第23話 代案
通る道、通る道が赤と白、そして緑の配色で覆われていく。
この時期にしか流れない音楽、風景、浮き足立つ人々。
子どもはおもちゃ、大人は恋人を欲しがり、周囲の話題も異性に関するものが増える。
そんな中、俺は授業、ゼミ、バイト、サークル活動。
これまでと何ら変わらない日々。
“こうやって人間歳をとっていくんだな”と
平穏な日々を当たり前に感じていた。
そんな当たり前の日々が平和を感じることができて好き......だった。
あれからカスミはリコやマヤとは完全に別のグループで行動するようになり、キョウコはキョウコでカスミを気遣ってリコやマヤとはあまり行動を共にしないようにしていた。
リコは同じゼミだったため、最近の女子の動向を定期的に教えてくれるが、いつも特に変わりないと話すだけだった。
【時間が解決する】
人間関係でいざこざがあった場合によく聞く言葉だが、言葉の意味を本当に理解したのはこのときが初めてだった。
年の瀬も近づいた頃、タケシに声を掛けられた。
「なぁ、ゼミのメンバーでクリスマスパーティーしよ!」
この時期の学生でよくある飲み会の誘い文句だ。
「あぁ…」
あからさまに乗り気でない回答をしてしまった。
「そっか、達也はキョウコがいるもんな」
さすが首席候補。
相変わらず察しが良い。
「一回もクリスマスの話はしてなかったけど、一応確認はしないといけないかな」
イベントや催しが好きなキョウコには珍しくクリスマスについて言及されたことがなかった。
「じゃぁ、クリスマスイブとかは皆それぞれ予定あるだろうから、クリスマスの日にしよう」
「あり!」
恋人がいる人でも決まってイブを一緒に過ごして、日を跨いでクリスマスを祝う。
何故かクリスマス当日は暇な人が多い。
「じゃあ他のメンバーには俺から声かけとくわ!」
ゼミが始まってからタケシのリーダーぶりには拍車がかかっている気がする。
頼もしい限りだ。
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今日一緒に帰れる?
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キョウコからの連絡だった。
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うん!お互いに終わったら連絡しよ。
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夜の訪れが季節の変わり目を感じさせる。
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裏門前で待ち合わせね!
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学校で毎日のように顔は合わしていたが、ゼミの活動が本格的に始まったこともあり、まともに話すのは少し久しぶりな気がした。
「元気?」
久々の対面とは似つかない表情でキョウコは話す。
「そっちが元気なさそうなんだけど、どした?」
「そういうわけではないんだけど......」
「やっぱ、そういうわけかも......」
嫌がらせのことが頭をよぎる。
「また何かあった?」
キョウコは首を横に振る。
続けて、ため息をついた。
「どした?言いづらいこと?」
キョウコの正確から、相当深刻な話を覚悟した。
「実は……クリスマスにバイト先の飲み会があって、その飲み会に参加する人がクリスマスイブに勤務することになってしまって......私は何も言ってなかったのに参加することになってて、クリスマスを一緒に過ごせなくて......ごめん」
“なんだ、そんなことか”
と内心思ってしまったが、キョウコにとっては相当重大なことだったらしい。
今にも泣きだしそうな表情だった。
「そっかそっか。少し残念だけど、俺もさっきタケシに声かけられて、ゼミのクリスマス飲み会に誘われたから、そっちに参加するし、全然気にしなくていいよ!」
「少し?」
いつもの悪戯っ子の顔をしていた。
「あ、かなり!」
「もぉ~言葉気をつけてよね!私本当に泣きそうだったんだから」
繊細さに驚きながらも笑ってごまかした。
「でも、良かった。もし予定空けてくれてたらもっと辛かったかも」
心の中でタケシに感謝した。
「でさ、代わりって言ったら変なんだけど、年越しを“うち”で過ごさない?」
思いがけない代替え案に一瞬固まってしまった。
「うちってキョウコのお家ってこと?」
「それ以外どこがあるの?あっ、でも達也が家族を過ごさないといけないとか、ご両親のご実家で過ごすとかなら全然気にしないでね!」
うちの両親は親と疎遠で、高校以降は俺も妹もいつも友人と過ごしていたが、旅行で聞いたキョウコの家族の話しが頭をよぎった。
「キョウコのご家族は大丈夫なの?」
苦し紛れだった。
「ママは来てほしいって、パパもいつでもおいでって言ってたよ!」
希望される理由が分からなかったが、クリスマスの代案として出てきている以上、特別な理由もなく断る勇気はなかった。
「分かった。一応、うちも親に聞いてみる」
聞く必要もないことだったが、あわよくば親に止められることを期待していた。
「やったー!また聞いた結果教えてね!」
さっきまでとは別人のような笑顔に、少し安心した。
ただ、思いがけないタイミングでの再会と丸二日間を共にすることに対する不安が他の感情を淘汰していた。
帰宅後、両親にその話を伝えた。
こちらの不安とは裏腹に二つ返事で了承された。
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