第28話 秀吉を説教する(1560) 修正版
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2024.6.11修正
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信行が岡崎城に入ってしばらく後、東三河に向かっていた別動隊から目標の制圧に成功したとの知らせが入ってきた。
「長篠城は勝家、吉田城は盛次、野田城は盛重、田原城は忠員にそれぞれ任せよう」
「蒲形はどうされますか?」
「教継に任せて規模を拡大させる。それと戸田の下に居た三河水軍を預ける。教吉は河和城に移して知多水軍を任せるつもりだよ」
「知多半島は尾張に属するので御館様と話し合いが必要になってきますな」
「そうだね。状況が落ち着いたら稲葉山に顔を出して兄上と調整するよ」
信行は補佐役を務める明智光安と相談の上で大まかな体制を整えると、鳴海から内藤勝介と木下秀吉を呼び寄せて本格的に三河の統治を始めた。
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信行支配下における三河の体制
当主:織田信行
家老:内藤勝介、明智光安
奉行:明智光秀、木下秀吉
城主:柴田勝家(長篠城)、佐久間盛次(吉田城)、佐久間盛重(野田城)、大久保忠員(田原城)、水野信元(安祥城)、山口教継(蒲形館)、山口教吉(河和城)
その他:前田利家、酒井忠次、石川数正、本多忠高、榊原長政、内藤正成
服部党:服部保俊、服部保長
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信行は光秀を伴って美濃稲葉山城に向かった。
斎藤義龍の目の前で騒ぎを起こして以来である。
「勘十郎、よくやってくれた」
「ありがとうございます」
「三河の様子は?」
「一向一揆や合戦の影響で広範囲に荒れているので復興には時間が掛かると思います」
三河で被害が少なかったのは安祥城から西側の地域だけで中三河については酷い有様だった。
「その状況で集めていないだろうな?」
「普通に考えても無理ですよ。今年は徴収しないと周知している最中です」
「それで構わん」
国内が荒れた状況で年貢を集めれば国一揆を起こされる可能性が強いので今年に関しては年貢を収める必要なしと信行は国内に周知させていた。
信行は三河水軍を組み入れての再編計画を信長に説明して知多水軍に関しては周辺地域を含めて信行に帰属させるとした。
「兄上、次はどちらへ?」
「お前ならどうする?」
「南に向かいます」
「相手は?」
「長島願証寺と北畠晴具です。厄介な相手なので今のうちに手を打ちます」
美濃から上洛するには中山道経由と東海道経由の二通り存在する。
中山道は美濃から直接近江へ抜けるので本来なら主要街道になるが、冬場は雪で足止めされる事があるので使いにくい。
東海道は南尾張から北伊勢を通り近江へ抜けるので一年を通じて利用可能であるが、北伊勢は一向宗の長島願正寺と伊勢北畠家の勢力下にあるのでこちらも使いにくい。
「一向宗は三河の一件があるからな。手を結ぶ気は一切ない」
「それなら長島を譲る事を条件に北畠と手を組むのはどうですか?」
「北畠と手を組めか…。ならば爺に動いてもらう方が良いな」
政秀は京都の公家と交流しているので北畠ともそれなりに面識がある。
その縁を利用して時限的でも良いので同盟関係を結べればと考えた。
*****
信長との話を終えて部屋を出た直後に帰蝶の侍女に呼び止められてそのまま帰蝶の居る部屋に連れて行かれた。
「ご無沙汰しております」
「元気そうで何よりです」
「三人目を身籠られたと聞いております」
「祝いの品は要らぬ。代わりにこの問題を解決してもらいたい」
帰蝶は数日前に届けられたという手紙を信行に渡した。
それは寧々が書いたもので中身を見て信行は驚いた。
自分に対する秀吉の態度が素っ気ない上に家を空ける事が多く、他に女を囲っているようだと書かれていた。
「これは一体どういう事か?」
「私の監督不行き届き…。申し訳ございません」
「早急に決着を付けるように」
「直ぐに対応致します」
「本来なら侍女として復帰させたかったが、秀吉と夫婦になるというから諦めた。寧々の手紙が事実ならば御館様に伝える事になる」
「心得ております」
信行は稲葉山での滞在を急遽取りやめて岡崎へ戻った。
信長には急用を思い出したので後日再訪すると書置きを残して慌ただしく出発した。
不審がる光秀には信長と帰蝶に叱責されない為に岡崎でやる事が出来たとだけ伝えて詳しい内容は一切語らなかった。
*****
信行は岡崎城に入るなり秀吉を呼び出した。
「秀吉、寧々と上手く行っているのか?」
「どういう事でしょうか?」
「二人の仲が良くないという噂が義姉上の耳に入ってね。責任を持って解決しろと直々に命じられた」
「…」
「解決出来なければ兄上に伝えると言われた。兄上が動けば私でも止める事は出来ない。理由は分かっている筈だ」
帰蝶お気に入りの侍女だった寧々の為だと、信長は寧々の実家である浅野家へ脅しに近い根回しを行って秀吉との祝言を承諾させた。
寧々が木下家から出ていくような事になれば信長の顔に泥を塗る事になる。
「正直に申し上げます。親しい女は居りますが疚しい関係ではありません」
「親しい関係にあるが疚しい関係でない?」
寧々が子育てで忙しくしている姿を見た秀吉は気を遣う意味で役宅で食事を取らず飯屋で食べるようになった。
そこの女中たちと顔馴染みになり、世間話など色々と雑談する機会が増えた。
それが原因で酔った状態で役宅に帰る事が増えたので寧々は外に女が居ると思い込んで今回の事態に至った。
「そういう事だったのか」
「申し訳ございません」
「城下に金を落としてやるのは良い事だと思う。しかし酒に酔ったまま帰るのは駄目だよ。酒を飲むなとは言わないけど家族を心配させるようなら飲まない方が良い」
「確かに…」
「寧々には事情を説明して謝らなければならない。それを確認してから姉上に手紙を出すようにする」
信行は服部保俊に頼んで秀吉の証言について裏取りをさせた。
女中たちは夫が一向一揆や合戦で命を落として行き場を無くしており、話を聞いた秀吉が自立の手助けをすると約束していた。
「寧々、済まなかった」
「最初から事情を説明してくれたら良かったのに」
「面目ない」
「これからは疑われる事をしないで下さい」
「分かった」
信行が同席する場で秀吉は寧々に頭を下げて誤解を解いた。
事情が事情だけに寧々も怒るわけにいかず矛を納める事にした。
秀吉は寧々が帰蝶と繋がっている事を知ったので馬鹿な真似をすれば首が飛ぶかもしれないと思い込んで生活態度を改めた。
後日この件を知った柴田勝家が秀吉の家に乗り込んで滾々と説教する一幕があった。
*****
【登場人物】
北畠晴具
→1503年生まれ、北畠家当主
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