第4話 内憂の排除(1552 ) 修正版

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2024.5.18修正


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父信秀の葬儀を終えて末森城に戻った信行は信長排斥を目論む家臣からの突き上げに遭っていた。


「蜂起する最大の好機です」


「信長を追放して家督を継ぐべきです」


「常識知らずのウツケに当主は務まりません」


「私の考えは既に固まっている。改めて申し伝えるのでしばらく待ってほしい」


信行は決断を迫る家臣に自重するよう言い含めると部屋に戻った。

信行から呼ばれていた柴田勝家が部屋で待っていた。


「待たせたかな」


「いえ」


「どうするつもりだい?」


「迷っております。信行様に決断を迫るべきか自重を迫るべきかを」


「兄上の事をウツケと言っていたね」


「あの男に従っていれば織田家は滅びてしまうと考えて美作殿(林通具)に賛同しておりました」


武辺者として一目置かれていた勝家は信行擁立を企む通具に誘われて反信長の輪に加わった。

勝家は信秀に対して何度も説得を試みたが良い返事を貰えず失敗に終わっていたが、家臣への説得は続けていた。


「信長様があのような騒ぎを起こした後も信行様に動く気配が見られず、平手殿も平然としているのを見て疑問に感じました」


「兄上はウツケの真似事をしているだけだ。理由は織田家に必要な人材を探すため」


「我々が御館様試されていたと言うのですか?」


「そういう事になる」


「最初からご存知だった?」


「末森に居る者全てを見極める為に何も言わなかった」


「我々はどうなるのですか?」


「通具や過激な主張をする者には消えてもらうしかないだろうね」


「申し訳ございませんでした。柴田勝家は織田家に忠誠を誓います」


「よく決心してくれた。それでは勝家に命じる。手勢を集めて城内にて待機、合図があれば広間に居る不届き者を捕まえろ」


「承知致しました」


勝家を送り出した信行は部屋の外に誰も居ない事を確認すると床の間の壁を数回叩いた。すると壁にある隠し扉から信長の腹心である内藤勝介が出てきた。


「聞いての通りだ」


「勝家も覚悟を決めたようですな」


「あの男も織田家に必要不可欠な存在だからね。ところで連れて来た兵士の数は?」


「五百程郊外に待機させております」


「それでは大手門と搦手に配置してくれ」


「承知致しました」


勝介は信行の指示を受けると再び隠し扉から姿を消した。

信行は一休みしてから具足を身に着けて広間に向かった。


*****


広間には通具を始めとして信行擁立を画策する者が集まっていた。

信行が具足を身に着けて現れたので歓声が上がった。

 

「ご決断されたのですか!」


「那古野城へ兵を向ける命令を!」


「先陣は某が承ります!」


「勝家!」


襖が一斉に開けられ勝家とその手勢が広間に雪崩込んだ。

全員刀を抜いており指示があれば人を斬る態勢になっていた。


「柴田殿、乱心されたのか!」


「どういう事ですか?」


「何がどうなっているのだ!」


勝家の手勢に取り囲まれた家臣は理由が分からず動揺していた。

上座に座って様子を見ていた信行は立ち上がると囲みに近付いた。


「お前たちは勘違いをしている。私は兄上に背くなど一度も言った事はない」


「それなら具足を付けているのは何故ですか!」


「兄上に背いた者を処断する為だ。私は兄上に忠誠を誓っている。私の意思に背いて勝手に蜂起した者が悪い」


「騙された!」


「裏切られた…」


「吠えたいなら幾らでも吠えていろ。勝家、全員縛り上げて土蔵に押し込めておけ」


「承知致しました」


捕らえられた家臣は逃げ出さないよう念入りに縛られた上で城内にある土蔵に閉じ込められて沙汰を待つ事になった。


*****


広間に居て騒ぎに巻き込まれた佐久間盛重が途中で縄を解かれて広間に戻ってきた。


「盛重、大丈夫か?」


「柴田殿が気付いてくれたので助かりました」


「面目無い…」


広間には盛重と同じように巻き込まれた林秀貞の姿があった。

しかし盛重と異なり縛られた状態で座らされていた。


「さて秀貞、お前の処遇を決めようか」


「この期に及んで命乞いは致しません」


「私の知る限りお前が兄上を糾弾している姿を見た事が無い」


「林殿は話し合いの中に居ましたが、発言する事なく様子を伺っているように見えました」


「そもそも対立を煽っていたのは美作(林通具)でお前は無関係と思うが」


「勝介の言う通りだ。首謀者が美作なのは前々から分かっていた」


「弟が首謀者であるなら兄である某も責を負わねばなりません」


一族の起こした不始末は当主がその責任を負わなければならない慣例がある。

秀貞もそれに則って処罰を受けようとした。


「通具は独立しているからお前とは関係が切れていると兄上は仰せだ」


「しかし…」


信行「現実が見えない通具とは違ってお前は有能だと思っている。兄上の意を汲んでくれないか」


「承知致しました」


秀貞は説得に応じて信行側に寝返った。

急先鋒の通具と違って最後まで決断を躊躇していた事が功を奏した形になった。


「これで必要な人材は確保出来た」


「後は?」


「不要だ。処断しろ」


林通具を含めて土蔵に押し込められた家臣はその日の内に全員処断されて大手門の近くで晒し首にされた。


【登場人物】

柴田勝家

→1522年生まれ、織田家臣(末森城付)

内藤勝介

→1505年生まれ、織田家臣(那古野城付)

林秀貞

→1513年生まれ、織田家臣(末森城付)

林通具

→1516年生まれ、織田家臣(末森城付)

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