第20話 晩餐


一応上座などを考慮して入口に近いところに座ったが、お皿などがすでに設置されていて、

「こっちに座ってもらっていい?」とキョウコに場所を指定された。


席につくやいなや、お母さんが

「今日は何時頃に帰らないといけないの?」

うちは特に門限などもなく、一応翌日はバイトも入れていなかったので


「今日は何時でも大丈夫です!」と伝えると

「良かったわ。お父さん話し出すと長くなるかもしれないし」と

お母さんは笑っていた。


キョウコも

「お父さん話すと長いからね」

と少しあきれ顔で話していた。


浴室の扉が開く音が聞こえ、少し大きな足音がリビングに近づいてきた。

首からタオルをかけたお父さんが上半身裸でリビングに入ってきた。

地域柄もあって俺はなぜか恐る恐る背中を見たが、特に変わった部分はなかった。


「いらっしゃい」


お父さんは一言だけ話し、自身の部屋に入っていった。


リビングでは続々と完成した料理が運ばれてきた。

サラダや揚げ物、洋食などどれも俺が好きなものばかりだった。


「ママには達也が好きなものとか伝えてたんだ」

キョウコは笑顔で話した。


自身の好きなものばかりだったので反対にお父さんに悪い気をさせないか少し心配していた。

その気持ちを察するかのようにキョウコは

「達也が好きなものがお父さんも好きなものだったから今日はお父さんもきっと嬉しいと思う」

とこちらの考えが全て見えているかのような口ぶりだった。


着替えを終えたお父さんが出てきた。

この年代ではよくあるトレーナーにトラのような刺繍が入った上着をきて、スウェットのズボンを履いていた。


席につくなりお父さんから

「わざわざ来てくれてありがとうね」

と声をかけてくれた。


「とんでもないです。お招きいただき光栄です。ありがとうございます」

と話すと、

「そんなに堅い家柄でもないし、もっと楽な感じで大丈夫だから」と

気を遣わないでいいと話してくれた。


そこから食事までの間はお父さんから色々と質問された。

「バイトをしているか、どんなバイトか」

「父はどんな仕事をしてるのか」

「なぜ医療職を目指したのか」

など、初めて会う人によく聞かれるような質問たちだった。


一通り回答した頃、全ての料理が揃い、

「ゴメンね、お待たせしてしまって」とお母さんも席についた。


「まずは乾杯でもしようか」とお父さんが話すと、

「じゃああなたが音頭をとってよ」とお母さんが返した。


「達也君、今日はわざわざ来てくれてありがとう。キョウコもいつも世話になってるみたいでありがとうね。せっかく来てくれてるのでしっかり食べて、楽しんでって」


「長くなる?」キョウコがすかさず割って入った。


「いつも長いみたいな言い方をするな」とお父さんが話すと全員が自然と笑っていた。


「いっぱい時間はあるし、食べながらも話せるのでひとまず乾杯しよう。乾杯」

お父さんの合図でグラスを合わした。


キョウコも俺もあまり酒に強いほうではなかったが、このときばかりはビールをひたすら飲み続けていた。


出てきた食事はどれも好みの味付けで食も酒も自然と進んだ。


「よく食べるな。いいことだ」とお父さんが話すほど知らないうちに沢山食べていた。


食事中はキョウコの幼い頃の話や学生時代の話が中心だった。

ご両親もある程度お酒が入った頃、キョウコには本当は兄がいた話をされた。

お母さんのお腹にいたときに亡くなってしまったそうだ。

毎年水子供養をした神社へお参りに行っているとのことだった。

家に来たときに感じたお母さんの部屋の異様さはそれによるものだったのかと勝手に解釈していた。


食事も終わりに近づいた頃、お父さんが最近腰が痛いと言っていたため、マッサージを提案した。


「キョウコはそういうのしてくれないからな」と皮肉交じりにお父さんが話すと

「しても文句ばっかり言うからじゃん」とキョウコも反論していた。


どうやら力が弱くあまり効果が無いからという理由らしい。


リビングのソファを動かし、ストレッチ用のマットを敷いた上でマッサージを始めた。


「やっぱり男の力だと違うな。効く感じがするわ」とお父さんも上機嫌だったので俺もやりやすかった。


「なんか甘いものが欲しくなってきたわね。キョウコとケーキでも買ってくるわね」

とお母さんはキョウコを呼び、一緒に出掛けていった。


さすがに慣れてきたとはいえ、お父さんと二人の空間は緊張した。


「無理しなくていいんだよ」

お父さんはボソっとつぶやいた。


お酒が入っていたこともあり、聞き間違いかと思い聞き返した。


「達也くんは話をしていても真面目だし、食事中の気遣いとかを見ていても周りがよく見えていると思ったんだ。だから、家に来たときに何となく気づいたんじゃないか?」

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