第18話 対面

公園ではコスモスが彩り、バラの色づきも強くなる頃、俺とキョウコはダンスサークルのイベントに向けて毎日練習をしていた。


練習終わりにはダンスの隊列や構成、振り付けについて話ながら帰り、休日はイベントや有名チームの練習場に見に行くなど他のサークルに所属していることなんて忘れてしまうほどダンス漬けの毎日だった。


「次のイベントも成功させないとね!」

キョウコは明るい以前までのキョウコに戻っていた。


「そうだね。これだけ練習したんだから大丈夫っしょ!」

明るいキョウコにつられて、俺も以前までより少し明るくなった気がする。


「イベント終わったらさ、旅行とか行きたいね!」


「たしかに。これまで行ったことないもんな」


「うん!広島とか沖縄とか、東京もイイなぁ~」


「選択肢多いな。行きたいところで良いよ。任せるわ」


「またそうやって人任せにする~。一緒に考えてよね」


「わかったよ。イベント終わった休日にでも話そう!」


「うん!急に頑張れる気がしてきた!」

キョウコもまた以前に比べると皮肉を言うことも少なくなり、素直に感情を伝えてくれることが多くなっていた。


1ヶ月後。

イベントに参加し、大きな失敗はなく無事に終えることができた。

打ち上げで酔った後輩の女の子に肩を貸していたことはこっぴどく怒られたが、後輩の子がキョウコに全力で謝罪したことで難を逃れた。


「次の休日は旅行会社に行こっか!」


「そうだね。前から言ってたしね」


「やったー!候補はある?」


「ない」


「言うと思った。考えててって言ったのにぃ」


「ごめんごめん」


言葉は怒っていたが、おもちゃを買ってもらえる子供のような表情をしていた。


旅行会社では沢山の旅行地を紹介された。


俺はこれまで家族以外で旅行に行くことはなかったので、出されたほとんどが行ったことが無い土地だった。


「本当にどこも行ったことがないんだね!」


「だから言ったじゃん」


「じゃあいきなりリゾートとかよりも楽しめそうなところにしよっか!ディズニーランドとかはどう?」


「ネズミの国ね」


「ちがう!夢の国だからっ!」


「はいはい。キョウコが行きたいと思うなら全然いいよ!」


「ほんっと自分の意見がないよね。。。でも達也と行きたいかも!」


「わかった。じゃあディズニーランドにしよ」


「いいの!?達也は退屈かもよ?」


「全然大丈夫!」

正直どこに行ってもそんなに変わりはないと思っていた。

キョウコには言ってなかったが、実は旅行が苦手だ。

休みにわざわざ時間を使って疲れに行くようなもんだとしか思ってなかった。

ただ、何となくキョウコの親の地元でもある沖縄には行きたくなかったので、ディズニーランドになってホッとしていた。


「旅行楽しみだね!」

キョウコは帰りの電車でもテンションが高かった。


「そうだね」


「本当に思ってる?達也は感情が表に出ないからたまに心配になるよ」


「思ってるよ!」


「ならいいんだけど。。。」


旅行まではお互いバイトに明け暮れていた。


旅行の日程が近づいてきた頃、キョウコから「旅行に行けなくなるかも」と連絡があった。

俺は正直安堵した部分もあったが、理由を聞くために会うことになった。


「急にゴメンね。。。多分大丈夫だと思うんだけど、うちの両親が男女で旅行に行くなんてって少しうるさくってさ」


「これまで彼氏と旅行に行ったりしたことはなかったの?」


「あったんだけど、みんな一回は親に会ってて親も知ってたから良かったんだけど、まだ達也は会ったことがないからさ」


「そういうことね。どうする?今回は辞めとく?」

なくなる方へ誘導した。


「ううん。せっかく休みも合わせてるし、旅行は行きたい」


「じゃあどうしたらいい?」


「今度一度うちに来てくれないかな?」

急展開に即答はできなかった。


「いや?」


「嫌とかじゃないけど緊張するなぁと思って」


「大丈夫だよ!今までの人も全く問題なかったし、コウスケもあったことあるし」


「よけいに緊張するよ」


「お願い!一回会えば親も納得すると思うからさ」


「それしかないもんな。分かったよ。日程は任せるわ」


「親に聞いて連絡するね」


「わかった」

これまでずっとキョウコの両親と会うことは避けてきた。

前に聞いたキョウコの子供のときの話があまりに衝撃すぎて、怖い人だという印象しかなかったからだ。

ただ、交際期間が長くなればいずれは会うことになるだろうし、遅いか早いかの違いだと腹を括ることにした。


約束の日。

キョウコの実家の最寄り駅に着くとキョウコが待っていてくれた。

最寄り駅からはキョウコの自転車に二人乗りで実家へとむかった。


「今日はご両親ともにいるの?」


「うん。休みの日に来てもらうことにしたからね」


「そっか。やぱ緊張するな」


「達也なら全然大丈夫だよ。変なこと言ったりしないだろうし」


「ならいいけど」

数分もするとキョウコの実家のマンションに到着した。

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