第13話〜黒雲母〜

どんぶらこ、どんぶらこ。

一級河川の下流からなんとまあ大きいダークマター。

「キュンキュキュ↑イクイグッ♡♡ドグッシャコ、バンバ、ギュエィィィィイイイイ!!」

ああ新時代の防災警報かな。超音波をも凌駕するヘルツで防火林を薙ぎ倒し、磁石のように切り株を抱えて遡上してくる。


「ところでよ、なんでツインテールみたいにケヤキ下げてんだオメェ?」

ダークマターは頬を赤らめる。周りの色合いのせいで赤というより黄土色だ。眼下には大量の砂埃が舞っていた。


大きな黒雲母──いやショゴスの賞味期限はおおよそ2週間ほどだ。どんな戦いで火花と一緒にショゴスを散らそうとも、ア〇ゾンの配達と同じくらいの時間でタケノコガールの手元に戻ってくる。

つい先日、悲哀と醜悪のケミカルキメラのような戦いがあったのは記憶が曖昧だが、タケノコガールの左腕が大いに損傷して黒色塗料ばりの変色を遂げている。かすり傷だな、と一瞥し、戻ってきたショゴスの半分を無言で腕に塗りたくる。クチャクチャと音を立て、粘膜をつんざく激臭を放っていた。どこの誰が食べて消化したらこんなものが生まれるのか。港の船が転覆している。


タケノコガールは数日の間、分離している半分のショゴスと放浪した。

新幹線の連結部分をまじまじと凝視し、疼き出した左腕で後ろのコンビニを破壊したり。

墓石に磁石のようにショゴスを張り巡らせてもぎ取り、大きな榧の木に継ぎ足したり。

ショゴスと共に現実の無力さと非現実の儚さを感じ、月の海でかぼちゃの温泉に浸かったり。

そうこうしているうちにショゴスは賞味期限を迎えた。煮たり焼くなりすればよかったのだが、久しぶりの放浪を思い出し嘆息し、看取ることにした。

だんだんと色を薄めて萎縮し、灰色の硝子となって異臭と共に舞っていった。

「へへっ、いい『プロテイン』だぜ、ゥ」


雷雨の中、次のショゴスに思いは託された。タケノコガールの傷は幾分マシになった。

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