第27話 岡崎城陥落(1560) 修正版

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2024.6.10修正


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岡崎周辺の平定を命じられていた明智光安が役目を果たして岡崎郊外に設けられた本陣に帰陣した。


「光安、思っていたより早かったね」

「三河衆が凄まじい働きぶりで。某はただ見ているだけでした」


三河衆と名付けられた松平旧臣は光安指揮のもとで一向衆寺院の破壊と一揆勢の掃討を行った。

織田に見放されたら縋る所が無くなる三河衆は尋常でない働きぶりを見せた。


「因みに一向宗はどうだった?」

「服部党から聞いていた通りでした。面白い話がありまして、我々の事を仏敵だと称しておりました」

「仏敵ねえ。鬼畜以下の行いをする奴等の方こそ仏敵と思うけど」

「三河衆の中には尾張介様と同じ事を申す者も居りました」


三河衆の身内にも一向宗徒に乱暴を受けた者が居たので捕まえた坊主や信徒に罵詈雑言を浴びせる者や石を投げる者も居た。


「この地域の一向宗は全て仏敵だという前提で動いてくれ。下手に恩情を見せれば三河衆に悪影響を及しかねない」

「承知致しました」

「気が滅入る話は終わりにして岡崎城の話をしようか。悪いけど大久保忠員・酒井忠次・石川数正の三人を呼んできてほしい」


信行は光安と光秀に三河衆の三人を加えて岡崎城攻撃について話し合った。


*****


光安と三河衆に休息を取らせた後、信行は岡崎城攻撃を開始した。


「構え」

「放て!」


明智光秀は籠城する大給松平勢に対して鉄砲隊で攻撃を行い成果を上げた。

後方では酒井忠次や石川数正が弓隊で援護射撃を行い大給松平の反撃を許さなかった。


「尾張介様より伝言です。弾薬は豊富にあるので遠慮せず撃ちまくれとの事です」

「承知したと伝えてくれ」

「はっ」

「南蛮銃も代わりがある。使えなくなったら直ぐに取り替えろ。間断無く撃ち続けて敵の士気を下げてやれ!」


信行からの伝言を聞いた光秀は鉄砲隊の士気を鼓舞して攻勢を強めた。


*****


「中々降伏しませんな」

「降伏したところで生き残れる保障は無いからね。大給もその事を分かっているのだろう」

「兵糧の絡みもありますので時間を掛け過ぎるのも良くないと思いますが」

「そうだね。ここは炮烙玉を使ってみるか」

「炮烙玉…。鷺山城で使った火薬の塊ですな」

「あれを使えば籠城している連中も心が折れると思う」

「確かに」


炮烙玉は数が限られる上に取扱いに細心の注意が必要なので信長か信行が率いる部隊しか持参出来ない。

加えて二人の指示が無ければ使用出来ない決まりになっている事から使用される戦場は自ずと限定される。


「使うのは城内を調べてからになる。闇雲に使えば効果は薄い」

「承知致しました」


信行は保俊に岡崎城の調査を命じると共に、答えが届くまで攻撃の手を緩めるなと光安に指示を出した。


*****


「正信、これは?」

「松平元康から聞いた隠し通路だ」

「どこでこの存在を知ったのだ?」

「俺が元康に入れ知恵をしてやった見返りだ」

「入れ知恵?」

「三河を手に入れる方法だな」

「どういう事だ?」

「この地に我々が居れば使う事が出来ないから心配するな」

「意味が分からん」

「元康が入れ知恵を用いたところでそれを考えた俺が居ればどうなる?」

「そういう事か」

「あの男もそこまで馬鹿ではないだろう」

「来たところで返り討ちだな」

「大給松平は岡崎を守り切れん。織田に奪われるだろう。その織田を率いるのは信長の右腕と呼ばれる信行だ。そいつを始末すれば織田勢は瓦解する。その混乱を利用して岡崎を奪って我々の支配権を確立する」

