第2話人は孤独が怖いって本当なんだね

入学式から数日が経過していた。

生徒指導の先生の間では新一年生のブラックリストが作成される。

素行不良や授業態度や服装やメイクなどを鑑みてそれは作成される。

「じゃあ五組は白河さんを中心としたグループを重点的に取り締まってください。特に野村先生は担任なのですから自らちゃんと注意するように。良いですか?」

生徒指導のおばさん教諭は若い女子生徒を目の敵にするようにカリカリした態度を送ってくる。

「了解しました」

端的に答えるのだが彼女を注意するつもりはそんなに無い。

どのようにして白川恵の居場所を無くそうかそれだけを考えていた。

(恵だけを注意しなければ贔屓されているとまだ絆の出来上がっていない関係性には綻びが生じるか?)

そこまで思うと白川恵のグループの彼女以外の人間を注意して回ることを決める。

彼女らが一緒に居るときを見計らってなるべく大げさに。

本日からそれは始まるのであった。



本日は服装検査で校門の前で検査は始まっていた。

「はい。福永さんと根尾さん止まって」

白河恵と共に登校してきた二人の生徒をわざとらしく止めると軽く注意は始まる。

「服装検査です。悪いけどスカート丈直してください。ギリギリを攻めるのは分かるけどそれはアウトです。一回目の服装検査で引っかかる生徒は三年間ずっと目をつけられますよ。注意されるのが面倒ならスカート丈を直すこと。抵抗すると反省文になりますよ」

などという俺の言葉に彼女らは不満そうな顔をしていた。

「分かったけど…。恵は良いの?」

まだ出会って数日の友達と言えるか微妙なラインの彼女らは簡単に友だちを差し出した。

「あぁー。白河さんはギリギリ大丈夫かな。うん。大丈夫です」

白河恵に笑顔を向けると彼女は少しだけ気まずそうな態度を取っていた。

「えぇ〜。恵のほうが短くない?」

「脚の長さや身長と比例して見ていますから。残念ですがお二人はその…短足…いえ。もっと適切なスカート丈がありますよ」

わざとらしく思っていることを口走った体を取ると彼女らに注意をした。

「マジ最悪〜。朝からテンション下がるわ〜」

彼女らは素直にスカート丈を戻して校内に入っていった。

そこからも適当に服装検査を済ませると登校時刻ギリギリまで校門で過ごす。

クラスに戻ると案の定生徒たちはスカート丈を戻していた。

だが俺は注意をすることもない。

ただ一言、

「皆さん他の先生には見つからないようにしてくださいね。私も厳しく注意しろって上から言われているので心苦しいですが我慢してください」

などと適当に注意をすると本日の授業は開始されていった。



お昼休みになり食堂に向かう生徒の中で白河グループには変化が訪れていた。

白河恵が中心だったものが今では彼女は脇に一人でぽつんと歩いていた。

「恵は良いよねぇ〜。可愛いから贔屓されてるんだよ〜。脚が長くて先生たちを誤魔化せて良いなぁ〜」

そんな声が聞こえてきて俺はほくそ笑む。

「私もちゃんとスカート丈直すよ」

「無理しないで良いよぉ〜。それで男を誘惑したいんでしょ〜」

彼女らは明らかに白川恵に嫉妬しているようだった。

「そういうわけじゃないけど…」

これをチャンスと思い俺は彼女らの元に向かう。

「白河さん」

声をかけると彼女はこちらを振り向く。

「偉いですね。お友達が注意されたのを見て自らも省みるなんて。素直で良い生徒です。感心しました。それではお先に」

それだけ告げると俺はそのまま食堂に向かう。

「恵は偉い偉い。贔屓は良いですなぁ〜」

そんな声が聞こえてきて第一目標はほぼ完了と言えそうだった。

ダメ押しをするために女性教諭に白河グループの他のメンバーにこれを言ってもらって終了となる。

「高校生でメイクをしたいのはわかりますが歳をとった時に肌が荒れますよ。それに白河さんを見てください。何もしていないのにこんなにキレイじゃないですか。高校生の間は素材が良ければ何もせずとも大丈夫なのです。皆さんも白河さんを見習ってください」

女性教諭と打ち合わせをしたわけではない。

白河恵がノーメイクかどうかは定かではない。

ただし明らかに白河グループの他の生徒がメイク下手だというのは誰の目にも明らかだった。

「は!?マジ最悪なんだけど!また恵贔屓じゃん。恵だってメイクしてるし!」

「ですからしていたとしても自分に相応なメイクをしなさい。あなた達にそんな派手なメイクは似合いませんよ。原型がわからないと男性にも煙たがられます」

「もういい!」

そう言うと彼女らは白河恵を置いて先に帰路に着くのであった。

女性教諭はまだ注意が終わっていないと二人を追いかけた。

一人廊下に残された白河恵に救いの手を差し伸べるために俺は彼女のもとに向かう。

「大丈夫ですか?あまり気にしないでください。毎年こういう事はありますから。持っている人を羨んで僻む人間は何処にでも居ますよ。あまり気を落とさずに。何か困った事がありましたら担任である私に仰ってください。いつでも相談ぐらい聞きますから。では」

それだけ告げると俺は職員室に向かうのであった。

後日、白河恵の居場所は徐々に無くなりクラスでも彼女は一人で過ごしていた。

白河グループに居た女子生徒が噂を回したのだ。

「恵は先生に贔屓されてるから関わらないほうが良いよ〜。関わっただけ損するから〜」

女子生徒は噂が好きで噂を鵜呑みにしやすい。

それが効果的だったのか白河恵は殆どハブられている状態に近かった。

(よしよし。第一目標は完了だな。次は第二目標だけど…。学校では俺だけが味方と勘違いさせよう)

そう思うと後日、第二目標の計画をスタートさせるのであった。


第一目標完了。100/100


第二目標、白河恵の信頼を勝ち取る。 25/100

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