第10話 目的地

歓楽街だったので、つかぬ期待をしてしまったが、到着したお店は監獄のような佇まいのお店だった。


「そう、ここに来たかったんだよねー!」


「何?ここ」

見るからに危なそうな雰囲気のお店に完全に怖気づいてしまった。


「案外楽しいと思うからさっ」

こちらの不安をよそにキョウコの口角は上がりっぱなしだった。


「早く入りなさい」

お店の店員らしき人物が話しかけてきた。

にしても、何という言葉遣いだと思って姿を見ると看守のような恰好をしていた。


「コンセプトカフェって行ったことある?」

不慣れな言葉に戸惑った。


「ここは監獄とか研究室とか少しホラーの要素があるバーで、ショーとかもあって楽しいんだよ!」


「さっきも言ったけど、何でこんなとこ知ってるの?」


「好きだから」

関係ない場面での「好き」という言葉ではあったが、ドキっとしてしまった。


入口で店員に手錠をかけられた。

「これもこのお店の特徴なの!?」


「そう!みんな何かしらで捕まっている設定なの」


席につくなり、鉄格子の扉が閉められた。


「これから見回りがあるから席を立つんじゃないぞ」

店員よりキツく指示されたため、大人しく座っているとサイレンが鳴り出した。

凶器をもった黒づくめの奴や注射器をもって血だらけの研究員のような人などホラー映画の悪役ばりの恰好をした人たちが各テーブルを回り、客を驚かせていた。


「キョウコってこういうのが好きなんだ?」


「好きというかなんというか…手錠とかされると何か興奮しない?」


「ごめん、全くしない」

どちらかというと早く外してほしかった。


「勘違いしないでね!こういう趣味ってわけじゃなくて、何か非日常を味わいたかったってだけだからね!あとは達也がどんな反応するか見たかったんだよね!」

何が本心なのかは分からなかったが、早く終って出れることを願っていた。


ショーが終った後は試験管やビーカーに入った異様な色のお酒たちが出てきた。

一通り終わった頃、キョウコがふと口を開いた。


「私の家さ、すごく躾が厳しかったんだよね。テストで点数が悪いとお母さんに髪の毛引っ張って家中引きずられたりしてさ。髪もいっぱい抜けたりさ。」

いつものキョウコからは考えられないぐらい重たい空気になった。


「ごめんゴメン。これが言いたかったんじゃなくて、その反動もあって今は好きなことを好きな人と全力で楽しもうと思ってるってことが伝えたかったんだよ」

キョウコの想いとは裏腹に俺にはキョウコの家族に対する不信感と恐怖が勝っていた。


「キョウコの電車の時間もあるし、帰ろっか」

キョウコは寂しそうな表情を一瞬見せたが、

「分かった~」

大人しく引き下がった。

キョウコとは駅で別れたが、帰りの道中はキョウコの家族の話しで頭の中は持ち切りだった。


“すごく怖い親御さんなのか”

色々と妄想は広がったが、特に会う予定もないし、今は考えないようにした。

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