第10話 堕天使
「それが違うんですよね~」
などと言いながら、茉白はスマホを触り始める。
そしておもむろに俺の前に差し出すと、画面の数字を指さして、
「見てくださいこれ、もうちょっとでフォロワー7000人」
「は?」
表示されていたのはプロフィールのページらしきもの。
何かと思えばSNSのフォロワーのことらしい。
「これ私のアカウントです。フォロワー7000ですよ? おはようって言ったらめっちゃいいねつきますし」
「……だから?」
「要するにインフルエンサー的なアレですよ」
「へーそうなんだ。で、それと今君がぼっち飯をしていたことになにか関係が?」
そう言うと茉白は黙った。我ながらキレッキレである。
「だ、だから別にぼっちじゃなくて! じゃあ今からトーク上げるんでちょっと見ててください。えっと~……『なんか変な髪型の人にいちゃもんつけられてこわひ……』」
「誰のことだよそれ」
「ほら見てください、めっちゃいいねついていきますよ。いいねいいね~」
「何がいいねだよ全然よくないわ」
「今リプもきましたよほら、『大丈夫?』って」
「暇人もいるもんだな。平日の昼間だぞ」
「わかります? 私には大勢のフォロワーがいるんです、あなたとは違うんです。そういう黒野さんのフォロワーは何人ですか?」
「いや俺フォロワーとかそういうのいないから」
「え? SNSやってらっしゃらない?」
「やってないけど」
茉白はあちゃ~みたいな仕草をしてみせる。
まあ情報収集としてイラストとかセンシティブなやつを見たりすることはあるが、自分から何か発信するようなことはない。
「ていうかなんでそんなにフォロワーいんの? なんかやってるわけ?」
「いやそれは……私のセンスあるつぶやきとかで?」
「ちょっと見してみ」
「あっ! ちょっと!」
スマホを奪い取って画面を見る。
プロフィール名 堕天使まっしー@闇落ち中
今日も生きながらえています。絶賛闇落ち中。反応遅め。
「陰キャやん」
「ち、違います! こ、これはそういうキャラで売ってるんです! 陰キャあるあるネタとか、面白いセンスある投稿してるんです」
早口でなにやら弁解しているのを尻目に、さーっと投稿を流し見ていく。
さすがに顔の自撮りはないようだが、足や手などちょいちょい体の一部が見切れる写真をアップしている。肌がキレイとかいうコメントもちらほら見られる。
「あれ、これって……」
一つの投稿に目が留まる。
ぼっち飯つらみ。という文言に、おにぎりを手にした写真がくっついている。
アップになっていてわかりづらいが、よーく見たら場所はここだった。床が同じ。
「ぼっち飯やん」
「だ、だから! こういうネタがウケいいんですって!」
「ネタっていうかガチじゃなくて?」
茉白は黙った。ちょいちょい黙る。
かと思えば荒々しくスマホを奪い返された。顔真っ赤である。
「つまりリアルでぼっちな女がおっさんを釣って承認欲求を満たしているということでよろしいな?」
「ち、違います! だからそういうエロ垢とかじゃないです! 若い女の子のフォロワーとかもいますし!」
「しかしこれでよく7000も集めたな……」
フォローも200そこらだ。なにか小細工をしている可能性も無きにしもあらずだが。それにやたら早口になるのも怪しい。
「じゃあ百歩譲ってそうだとして……なんなんですか? そっちこそ何か私にマウント取れる要素あるんですか?」
「俺は誰もが認める真人間を目指す身だ。そんな低レベルなマウント合戦などしない」
「はい? なんですかそれ」
「それにこう見えて俺は風紀委員だからな」
「えっ、そうなんですか」
「学校の秩序を乱すものは許さん。お前こんな写真アップして校則違反だぞ、スマホ没収だぞ」
「ぼ、没収……?」
そんな校則あるのか知らんけど効いてる効いてる。
実際風紀委員にそんな権限あるのかね? ていうかないだろ。
「それは無理です、私スマホなくなったら死ぬんで」
それでさっきも命の恩人とか大げさなことを言ってたのだろうか。あれだけテンパってたのもそうだけど……いやほんと大げさな。
いい加減時間がなくなるので、残りの飯を食うことにした。座って食いかけの弁当箱を開けると、茉白がのぞきこんでくる。
「へ~それ、お母さんお料理上手ですね」
「違う違う、これは幼なじみが作った弁当だよ」
「は? 幼なじみ?」
「幼なじみって言ったら幼なじみだよ。かわいくて料理上手で巨乳の」
つい余計な情報を付け加えてしまった。
まあ俺の唯一ともいえるステータスだからね。
「えっと、あの、そういう冗談は……悲しくなってくるんで、やめてください」
茉白は急に神妙な顔になった。まさにかわいそうな人を見る目。そういう妄想プレイをしている人のように思われるのは心外だ。
「ちょっといじめすぎました。すみませんでした」
「いやあの、冗談とかじゃないんですけど……」
「すみません」
哀れみを込めたトーンで謝られた。
なんかムカついたので負けじと謝っておく。
「いや、僕のほうこそ変なこと言ってすいませんでした」
「いえいえ、こちらこそ」
謎の謝罪合戦が始まる。
そんなことをしているうちに昼休み終了のチャイムが鳴ってしまった。
急いで残りを口の中にかきこむと、弁当箱をしまって立ち上がる。まだなにか言いたげな茉白と目があった。最後に尋ねる。
「なあ、何組って言ってたっけ?」
「え? 三組ですけど……」
「あっそ。じゃあな」
結局話はうやむやだったが、初対面の気まずい感じはなくなっていた。
俺は手を振って先に階段を降りていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます