第28話 秘技真人間スルーパス

「へえ、桜木さんも南陽なんだぁ~。何組ですかぁ?」

「えぇっと、一応、さ、三組で……」

「どのへんに住んでるんですか?」

「それは、あの、栄町のほうに……」


 みつきが根掘り葉掘り情報を聞き出していく。茉白はあまり答えたくないのかいまいち歯切れが悪い。しかし本当は俺なんかより同性の友人を作ったほうがはるかにいいはず。ここは余計な口を挟まず、みつきに任せてみよう。二人を仲良くさせてしまえば俺の出る幕はなくなる。これぞ秘技真人間スルーパスである。


「……」


 と期待していたがネタ切れになったのかすぐに会話が途切れた。茉白はともかくみつきもやけにおとなしい。ニコニコしてはいるが意外に会話を繋がない。ふだんもほとんど俺から話題を振っているせいかそういうの下手くそなのかもしれない。ここは横から助け舟を出す。


「えーと、なんだっけほら、みつきの趣味は」

「しゅみ?」


 はて? と首をかしげるみつき。聞いておいて俺も首をかしげた。

 趣味っていう趣味なんかあったっけ。何をするにも俺のマネとかそういうの多い。強いて言うなら俺の介護とか。いやそれは言ったらダメなやつ。


「趣味……そうだ、ネットサーフィンとか!」


 みつきはひらめいたように言うが、ネットサーフィンっていうやつ今どきいないぞ。

 まだ深雪さんに制限をかけられているようだが、やっと自分のスマホを与えられてある程度自由に見れるようになったらしい。俺からすると正直ふた周りぐらい遅れている気がするが。


「最近ね、ミンスタとか見始めて……」


 なんとSNSとは。あのみつきも今どきのJKになりつつある。


「じゃあまっしーのアカウント教えてあげたらいいじゃん」

「は、はぁ? そ、そういうんじゃないですし私のは……」

「へえ、茉白ちゃんやってるんだ?」

「フォロワーいっぱいいるらしいぜ」

「え? そうなんだ、すごい!」


 みつきがキラキラと目を輝かせる。

 かたや茉白は苦笑いというか何余計なこと言ってくれてんだよという表情。


「ちなみに茉白の趣味は人間観察だそうだ」

「ち、ちょ、だからなんで勝手に変なこと言うんですか」

「いや自分ドヤってたやん」


 ことあるごとに自己開示を拒否ってくる。こいつマジで真人間目指す気あんのか。何をそんなに頑なになってるんだか。


「でもふたりって、同じクラスでもないのに、どうして知り合ったの?」


 みつきにしては鋭い質問だ。あんまり細かいことは考えないタイプのはずがそこは気になるらしい。茉白が俺に答えろと目配せをしてくるので、


「偶然彼女が落としたスマホを俺が拾ってね。スマホ拾っただけなのにこのざまよ」

「なんですかそれ、どういう意味ですか」


 茉白がすぐ睨みをきかせてくる。なら自分で答えればいいのに。そしてすぐ「ぼっち飯のことは言うな」と耳打ちして釘をさしてくる。なら最初から言えと。

 ごちゃごちゃやっていると、みつきはそれ以上特に突っ込んでこなかった。茉白はやたら細かいことまで気にしているが、他人からしたらわりとどうでもいいことなのだろう。



 茉白の先導により、ショッピングモールの服屋に到着。ずらずらと服屋が並んでいるうちの一つだ。アパレルだのセレクトショップだのファストファッションだの呼び方があるのか知らんがよくわからんので全部服屋でひとくくりにする。


「おお! 高そうな服がいっぱいだ」

「値段的には最低クラスの量販店ですけどね」

「みつきがよく買いに来るとこじゃん」

「ね、値段のわりに物はいいんですよね~」


 茉白は毒づいたかと思えば急に取り繕い出した。

 みつきはというと聞こえてなかったのか「わたしも服買おっかな~」と手近な服をさわさわしている。

 茉白は気を遣いまくっているようだが、これならもういっそバトルしちゃえばいいのにと思う。もしかしたらそっちのほうが仲良くなれるかもしれない。みつきに耳打ちしてみる。


「安い女って言われてるぞみつき」

「……しょうがないよ、安い女だもん」


 そのまま茉白に伝える。


「だってさ」

「……すいません、私、また悪い癖出ましたよね」


 バトルどころかふたりとも目を伏せてしまった。

 これでは俺がただの煽りカス野郎である。ヤバイ、ただでさえ怪しかった空気がどん底に落ちた。ここはなんかボケで笑い取って和まさないと。

 俺は手近にあった花がらのワンピースを手に取ると、


「うそやだカワイイ~。似合うかなこれ~?」


 体に合わせながら二人に向き直ってみせる。


「きゃははは」


 みつきが手を叩いて笑う。

 あぶねえなんとかウケた。ていうか何が面白いのか。笑いのツボがおかしい。

 しかし救われた。茉白のほうは寒いを通り越して少し顔色青くなっているけども気にしない。


「じゃあ泰一あそこで試着してみよ」

「いやギャグだからね? マジ顔でマジトーンで言うのやめて?」


 ガチだったらしい。ちょいちょい鬼畜出してくる。そこまで絵にしてたならたしかに面白いわ。


「いいじゃないですかそれ、買ってあげますよ」

「茉白ちゃん太っ腹ぁ!」


 二人で俺をいじっていい感じにノッてくる。

 なるほどこっちの路線で行ったほうがいいな。あそこにぶら下がってるブラジャー頭からかぶろうかな。


「別にああいうのでいいと思うんですよね~ああいうので」


 茉白が目立つ位置に立っているマネキンを指差す。本当に俺の服を選ぶつもりらしい。いやいやマネキンが着てる服とかおしゃれすぎて逆に恥ずかしいだろ。イケメンだけど服はダサいみたいなギャップ萌え的な部分も狙いとしてはあるし。


 一方俺は必死にボケるネタを探していた。キッズ向けコーナーの前で立ち止まって吟味していたが、ふと我に返る。なぜ俺がそんな道化を演じなければならないのか。ここは別の方向にシフトしよう。


「てか俺ってなに着てもイケメンだしさ、それよりかわいい服を着た女の子が増えたほうがいいじゃん?」

「はあ」

「だからここはセンスのある茉白さんがみつきの服を選ぶとかはどうかな」


 我ながら名案。ふたりでああでもないこうでもないとキャピキャピしながら服を選べば仲良くなること間違いなし。

 現在のみつきの服装はフード付きの服と大きめのショートパンツ。変なゆるキャラっぽいのがプリントされている。いつもだいたいこんな感じだ。 


 深雪さんがあえて地味な服を着せているとかいう話を真奈美づてに聞いたことがある。変にきれいめにしたりすると悪い輩が寄ってくるからとかなんとか。

 俺的にはみつきっぽくて悪くない格好と思うが、さすがに茉白と並ぶと見劣りする。そもそも同じ土俵に立っていないというか。


「い、いや私がそんな、選ぶなんて……ど、どーなんですかね……?」


 ここでも茉白は急に弱気。俺にはアレのほうがマシこれのほうがいいとかガンガンくるくせに。女同士だと意外にやりづらいのかもしれない。女子って口では「かわいいかわいい~」とか言いながら内心「うわないわ~」とか思ってそうだしな。勝手な俺のイメージだけど。なら自分で選ばせるか。

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