「信行を失った織田もおいそれと三河には手を出せなくなるわけか」

「その通りだ」

「松平元康はどうする?三河に戻ってきたら岡崎を返せと言ってくるぞ」

「返すと見せかけて始末する。あの男は我々にとって不要だ」


*****


信行が指示を出した翌日には城内の調査を終えて保俊が本陣に戻ってきた。


「城内は厭戦気分が蔓延しており士気はガタガタです。しかし大給の主だった者は天守に閉じこもって未だに籠城を主張して兵士の要望を斥けています」


鉄砲隊による連日の攻撃で負傷者は増える一方で兵士の中にはさっさと降伏して命乞いした方が助かる見込みはあると公言する者も居た。

片や大給松平の当主以下上層部は存在しない今川の援軍を期待して籠城の姿勢を崩さず兵士の意見を無視していた。


「この期に及んで抵抗を続けるとは分かっていないな」

「その影響か城内の警備はかなり手薄になっておりますので容易に侵入出来ます」

「本丸に数個仕掛けて連中の心を折ってやろう」

「尾張介様、気になる事が」

「どうした?」

「岡崎城内の隠し通路に最近使われた形跡がありまして」

「隠し通路?」


岡崎城には本丸から搦手門近くに繋がる隠し通路が設けられていた。

服部保長は松平清康からその存在を打ち明けられて場所も把握していた。

清康の時代に一度だけ遊び半分で使った事があるだけでそれ以降は使用されず、忘れられた存在になっていた。

保俊に同行して岡崎城に潜入した保長は隠し通路の存在を思い出して保俊にその事を伝えた。


「父より存在している事を聞きましたので調べたところ…」

「使われていた形跡があると?」

「はい」

「この際だ。一緒に潰してしまおう」

「宜しいのですか?」

「隠し通路を知っている者が外部に居れば悪用される可能性が高い。悪用されるのを心配するなら潰した方がマシだよ」

「分かりました。炮烙玉を余分に使う事になりますが確実に潰すように致します」


*****


その日の夜遅く岡崎城内各所で爆発音が聞こえて地響きがした。

しばらくすると城内に居た大給側の兵士は恐怖の余り大手門を開放して我先にと逃げ出した。


「一人も逃がすなよ」

「抵抗する者は斬り捨てろ」


大手門の前で待ち構えていた三河衆の兵士によって城から逃げ出した者は悉く捕まって本陣に連れて行かれた。

本陣には大久保忠員・酒井忠次・石川数正が待ち構えており、大給の上層部が混じっていないか顔の確認を行っていた。


「今のところ混じっておりません」

「後は城内に居る者を虱潰しにあたるしかないね」


信行は城内突入を指示した。

三河衆も松平との関係を疑われるのは御免だと必死になっていた。


「何か言いたそうだけど聞く気は一切ない。織田にとって松平は無用の長物だ」

「どういう意味だ?」

「織田のやり方で三河を支配する。お前たちが居れば迷惑なのだよ」

「貴様は鬼だ!」

「何とでも呼べばいい。兵士の命を無駄に捨てたお前たちは鬼以下だな」


大給松平の一族郎党は岡崎城で拘束されて悉く首を刎ねられた。

残されたのは少数の女子供だけに留まった。


*****


城内の奥まった所にある枯れた古井戸の中に一向宗の信徒二名が忍び込んでいた。

保俊が見つけた形跡を残したのはこの二人である。


「正信、どうだった?」

「織田が制圧したようだ」

「それでは間もなくだな」

「この古井戸は目立たない様に隠されている。ここなら一撃を与えた後でも十分逃げ切れる」

「待て、誰か来たぞ」


誰も知らない筈の古井戸に人が近付いてきたので二人は横穴に隠れて息をひそめた。


「保俊、ここで間違いないか?」

「はい」

「二つほど落としてやれば良いんじゃないか?」

「承知致しました」


外から何かが投げ入れられた。

二人が何事かと顔を出すと炮烙玉が二個火の付いた状態で目の前に落ちていた。


「拙い、逃げるぞ」

「分かった」


二人はそれが何なのか分からなかったが身の危険を感じたので必死に走った。

その直後、爆発音と共に古井戸から火柱が上がった。

爆発の影響で隠し通路の城側が崩壊した。


「見破られていたのか?」

「おそらく服部党だ。保俊と呼ばれた男が居たからな」

「仕切り直しになりそうだな」


二人は小走りで搦手側にある入口を目指していた。


「誰かと思えば松平を裏切った本多正信ではないか。もう一人は夏目吉信か」

「服部保長か!」

「儂の名前を知っているとは驚いた。まあ先々代から仕えていれば名前くらい憶えられても仕方ない事か…」

「どうするつもりだ?」

「どうするも何もこうするだけだ」


保長が上げた手を振り下ろすと暗闇から一斉に南蛮銃が火を噴いた。

一向宗の刺客として信行殺害を狙っていた門徒二人は全身蜂の巣になりその場で息絶えた。


「一向宗は許さんと尾張介様が仰せだからな。殺すしかあるまい」


この後、隠し通路は服部党の手で徹底的に破壊されて使い物にならなくなった。


*****


【登場人物】

本多正信

→1538年生まれ、元松平家臣

夏目正信

→1518年生まれ、元松平家臣

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