革命のヒ 〜腐・ネゾント軍VS革命軍〜

リート

黄金の鏡編

第1話 森の中での出会い

 1781年、とある日の昼下り。街から数キロ離れた場所にある森の中で、僕は丸太の上に座って読書をしていた。


 僕の名はカルターナ・プラルト。茶髪で、目の色は緑色の平民だ。


 木々が揺れる音を聞きながらお気に入りの本を読んでいると、向こうの茂みから誰かが近づいてきた。


「だ、誰だ!」


 僕は、手元にあった本をすぐさま後ろに隠すと、震え気味の声で叫んだ。

 いったい誰なんだ。本を読んでいるところを見られていたのだとしたら、非常にまずい。

 自然と持っている本に力が入っていく。

 数秒後、茂みの中から現れたのは一人の子供だった。僕と同じぐらいの背丈で、腰に木刀らしきものを携えていて、額からは汗がにじみ出ている。さらさらの茶髪は木の葉で装飾されていて、目の色は蒼かった。


「お前は誰だ」


 僕は警戒心を持って慎重に尋ねる。


「俺は怪しいものじゃない。俺はただ、毎日のトレーニングをこなしにきただけだ」


 そいつは、腰に携えている木刀を地面において敵意がないことを示した。

 悪い奴じゃんなさそうだ。身を守るための大切なものをすんなりと地面に置くほどだ。とりあえず……信じてみるか。

 彼を信じることにした僕は、警戒態勢を解き、深呼吸を一つした後、ゆっくりと話し始めた。


「……わかった。信じるよ。僕の名前はカルターナ・プラント。君は?」


「俺の名前はヴィーム・カリティア。よろしくな、カルターナ」


「うん。よろしく、ヴィーム」


 僕達は、軽く自己紹介をし合った。僕は落ち着いた口調で、ヴィームは少々荒っぽい口調で話していく。

 僕は両腕を腰の横に戻して尋ねる。


「ヴィームってどこに住んでるの?」


「俺はこの森を出て真っ直ぐ行ったところにある街【カルガラ】に住んでるぜ。お前は?」


 ヴィームは右手を腰に当て、しっかりとした物腰で話す。

 ゆっくりと話していた僕だったが、次第に口調が速くなっていく。


「僕もカルガラに住んでるよ」


 カルガラとは、僕達が住んでいる国、ペイダス王国の首都にあたる街だ。


 僕はヴィームと会話をしていくうちに、次第に手の力が抜けていった。そんなときだった。


「ところでカルターナ。聞いてもいいか?」


 突然ヴィームは、真面目な顔で質問をしてきた。あまりにも真剣な声であったため、なぜか僕の声が勝手に震える。


「なんだいヴィーム。急にそんな声で話しかけてきて」


「いやぁなあ。さっきからお前、左手に本を持ってるから……もしかして読み書きができるのか?」


「え!?」


 僕は思わず声が漏れ出てしまった。それは当然のことである。この国では、文字の読み書きができる人なんて特権階級や高位の占い師ぐらいのものである。平民は文字の読み書きができないというのがこの国の常識なのだ。


「えっと……その……」


 僕とヴィームの間に凍えるような風が突き抜けていくような感覚がする。指先も尋常じゃないぐらいに震えている。あの日、あの人と、約束の日まで他言しないと決めた僕にとってこの質問は、あまりにも重すぎる。

 僕は隠そうとするあまりまごまご声になっていく。

 毎秒ごとに震えが増している僕を見たのか、ヴィームは優しくも明るくもある声で話しかけてきた。


「実は俺、読み書きができるんだ。それにもう一つ思った。普段誰も来ないこの森で本を読んでるということは、お前があの人が言っていたもう一人の弟子か?」


 僕はおもわずヴィームの顔を見る。誇張しすぎかもしれないが、僕にとってその発言は、魔法の言葉とそう変わらなかった。同時に、今この瞬間が約束の日なのだと確信を持って思えた。気がつけば僕の指の震えは止まっている。


「本当に信じていいんだね?」


 僕は、念を押して確認する。


「ああ、もちろんだ。なんなら今お前が持っているその本のタイトルを当ててみせよう。ずばり、『医術入門書』だ!」


 僕の心臓の鼓動が速くなるのを実感した。ヴィームの予想は当たっている。これまで、一人で秘密を抱えてきた僕にとって、感無量の瞬間であった。

 打ち明けてもいいと判断した僕は、再び口を開く。


「僕も読み書きができるんだ。ヴィーム」


 今日が約束の日だと確信した僕達は、やたらと興奮気味にそんな会話をしていった。今日ほど、森の木々が風で揺れ動く日はなかったと思う。

 木々の踊りに呼応するかのように空は見事に晴れている。まるで僕らの未来を暗示しているかのように晴々と。


 この日からだった。僕の月日の流れが、格段に上がっていったのは。そして、何か大きなことが始まる予感がしてならなかった。

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