第9話 二人の行方

テレビでは雪まつりの映像や今年の桜の開花予想などメディアも放送する季節感に悩む時期になった。


「おはよー!」

以前までと変わりなく、カスミは挨拶をしてくれる。

「おはよ」

表情に困りながら返答した。

その後の会話はなく、互いに授業へ向かった。


キョウコからLINEがきた。


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カスミとなんかあった?


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あまりにタイミングが良すぎて少し焦った。

授業の合間、返事に悩んでいた。


「ねぇ、なんかあったの?」

背後からの声がけに背筋が伸びた。


「本当いつも驚いてるね」

少し呆れた顔でキョウコはため息をついた。


「いつも急だからだよ」

お前のせいだと言わんばかりに答えた。


「ちゃんとLINEしたし!」


「で、何かあったの?」


「カスミと別れた」

表情に気を遣いながら回答した。


「何で?やっぱり温度差?」

自慢げな表情でキョウコは話す。


「簡単に言うとそうなるかも」

たしかにキョウコの言う通りだった。

「やっぱり。今日一緒に帰ろうよ。話聞きたいし」


「わかった」


学校も終わり、門を出たところでキョウコと合流した。

合流して動き出すまで俺は終始周りを気にしていた。


「何キョロキョロしてんの?別に悪いことしてるわけじゃないんだからさ」

それは自分でも分かっているが、変な誤解を生まないかとばつが悪かった。

見た限り、周りに知った顔はなかった。


「どうなって別れたの?」

キョウコが引き金になっていることは伝えないようにしようと思っていた。


「学校で会うだけだし、付き合っている意味がないんじゃないかって」


「カスミはそれでも楽しいし、一緒にいたいって前に言ってたんだけどなぁ」

何か勘付いている口ぶりだった。


「彼氏らしいこともしてないし、そうなって当然だと思う」

カスミに伝えたとおりキョウコにも伝えた。


「バスケサークルの飲み会のときなんかは彼氏してるなって思ったけどね」

仕方なくしていたことだったが、そう見えていたことを初めて自覚した。


「キョウコこそ最近どうなの?」


「最近?何にもないよ。好きな人が彼女と別れたぐらいじゃない?」


“毎回返答しにくい言い回しをしてくるな”

と思いながらも、表現できない居心地の良さはあった。


「達也は私のことは考えてくれてる?」


「考える?何を?」

あからさまにとぼけて見せた。

「待ってるって言ったじゃん!」

まっすぐ目を見てキョウコは言う。


「ごめん今すぐには考えられないかな。何度かこうやって話したりはしてるけど、キョウコのことまだ全然知らないしさ」


「知らなくてもカスミとは付き合えて私とは付き合えないんだ?」


“まただ”

この皮肉じみた言い回しも慣れてくると可愛く感じてしまうのが不思議だ。


「そういうわけじゃないけど、それもあって上手くいかなかった部分もあったと思うし、慎重にはなるよ」


「そっか。じゃあ私に1ヶ月ちょうだい」


「ちょうだいって何?」


「1ヶ月、彼氏としてじゃなくていいから、一緒に時間を過ごす機会をちょうだいってこと!」


「いいけど、めんどくさいことは嫌だよ?」


「私がめんどくさいみたいな言い方しないでよ!」


「そうじゃないって」

いつもキョウコとの会話は笑いで終る。

それが居心地の良さに繋がっているのかもしれないと感じた。


この日から毎日キョウコから連絡がくるようになった。

ダンスサークルの活動が増えてきていたこともあり、帰りは必然と一緒になることが多かった。


「たまには休日に出掛けようよ!」

これまでサークル活動や学校帰りで一緒にいることはあったが、休日を二人で過ごしたことはなかった。

「何すんの?」

俺はもっぱらインドア派で家を出るとしたら競馬場に行くぐらいだった。


「何って、デートに決まってんじゃん!内容は考えとくからさ!」

断る余地はなさそうだった。

カスミと付き合っていたときも数える程度しか休日に会ったことはなく、何が普通か分からずにいた。


当日。

さすがに服も多少は考えた。

普段はほぼジャージみたいな恰好で通学していたため、いざとなると引き出しの少なさに唖然とした。とりあえず、持っているものを総動員した結果、ストリートファッションになった。


「なんか新鮮だね!」

キョウコは特に否定するでもなく、肯定するわけでもなかった。

ストリートファッションの俺に対して、学校では見ないような綺麗めな服装で迂闊にも“可愛い”と思ってしまった。


「まずは一緒に服を見に行こっ!」

態度や言葉には出さなかったが雰囲気から俺の服を見に行くということだとすぐにわかった。

「プレゼントしてあげるよ!そのかわりちゃんと着てよね!」


「わかった。ありがとう」


てっきりファストファッションの店に行くのかと思いきや、学生が好むようなブランドのお店を数件周り、その場で購入したものに着替えさせられた。


「なんか、ごめん」


「ううん。私がしたかっただけだもん。それに着てくれてたら私だけが分かるし、嬉しいよ!」


「次はどうするの?」

恐る恐る確認した。

「思ったより時間かけちゃったから、次はご飯に行こう!」


「ご飯は奢らせて」

申し訳なさもあり、こちらからお願いした。


「え~いいのぉ~?後悔するかもよ?」


「全然大丈夫!」

少し見栄もあったが、カラオケ屋で深夜帯にバイトしていたこともあり、他の学生よりは比較的稼いでいる自負はあった。


「やったー!」

キョウコは満面の笑みで店へ案内してくれた。

道中で少し見栄を張ったことを後悔し出した。

到着したのはビルの最上階にある創作料理のお店だった


「このお店の料理はここでしか食べれないからたまに来たくなるんだよね!」

今までの俺なら絶対に来ないようなオシャレなお店だった。

一品一品が上品に盛り付けられ、料理によって出てくるお酒も変わった。


「なんでこんなオシャレな店知ってるの?」


「せっかく大学生になってバイトも始めたし、少し大人の雰囲気を味わいたくてさ。って偉そうに言ってるけど、最初はお母さんに連れてきてもらったんだ」


「そういえばキョウコの家族のことって聞いたことなかったね。兄弟はいないんだっけ?」


「うん。一人っ子」


「じゃあ、すごく可愛がられたんじゃない?」


「それはそうかもね~割と躾は厳しかったけど!」


「そうなんだ。意外だね」


「そんなに躾されてない感じに見えるかな?」


「そういうことじゃないけど…」

キョウコは悪い顔をしていた。


食事も進み、デザートが運ばれてきた。

「最後に行きたいところがあるから、早く食べてしまおう!」


「最後に?」

そこからは何を聞いてもはぐらかされた。

会計を済ませ、店を出るとキョウコは一直線に次の目的地へと向かった。

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