第7話 裏工作(1553) 修正版

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2024.5.19修正


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熱田に到着した信行は那古野城に先触れを出して井伊次郎法師を保護している事を信長に伝えた。


「次郎法師を井伊の旗頭にして今川攻略に使うのは賛成だが…」


「何を悩んでいるのです?」


「次郎法師の相手を探してやってくれと書かれていてな」


信長は手紙を帰蝶に見せた。


「井伊次郎法師は酷い目に遭っているようですね」


「粛清を恐れて他国に逃げるのは百歩譲って仕方ないと思うが、そのまま次郎法師を捨てたは許せんな」


「男とはそういうものでは?」


「そういう奴も居るが少なくとも俺は違うぞ」


現時点で信長には側室が居ない事から嫌味を言った帰蝶を窘めた。


「次郎法師を誰に嫁がせるのですか?」


「そうだな…」


「側室に迎えるのは?」


「戯け。お前が居るだろうが」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「お前なら誰を選ぶ?」


「勘十郎しか居ないでしょう」


「仕置きを済ませた後は勘十郎に東を任せて西に向かうとするか」


「兄と相見える日も近いでしょうね」


「聞いた話だが、義龍は妹をウツケに嫁がせるとは蝮も年を取ったと愚痴っていたらしいぞ」


「兄の目が節穴なのを周囲にと知らしめて下さいな」


「尾張のウツケが蝮ごと美濃を呑み込んでやるわ」


次郎法師の相手探しが美濃侵攻を実施する切っ掛けになった。


*****


那古野城に入った信行は平手政秀に呼ばれたので次郎法師に佐久間盛次を付けると部屋を出て行った。

しばらくすると人の気配がしたので信行が戻ってきたと思いきや、入ってきたのは信長と帰蝶の二人だった。


「織田信長である」


「井伊次郎法師と申します」


「そちらの事情は勘十郎から聞いている」


「信行様より今川を潰した後、井伊家を再興して遠江を任せると聞いておりますが…」


「その通りだが、どうかしたのか?」


「厚意を無駄にする言い方になりますが、井伊に遠江を治める力はありません」


今川が居なくなれば相模の北条と甲斐の武田が駿河や遠江を狙うのは確実である。

井伊家単独で侵攻を抑えるのは不可能である事から織田家の助けが必須だった。


「ならば他の者に任せるしかあるまい」


「申し訳ございません」


「貴女が織田家に嫁ぐか、婿を取って子を成せば良いのでは?」


「次郎法師はどう思う?」


「私は…」


「許嫁の件が引っ掛かっているのだな?」


「申し訳ございません」


「次郎法師の相手として勘十郎を考えている」


「信行様ですか?」


「彼奴は俺の弟で切れ者だ。今川を潰すべく三河から駿河まで攻め取る策を練っている筈だ。三遠駿を治める大大名なら相手として不足は無いだろう」


「勘十郎は手紙の中で次郎法師殿の窮状を訴えて、貴女を助けてやりたいので相手を見つけてやってほしいと書いていました。幸いな事に言い出した本人に相手が居ないので提案させてもらいました」


「そうだったのですか。自分は内輪揉めで辛い目に遭ったから私の事を何とか助けたいと申されていました」


「良い機会だ。詳しい事を話してやろう」


信長は父信秀が亡くなった後に兄弟の対立を煽った家臣を粛清した一件を説明した。

信行は全てが終わってから数日間部屋から一歩も外に出ず無気力状態になった。

内藤勝介から事のあらましを聞いた信長が様子を見に訪れて檄を飛ばしたのが切っ掛けで立ち直った。


「あの時は誰が声を掛けてもやる気が起こらないと部屋に籠っていました」


「確かに糸が切れたような状態になっていた」


「勘十郎には身近で支える者が居りません。貴女さえ良ければ勘十郎を支えて下さいな。勘十郎は織田にとっても井伊にとっても必要不可欠だと思います」


「分かりました。私なりに信行様を支えたいと思います」


「今から俺が勘十郎を説き伏せてくる。二人は勘十郎の話でもしてやってくれ。次郎法師も勘十郎がどのような男か知りたいだろうからな」


「それでは義兄となる貴方様の事を含めて色々伝えておきましょう」


「ふん。好きにしろ」


信長はいつになく上機嫌になって信行の待つ部屋に向かった。

当の信行は政秀相手に三河と遠江の現状について説明している最中だった。

自分が知らないうちに治郎法師の相手に自分が選ばれているとは微塵にも予想していなかった。


*****


【登場人物】

斎藤義龍

→1527年生まれ、斎藤家臣(鷺山城主)

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