第12話〜雷と気体〜

朝霧垂れ込める野原に二人の男が対峙していた。

間を通り抜けていく涼風はやがて木立をすすぎ、空の端から照りつける陽は未だ朝でもないのにギラギラと照り付け、山の稜線を際立たせている。


片方の男の名は雷という

農民に生まれながらもひたすら武芸を磨くこと十余年、ようやく剣の才に開花し、遂に将軍の目に留まり剣術師範の役職を得ることとなった。

性格は苛烈ではあったが真面目で情に厚く、一時期は城下の用心棒のような存在であったために市井の人々からの評判は良く信頼を置かれていた。


しかし、そんな彼が今挑発するかのように鯉口をかちゃかちゃと鳴らしている。


彼をそこまで昂らせてしまうのは一体誰なのだろうか?


そのもう片方の名を気という。

ただならぬ気配を保ちながらも居心地悪そうにして彼は言った。

「なんだいそりゃ、御足元の流行りかい」

「時の潮に流されちまうほど儂の剣は軽かねえよ」雷は答えた。


互いに睨み合う一触即発の事態、未だに鯉口は軽い音を立てている。


「貴様、そんなに儂の薄緑が気になるならば試してみるか?」

「おうとも」

気が応えると雷はすぐさま鞘から刀身を引き抜き素早く構えた。3尺を超える大太刀を難なく振るうのは流石の技量である。名の通り薄緑色に鈍く輝く刃は、美しい刃文を持つ大業物だ。気の動く気配がないのを感じ取り、雷は大きく踏み込む。その速さからは考えられないような距離の踏み込みにも気はたじろがず、大きく息を吸い吐き出した。口からはもうもうと煙が立ち込め、それを右手一本に集めた。まるで煙でできた刀だ。まさしく煙刀である。早速雷の放った逆袈裟斬りを軽く弾いた。確かに軽く弾いたのだ。雷は弾かれた勢いそのまま吹き飛び、刀を地に突き立てたことによる裂け目は川のようだった。しかし雷はタダでは転ばぬ。吹き飛ばされたかのように見えた直前に刀での斬撃から回し蹴りによる崩しへと本命を移し、残りやすい痛手を与えたのだ。


しかし気の素性どころか戦う理由もわからないこの状況。

彼らを駆り立たせるのは人間本来の闘争本能であった。

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