第53話 史上最強の衛兵
今私の目の前には、首が吹っ飛んでいく自分の姿が見えている。それは、1秒後の光景であった。
世界の色が元に戻る。
「そんじゃ、行きまっせぇぇ!!」
「ッ……!!!!!」
その言葉の途中で、私は瞬時に防御態勢に入る。持てる力全てを使って短剣を持ち上げる。
次の瞬間、耳元で金属と金属がぶつかり合う音が響き渡る。
ガギャリィィィィィ!!!!!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「ほほう」
やつは、相変わらずの無表情だった。その顔に、私はそれなりの恐怖を覚える。
あ、危なかった。あと……あと一瞬でも遅れていたら未来視通りの結果になっていただろう。
敵は、突きの構えをとる。
「では、これはどうかな?」
「!! (時読!!)」
今度は心臓を突きで狙ってきた。私はその突きを、勘と偶然を信じて短剣を振り抜く。願いが通じたのか、奇跡的に短剣の先端が当たり、何とか食い止めることに成功する。
だがしかし、筋力量や経験値は断然あちらの方が多い。これだけは未来を視ても覆すことはできない。
どんなに歯を食いしばり、足を踏ん張っても攻撃の威力を相殺することはできなかった。
私は、数メートル後ろまで吹き飛ばされていく。何とか地面に着地し、態勢を整える。
「あ、あぶなかった……」
「ふむ。これも防ぐか……だが、おん前は確かに吹き飛ばされた。つまり、驚異的な動体視力で防いでいた訳ではない。ということか。
もし動体視力なら、短剣で防がずに普通に避けているはずだ。となると……」
こ、この男……一体何を考えている。さっきから顎に手をやってブツブツと……。
恐怖に心を揺さぶられたせいなのか、私は左手に持っている小さな水晶玉をより一層強く握りしめる。
するとあいつは、顎から手を離すと、おぞましい目を私に向けてきた。
「妄想的な考えになるが……お前、未来視てるだろ」
!!!!! 何……だと……あの男、先程の私の行動だけでそこまで行きついたというのか!? いや待て。焦るな。まだあいつは自分が発した言葉に自信を持てていない。まだ勝機はある!!
気持ちを奮い立たせるために、私は両手の中にある物をさらに握りしめる。覚悟を決めて、私は心中で叫ぶ。
時ど……
その時だった。
キンジャバァァァァァァァァァンンン!!!!!!!!
いつの間にかやつは、剣を振り抜き終わっていた。
「今のお前の動作で確信した」
「ふぇ……ひぇ……え……」
何か不気味な音がした。不可思議な音とも言い換えることができるだろう。一体なんだ。
私は音のした方へと視線を移す。そこに、私の左手は無かった。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!」
「どうやら、さっきから
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ!!」
「お前は力に頼りすぎている。能力があるからこそ、ここまでこれたのだろう。逆に言えば、能力が無ければお前はただの一般人。俗に言うゴミだ」
「はぁはぁはぁ……ッ!! このボケナスがぁぁぁ!!!」
絶対に倒す。絶対に倒してやる!! 残った右手でぶち殺す!!!
私は持てる筋力すべてを使って踏み込み、やつに急接近していく。
そして、右手の短剣をやつの首目がけて振り下ろす。
「未熟な果実ほど、食べていて不快に思うものはない」
次の瞬間、やつの姿が消えた。
どこにいった。やつはどこにいった!! くそ!! くそぉぉ!!!
必死に私は辺りを見渡す。どこにもいない。足音も、空気を切る音さえも聞こえてこない。
そして、見渡す過程で見たのは、血しぶきとともに宙を舞う私の両腕だった。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!!!」
「両腕」
く、くそぉ!! これじゃ攻撃できない!! 本当にどこから攻撃して来ているんだ!!
私は、この一瞬のわずかな時間の間で、ありとあらゆることを考えた。頭突きで攻撃するか。ローキックをぶちかますか。もしくはかみつくか。
そんな考えは意味のないことだということを、1度まぶたを閉じただけで思い知らされることとなった。
あいつは、私に呼吸をさせる暇さえも与えてくれはしなかった。
キンジャバァァァァァァァァァンンン!!!!!!!!
「両足」
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!」
「うるさい。舌」
「ンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!」
痛い……苦しい……涙が止まらない。
「「フェルンン!!!!!」」
その時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。声質からして、カルターナとニゥイルで間違いないだろう。
来てくれたんだ。私はそう思った時、とても嬉しかった。本当に嬉しかった。この時点で
でも……もう間に合わない。
「両耳」
直後、私の世界から音という概念が消え去った。残された情報獲得手段は視覚のみ。
私は、何とか。何とかして声のする方向を向こうとする。がしかし。
「両目」
ついに私の世界から情報獲得手段が消え去った。
まさか、最後に見た光景が敵の口の動きだとは思わなかった。史上最悪だ。こんな死に方するなんて……畜生、畜生、ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!!
みんな……ごめん……。
「首」
キンジャバァァァァァァァァァンンン!!!!!!!!
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