第22話 旅逝

気候は大きく変わりはなかったが、空港の人の多さに驚いた。


「さすが東京って感じだね!」

キョウコはすでに上機嫌だった。


「そうだね。バスの乗り場を探そうか」

二人でバスに乗り込み、ホテルへ荷物を置くことにした。


事前に旅行会社でチケットなども預かっていたため、目的地まではスムーズだった。

各アトラクションもファストパスと呼ばれるチケットをキョウコが効率よく取っていたため、大した待ち時間もなく楽しむことができた。

そして、この日に初めて自分が絶叫系を苦手なことを知った。


夜のパレードが一番楽しみと話していただけあって、開始の2時間前から場所を抑えるような形で待つことになった。


普段の学校の話やサークルの話などたわいもない会話を一通りした頃に会話が途切れる時間があった。


「キョウコのお母さんってどんな人?」

色々考えすぎてすごく唐突な質問になってしまった。


「ママ?今朝も会ったじゃん!あんな感じの人だよ」

このままでは踏み込んだ話になりそうになかったので、キョウコから聞いた過去の話を出すことにした。


「前に躾がすごく厳しかったって言ってたじゃん?あれって怒ると周りが見えなくなるような感じってこと?」


「あぁ~昔はね!最近はそんな怒ることもないし、感情的になることもないから大丈夫だよ!心配?」


「いや心配ってほどじゃないんだけどさ、こないだも今日も会ってみて全然そんな感じがしなかったからさ」


「さすがに達也がいる前でそんな感じだったらヤバイじゃん」

“それはそうか”と思った。


「たしかにね。直近ですごく怒ったのっていつなの?」


「高校のときの元カレのときかな?」


「そうなんだ。何があったの?」


「元々家族ぐるみで付き合いがあった子だったんだけど、その子が浮気してるところをお母さんが見つけてしまって」


「で、どうなったの?」


「とりあえず事実確認をさせられて、本当だったから別れるように言われた」


「それはそうなるよね。そのあと何かあったの?」


「あったけど、気にしなくていいよ!何?達也浮気しようと思ってんの?」

笑いながらだったが、顔は真剣だった。


「そんなわけないじゃん!気になっただけだよ」

上手くはぐらかされてしまった。


「パレードのときは一杯写真撮ってよね!せっかくだしアルバム作りたい!」


「いいね!いい写真がとれるように頑張るわ」

大事なところが聞けなかった…。


ただ、何かあったことは分かったし、お母さんの話を聞いて出てきたということはお母さんが何かしら行動したのは確かだった。

それからも何度か旅行中に親御さんの話は試みたが

「また親の話?」とあからさまに嫌がられだしたので諦めた。


最終日は東京観光をすることになった。

若者の街から観光名所まで休む間もなく回り続けた。

青春時代を東京で過ごしていたらどうなっていたのかと勝手に想像していた。


「何考えてんの?険しい顔してたよ?」


「ううん。べつに」


「また親のことでも考えてたの?」


「全然そういうわけじゃないよ!」


「でも、気になるよね…」


「ならないと言えば嘘になるかな」


「昔のことだから変に悪く考えないでほしいんだけど…」

何度も前置きをされたのちにキョウコは話してくれた。


“お母さんが相手の親に電話したこと”

“キョウコに今後一切接触しないようにさせたこと”

“本人に対して嫌がらせをしたこと”

“その結果、元カレは自殺してしまったこと”


それぞれ簡単ではあったが説明してくれた。

悪く考えないことが無理だと感じる話だった。

さすがに聞いてからは少し口数が減ってしまい、キョウコは「話さなければ良かった」と泣き出してしまった。

さすがに無理を言って聞いた手前、気丈に振る舞いキョウコの機嫌を回復させた。

あくまで簡単に話してくれただけなので細かく聞きたい気持ちはあったが、これ以上聞く勇気はなかった。


帰りの飛行機でも頭の中はお母さんの話でいっぱいだった。

考えすぎてそれが普通のことのようにまで感じてきてしまった。


キョウコはずっと話したことを後悔している様子だった。


地元に到着し、空港のロビーにつくとキョウコの家族がまた待っていた。

話を聞いてしまったこともあり、少しヨソヨソしくなってしまった


「おかえり」

笑顔で迎えてくれているのだが、その笑顔すらも怖く感じるようになっていた。


「お迎えしていただき、ありがとうございます」


「うん」

お父さんは何度会っても変わらず人見知り感は出ていた。


「楽しめた?」


「うん!すごく楽しかったよ!」

キョウコは満面の笑みで答えていた。


「そう。良かったわね」

全てを疑ってしまう。


「達也くんはどうやって帰るの?」


「電車で最寄り駅まで行って、最寄り駅に親が迎えにきてくれます!」


「気をつけて帰ってね」


「ありがとうございます!」


“気をつけて”という言葉までも疑ってしまっていたが、特に何事もなく最寄り駅まで到着した。


「おかえり」

父親が迎えにきてくれていた。

安心感からか帰りの車では爆睡してしまった。


帰っても家族内では旅行の話で持ち切りだった。

楽しかったことや景色など思いつく限り明るい話をした。

言霊とはすごいもので話しているうちに綺麗な思い出になっていった

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