第19話 予想外の歓迎

どこにでもあるような普通のマンションだった。

駐輪場に自転車を停め、エレベーターで部屋へと向かった。

大きなマンションにも関わらず、空き部屋が多いことは少し気になったが、公務員の転勤時期でもあったため、聞きはしなかった。

緑のドアにリースがかかった部屋があった。


「あれがうちだよ」


「そうなんだね」

“オシャレにしてるんだな”と思っていた。


部屋が近づくにつれ、ドアも鮮明に見えてきた。

遠目で見えた印象とは大きく異なっていた。


リースがついていたが、リースの内側に小さな骸骨が座っていて、リボンだと思っていた白い布は「てるてる坊主」のような人形だったが、目が異様に大きく、頭には赤いペイントがされていて、かなり不気味だった。


「ハロウィンだから飾ったりしてるけど、いつもは何も飾ってないんだよね」

キョウコは何かに気づいたかのように話し出した。


「そうなんだ。。。」

少し言葉を失っていた。


「入るね!」

キョウコがドアを開けた。

すると玄関口にしっかりと化粧をした女性が段差の上から見下ろすように立っていた。


「うっ」

正直驚いてしまい声が出てしまった。


「おかえり。ごめんなさいね驚かせてしまって」


「いえ、とんでもないです。初めまして。キョウコさんとお付き合いをさせて頂いています達也と申します」


「そんなに畏まらなくて大丈夫よ。いつもキョウコをありがとうね。せっかく来てもらってこんなところで話すのも失礼だし、気にせず入って」


「ありがとうございます」

仁王立ちしていたことには驚いたが、話すと同年代のお母さんと何ら変わらなかったので安心していた。

リビングに案内された。


キョウコのお母さんは少し困ったような顔で

「今お父さんは打ちっぱなしに行ってるからもう少ししたら帰ってくると思うわ。すぐ来るし待っててと言ったんだけど、聞かなくって。お父さんも緊張してるのかも」

と話していた。


「お父さんいつもそうなんだよね。ちょっと人見知りだし」

お母さんやキョウコの感じからはあまり想像できなかった。


「私の部屋に荷物とか置きなよ」

キョウコの部屋へ向かうことになった。

部屋へむかうときに少しだけドアの空いた部屋があった。

隙間からで少ししか見えなかったが、ローソクやリーフの葉のようなものと枯れ木のようなものが見えていた。キョウコが先にそのドアを閉めに向かった。

「私の部屋はこっち側でここはママの部屋なんだよね」

「そうなんだ!みんなそれぞれ部屋があるんだね」

平然を装って返答したが、隙間から見えていたものが気になって仕方なかった。


「ここが私の部屋」

案内された部屋はピアノとベッドが多くを占めていて、壁にはビジュアル系バンドのポスターや音楽関係のグッズなどが掲示されていた。物は多い印象だったが、かなり整理整頓されていた。


「すごく綺麗にしてるね」


「ママがうるさいからね」

さっき少し見えたお母さんの部屋からは少しイメージと違っていた。

初めて来たこともあって、何が置いてあるのか興味はあったが、大人しくしていた。


「せっかくだし、昔の私を見せてあげるね!」

キョウコはクローゼットから大きなアルバムをいくつか出してきた。


「これが小学校のときで、これが中学校のやつ!」

卒業アルバムだった。

どちらもよく見る感じの卒業アルバムだった。

一番後ろに友達に一言を書いてもらう場所があったが、白紙だった。


「卒業式のときとか皆書き合ったりしなかったの?」


「卒業式の日は結構バタバタしていて、書いてもらう時間なかったんだよね」


「そうなんだ」

少し違和感は感じていたが、聞き流した。

中学校のアルバムを見ていた頃、玄関先で物音がした。


「あっパパ帰ってきたかも」

急に緊張してきた。


「ただいま」

思ったよりも高い声で帰宅の知らせがあった。


「おかえり~」

キョウコとお母さんが揃って返事をする。


「はじめまして。キョウコさんとお付き合いさせてもらっています達也と申します。ご不在のときにお邪魔してしまい、、、、」


「いらっしゃい。あとで酒でも飲みながら話そうか」

挨拶の途中だったが、気さくに返答してもらえたことで安心した。


気さくな感じで話してもらったとはいえ、緊張しないわけがなかった。

運送業を営んでいると聞いていたが、いかにもという風貌であり、体格も俺の2倍近くありそうな大柄で髪も角刈りに近いヘアスタイルだった。

キョウコからは

「お父さんは何も言わないと思うし、普通に仲良くできると思う」

と言われていたが、見た目での判断では中々そうもいきそうになかった。

お父さんが荷物を置いた音がしたあと、浴室の方からシャワーの音が聞こえていた。

同時にキッチンからは金属がぶつかる音と食欲をそそる香りが部屋まで届いていた。


「そろそろご飯ができるからリビングにおいで」

キョウコのお母さんからの呼びかけだった。


キョウコと一緒にリビングにむかった。

リビングは親と子どもが住む家庭ではよくある家具の配置になっていて、一番奥にテレビがあり、対面するような形でソファが設置され、その裏にダイニングテーブルがあるといった構図だった。

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