第29話 不気味な甲斐武田(1561) 修正版

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2024.6.11修正


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信行が内藤勝介と雑談している最中に信長からの手紙が届けられた。


「兄上も無茶な事を言ってくる」

「どうされました?」

「尾張を誰に任せるのが良いか教えろと」

「御館様は稲葉山に腰を据えられる事が本決まりに?」

「美濃に居れば動きやすいという判断だろうね」


信長は稲葉山城を制圧して以降、那古野に戻らずそのまま留まっている。

美濃に居れば多方面に睨みを効かせる事が出来るので本拠地も移す事になった。

帰蝶や斎藤道三夫妻を含めた一族はは早い時期に住まいを移しているので家臣団が住まいを移せば本格的に活動出来る状態だった。


「勝介は誰が適任だと思う?」

「御一族から選ぶなら信光様、家臣団から選ぶとすれば林秀貞でしょうか」


信光は先代当主である信秀の実弟で清須城を任されており、秀貞は城代家老として信長不在の那古野城を任されている。 


「今の状況を考えると秀貞だろうね」

「某は信光様と思いましたが」

「伯父上は大垣城に入ると思うよ。六角や浅井を相手にするなら即断即決出来る者でないと務まらないからね」


信行は稲葉山城の信長に返事を送った。

手紙を受け取った信長は平手政秀と話し合って信光を大垣城代に据えて対近江の防衛線として、秀貞を引き続き那古野城代に据え置いて美濃と三河の中継地点としての重責を担わせた。


*****


「一揆勢が甲斐に向かった?」

「攻勢を逃れた集団が居りまして、国境を越えて甲斐に入りました」

「甲斐に逃げ込むとは予想出来なかったよ」

「宜しいでしょうか?」

「構わないよ」

「一向宗の本願寺顕如は武田晴信の縁者に当たります」


本願寺顕如の妻である如春尼と武田晴信の妻である三条の方は姉妹である。

その関係で顕如と晴信は親交があり、北信濃の領有を巡って争っている長尾景虎を牽制する為に越中の一向宗に一揆を起こさせている。


「厄介な所に逃げ込んだね」

「一向宗弾圧への報復として三河に兵を向ける可能性があります」

「保俊、甲斐に人を入れる事は可能か?」

「武田の忍が少々厄介ですが、何とかやってみます」


武田お抱えの忍である甲州透破は暗殺や破壊行為に優れており、服部党も今川義元の指示で甲斐に探りを入れた際に襲撃を受けて被害にあった事もある。


「無理だと思ったら直ぐに止めて引き返すように厳命してくれ」

「承知致しました」

「保俊、今川の動きを教えてくれ」

「遠江の国境に兵を置いていますが、一揆勢の対応が主目的だったので近日中には駿河に引き返すようです」

「三河奪還の動きは?」

「現状無いと見て差し支えありません」


今川義元は三遠国境に兵を置いていたが、一揆勢が甲斐に向かったという知らせを聞いて駿河方面に退却させた。

太原雪斎に続いて朝比奈泰能と岡部親綱を失った影響は大きく、義元は三河奪還を当分見合わせると宣言して戦力回復に専念する方向で動き出していた。


「それでは我々も三河の国力回復に専念しよう」


*****


「不十分な所はありますが、津島や熱田の船は出入り可能です」

「これだけやってくれたら十分だよ」

「新しい拠点が出来たので皆喜んでおります」


蒲形の開発を任されていた教継は廻船の出入りが可能な湊を突貫工事で完成させた。

織田の支配下にある津島や熱田の商家が蒲形に店を構えて三河に金を落とす事になるので視察に訪れた信行も満足気な表情を見せていた。


「これを機に町の名を改めよう」

「よく分かりませんが、この地を西郡と呼んでいる者も居るようです」

「蒲形と西郡か…」

「蒲郡はどうでしょうか?」


信行が考えていると視察に同行している明智光秀が二つの地名を合わせた案を出した。


「良い名前ですな」

「それなら蒲郡と名を改めよう」


蒲郡は三河水軍の本拠地だけでなく、海上貿易の拠点として国府岡崎と肩を並べる規模に成長を遂げる事になる。


*****


「申し訳ございません」

「一人も失わずに済んだから気にするな」


甲斐国内を探っていた服部党の拠点が甲州透破の襲撃を受けた。

怪我人が出た程度で撃退したが維持困難と判断して三河に退却した。


「報復を目論む者も居りましたが尾張介様の命令だと伝えて断念させました」

「それで構わない。報復するなら服部党を抜けろと言って構わない」


服部党内部では報復を主張する者も居たが、信行が勝手な行動をするなと厳命していたので実際に動く者は居なかった。


「武田が我々の情報網を破壊したと考えたら何らかの動きがありそうだね」

「分かっている範囲になりますが、武田晴信は信濃で長尾景虎と睨み合いを続けております。北条は上総を攻めており、伊豆水軍も安房方面に出ています」

「今川は国力回復に専念しているか…」

「今の状況から推測するならば、三者が手を組んで三河に向けて動く可能性は低いと思われますが」


武田と北条が別方面に動いている事から今川を助ける為に三河へ向かうのは考えにくいというのが集まった者の考えだった。


「確かにそうだけど、何と言うか腑に落ちないんだよ」

「念の為に増援を差し向けるのはどうでしょうか?」

「何かあってからでは手遅れになるからね」

「それでは土地勘のある三河衆で段取り致します」


光安は大久保忠員や酒井忠次など三河出身者で構成された軍勢を長篠城と吉田城に向かわせると共に河和城の山口教吉に知多水軍を蒲郡へ向かわせる命令を出した。


*****


【登場人物】

武田晴信

→1521年生まれ、武田家当主

本願寺顕如

→1543年生まれ、一向宗宗主

如春尼

→1544年生まれ、本願寺顕如の正室

三条の方

→1521年生まれ、武田晴信の正室

長尾景虎

→1530年生まれ、長尾家当主

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