第8話 信行の嫁取り(1553) 修正版
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2024.5.19修正
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平手政秀との話し合いを終えた信行はようやく信長と会う事が出来た。
「只今戻りました」
「役目大義だった。先日教継が詫びを入れてきたが、何の事だと恍けておいたぞ」
「ありがとうございます。先触れに預けた手紙は読んで頂けましたか?」
「お前のやりたいようにやれば良い。今川相手に戦う時は味方が多いに越した事はないからな」
「承知致しました」
「だが次郎法師の相手を探してくれは無茶な話だ」
「何故ですか?」
「お前の考えは井伊に遠江を任せる事で間違いないな?」
「間違いありません」
「次郎法師を娶る者には相応の格が必要だ。その者には三河と駿河を任せる事になるからな」
「その通りです」
「その点を踏まえて考えたが、一族の中に相応しい者は…」
「居ませんか?」
「心当たりが一人だけ居る」
「誰ですか?」
「お前だ」
「私ですか?」
自分の名前が出たので信行は驚いた。
信長の言うように治郎法師を妻に迎えるなら一族から出すのが最善である。
しかし適任だと思われる者は全員妻帯しているので治郎法師を側室で迎えるしかない。
遠江に残っていると思われる井伊家に連なる者からすれば旗頭となるべき治郎法師が側室として扱われていれば素直に協力しないように思えた。
「お前は同腹の弟であり腹を割って話が出来る数少ない存在だ。俺の背後を安心して任せる事が出来ると信じている」
「ありがとうございます」
「適齢の男子で未婚はお前だけだ。保護すると約束したのなら最後まで面倒を見てやれ」
「話をしてみますが認めてもらえるでしょうか?」
「何を言っている?認めてもらえるも何も次郎法師とは既に話を済ませている。正室の件も了承済みだ」
「はぁ?」
「俺を誰だと思っている?織田家の当主だぞ」
「しばらく待たされたのはそれが理由ですか?」
「爺がお前を呼んだのは偶然だが、そのお陰で事が上手く運んだわけだ」
「これから準備もあって忙しくなるだろう。至急の要件が無ければ来なくて良いぞ」
「承知致しました」
「治郎法師を大事にしてやれよ」
信行は話が終わると次郎法師を伴って末森城へ向かった。
その道すがら信行と次郎法師はお互い赤い顔をしたまま終始無言だった。
治郎法師は末森城に入った後、信行と相談して名前を出家前の直虎に戻した。
*****
信行は末森城に戻ると家臣を集めた。
「兄上の執り成しで遠江の井伊直虎殿を正室として迎える事になった」
「おめでとうございます」
「時期が来れば今川と争うのでしょうか?」
「時期が来れば今川とは雌雄を決する事になると思う。今川からすれば我々は何かに付けて邪魔な存在だからね」
「来たるべき戦いに備えて力を蓄えなければなりません」
「勝介の言う通りだよ」
「水野信元と山口教継に加えて佐治為景にも声を掛けた方が良いでしょう」
「渥美に居る戸田がチョッカイを出してくる可能性があると為景に伝えてくれ」
「承知致しました」
*****
信行は話し合いを済ませると城の奥まった所にある別室に向かった。
その部屋には城内で見かけない者が信行を待っていた。
「待たせて済まなかったね」
「こちらも着いたばかりです」
「報酬を先に渡しておくよ」
信行は男に金子が入った袋を手渡した。
「いつもありがとうございます」
「どうだった?」
「佐治為景は予想通り今川と繋がっておりました。時期は不明ですが尾張侵攻時の協力を要請されていました」
「為景は何と?」
「どちらとも取れる返事をしていました」
「言質を取らせなかったか」
「自身が不利にならないように上手く立ち回るつもりでしょう」
「近い内に今川が来るかもしれないね」
「申し訳ありませんが、そこまで掴めておりません」
「これは私の予想だから気にしなくて良い」
佐治為景は水軍を抱えているので信長から熱田湊の利権の半分を与えられて莫大な利益を得ていた。
しかし為景はそれに飽き足らず今川からの誘いに乗る形で利権の拡大を狙っていた。
「今川が動く際に文書を取り交わす可能性はありませんか?」
「口約束で反故にされる危険性を考えれば大いに有り得る」
「監視の目を増やして文書の入手に力を入れましょう」
「手間を掛けるけど頼むよ」
男の正体は伊賀の忍である。
信行が個人的に雇い入れてる形で情報収集を任せている。
何気なく為景に探りを入れさせたところ偶然引っ掛かり、今川との関係が明らかになった。
信行の意向を受けた忍は密書の入手に全力を挙げる事になった。
*****
【登場人物】
水野信元
→1520年生まれ、織田家臣(刈谷城代)
佐治為景
→1510年生まれ、織田家臣(大野城代)
戸田康光
→1500年生まれ、今川家臣(田原城主)
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