。私が兵糧庫を築くので石川殿は岡崎に戻って治部少輔様に説明してほしい」

「分かりました」


話を聞いた盛重は数正の策に賛成して役割分担を決めて自身は吉田城に留まり高天神城跡に兵糧庫を築き始めた。

数正は岡崎に戻り、信行に詳細を説明して兵糧の確保を行った。

盛次と忠次は居城の守りを固めて敵襲に備えた。


*****


「石川数正は切れ者だな」

「どういう事です?」

「これを読んでみろ」


長篠城の柴田勝家は信行からの手紙を読み終えると同席している前田利家と大久保忠員に見せた。


「喰い付きますかね?」

「喰い付かなくても良いのです」

「それなら意味が無いんじゃ?」


忠員は利家に地図を見せて今川の動きに関係なく数正の策が成り立つ事を説明した。


「確かに切れ者だ」

「今川が動いて武田が呼応すれば良いが」

「どうせならこちらから仕掛けませんか?」


待つのは苦にならないが、実際に来なければ面白くないと考えた利家は積極策を提案した。


「甲斐に攻め込めば治部少輔様に叱責されるぞ」

「やってみる価値はあると思います」

「大久保殿?」


忠員が利家の肩を持つ発言をしたので勝家は驚いた。


「国境まで動いて攻め込むぞと思わせるだけです。武田は動くに動けなくなるでしょう」

「面白くなってきた!」

「座して待つより自ら動くか…。利家は準備を始めておけ。治部少輔様の許可が出たら直ぐに動くぞ」


*****


盛次と勝家が前後して許可を求めてきたのでその手紙を読んだ信行は思わず苦笑した。


「どうしたものかな」

「武田と今川の出鼻を挫く意味でやっておくべきだと思われます」

「戦力は別にして即応出来る姿勢を内外に示しておけば連中も自重するでしょう」

「佐久間殿と柴田殿が動くのに足並みを揃えないのは失礼に当たります」


信行に呼ばれて岡崎に来ていた山口教継は水軍も動きたいと伝えた。


「動けるか?」

「駿河は教吉に任せて某は伊豆に向かいます」


教継は北条の伊豆水軍が今川に呼応して動くと考えていたので嫡男教吉が指揮する知多水軍に駿河水軍を牽制させている隙に伊豆へ向かう策を伝えた。


「水軍については服部党でも調べきれない事がある。無茶な事はしないでくれ」

「挨拶程度に抑えておきます」


教継は河和から教吉を呼び寄せると駿河水軍への対応を任せて自身は伊豆に向かった。


*****


「武田と今川は共に大敗を喫した模様です」

「上手く引っ掛かりましたな」

「今川にとって大きな痛手だよ。朝比奈泰能と岡部親綱を三河で失い、太原雪斎は病死、遠江の戦力は激減だからね」


今川は今回の敗戦で他国を攻める戦力を失ったので防衛に専念せざるを得なくなった。


「武田や北条が裏切れば危機に陥りますな」

「武田は越後の長尾と争っているので裏切るとは思えませんが」

「油断すれば足元を掬われるから警戒は必要だ」


武田晴信は湊がある海岸部を欲している事から今川の支配を離れた三河を簡単に諦めるとは考えにくい。

勝家には国境の警戒強化を継続する指示を出した。


「水軍も大勝したようだ」


評定中に蒲郡から使者が訪れて伊豆で海戦が行われて三河水軍が勝利した事が伝えられた。

教継率いる三河水軍は駿河湾で伊豆水軍を発見すると躊躇せず攻撃を開始した。

陸での戦いに慣れている三河水軍の兵士は敵船に近付くと次々に飛び移り、敵兵を撫で斬りにしていった。


「もう一押しのところで駿河水軍が来たらしい」


伊豆水軍の半数を沈めたところで今川の駿河水軍が現れたので教継は長居は無用と相手にせず退却した。


「北条も三河水軍が油断ならない相手だと理解したはずだ」

「これで遠江侵攻に専念出来そうですね」


武田と北条が痛手を被った事で三河奪還の希望が絶たれた上に遠江が危なくなった今川は大国から転がり落ちる事になった。


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