第16話〜私と彼−
俺は思った。彼女は可愛い、と。
私は思った。彼はカッコいい、と。
「……なぁ」
「はい?」
「その、なんだ……」
「どうしたんですか? 言いたいことがあるならハッキリ言ってくださいよー」
「お前はさ、俺のこと……好きなのか?」
「はぇ!?」
思わず変な声が出た。
いきなり何を言っているんだこの人は! そりゃあ好きに決まってるけど、でもそれを直接言うのも恥ずかしいし……。
「お、おい大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
顔が熱い。多分今の私の顔は真っ赤になっているだろう。こんな顔見せられないし、見られたくもない。
だから私は顔を見られないように彼の胸に抱きついた。
「ちょっ、おい!」
「先輩が悪いんですよ! そんなこと聞くから!」
「いやだって気になるじゃん。それにお前だって聞いてきたろ?」
「それはそうですけど……でもやっぱりずるいですよ!」
「何でだよ」
「何でもです!」
彼が何かを言っていたけれど、私には聞こえなかった。
今だけはこうさせて。お願いだから。
「うぅ〜ん……」
朝、目が覚めるといつも通りベッドの上で横になっていた。
しかし何かが違う。違和感を感じるのだ。
昨日は何をしていただろうか。確か家に帰ってきてそのまま寝てしまった気がするのだが……
そこまで考えたところでようやく意識が完全に覚醒してきた。
そして俺は気付いた。目の前に誰かがいることに。
「おはようございます先輩。今日もいい天気ですね」
「…………」
「先輩?」
「どうしてお前がここにいるんだ」
「えっと……ダメですか?」
「ダメとかそういう問題じゃないんだよ。お前一応女なんだぞ? しかも後輩だし」
「じゃあ私が男だったら一緒に寝てもよかったってことですよね?」
「そ、それは……」
言葉に詰まってしまった。確かに言われてみるとそうなのかもしれない。……というかそもそもなんでこいつはここにいるんだ? まさか本当に添い寝するために来たわけでもあるまいし……。
「あの、先輩。一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「ん? 別に構わないけど」
「先輩って、彼女が欲しいんですか?」
「ぶふぉっ!!」
突然の質問に驚いてしまった。
ていうかなんてことを訊いてくるんだこいつ……。
「ど、どうした急に」
「いえ、ちょっと気になっただけです。」「気になったねぇ……」
正直なところあまり答えたくないというのが本音である。なぜならば俺には彼女を作る予定がないからだ。
というより今は作るべきではないと考えている。まだ俺は自分の気持ちを整理できていない状態なのだから。
でもここで嘘をつく必要もないので素直に答えることにした。
「まぁ欲しくないと言えば嘘になるかな」
「ほへぇ〜」
「なんだよその反応は」
「いや、意外だなって思って。先輩ってこういう話になるとすぐ逃げると思ってたので」
「逃げてるつもりはないんだけどな……」
実際こうして面と向かって話しているので逃げてはない、はずだ。
たぶん。
「ちなみに好きな人とかいたりするんですか?」
「お前だよ」
即答してやった。なんか最近同じようなことがあったような気がするが気にしないことにする。
すると彼女は顔を赤くしながら俯いてしまった。……あれ? 俺今告白みたいなこと言わなかったか?
「せ、せんぱいぃ……」
「いや待ってくれ! 今のは違うんだ!」
「違わないです!先輩が私のことを好きだっていうのはわかってました!」
「え、マジで!?」
「はい。なのでこれはチャンスだと思いまして」
そう言って彼女は立ち上がってこちらを見下ろしてきた。身長差があるせいか少し怖い。
「先輩、好きです。私と付き合ってください」
「……はい?」
「私と恋人になってほしいです」
「……いやいやいやいや!」
慌てて起き上がり彼女の肩を掴む。
「先輩、痛いです」
「あ、悪い」
「いいですよ謝らないでください。それより返事はどうなんですか?」
「いや、いきなりそんなこと言われても困るし……」
「でも先輩は私のことが好きなんですよね?」
「ぐっ……」
確かにそうだ。俺は昨日の一件以来彼女のことばかり考えてしまうようになっていた。これが恋なのかはよくわからないが、少なくとも好意を抱いていることは間違いないだろう。
「……わかったよ。お前の恋人になる」
「ホントですか!?」
「あぁ。ただし! ちゃんと責任取ってもらうからな!」
「もちろんです!」
嬉しそうに笑う彼女を見て、やっぱり可愛いと思った。
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