第8話 戦犯と戦犯

色々と考えていた。

別れを切り出すことが真っ先に頭に浮かんだが、今のタイミングで別れを切り出すことでキョウコが戦犯になるのは周囲の人間からしても明らかだった。


“少し時間を置こう”


俺が出した答えだった。


変わらずサークル活動は月1程度だったが、ダンスサークルだけは教授の先生がクラブでDJをしていることもあり、そこへの出演の練習などで活動頻度は比較的高い方だった。


サークルの時のキョウコは以前までと変わりはなく、活動終わりには一緒に帰ったりしていたが、カスミとのことについて言及してくることはなかった。


ただ、いつも帰り際には


「待ってるから」


とだけ残し、帰っていった。


年末のダンスサークルのイベントも終わり、冬の課題に取り組んだり、大掃除をしたりと忙しい休日を過ごしていた。


“そろそろ頃合いかな”


そう考えていた矢先だった。

カスミからLINEが来た。


---------------------------------------------------------------------


少し話したいことがあるんだけどさ、明日会える?


---------------------------------------------------------------------


普段やりとりしていた表現や文面の明らかな違いから、内容はおおまか予想がついていた。


---------------------------------------------------------------------


会えるよ。どこで会う?


---------------------------------------------------------------------


しばらく返信が来なかった。


どんな話をされるのか、フラれるときはどんな反応をしたら良いのかなど頭の中を多くの想像が駆け巡りっていた。


---------------------------------------------------------------------


13時に図書館の近くのカフェに来てほしい


---------------------------------------------------------------------


すぐに返信したが、その日は既読がつかなかった。


翌日。

LINEで伝えられていたカフェへ向かった。


そこにはカスミと見たことのない女性が一緒にいた。


「こちらは?」

とカスミに確認するも


「地元の友達」

としか返答されなかった。


カスミが地元の友人を紹介することなんて今までなかったため、珍しさと違和感を感じていると、カスミが話し始めた。


「少し前にさ、色々とあったじゃんか。あれから達也冷たくなったよね」

正直自分でもどう接して良いのか分からなかったため、そうなっていたのかもしれない。


「そんなつもりはなかったんだけどね。そう感じさせてしまっていたならゴメン」


「ううん。私も重たくなるようなこと言いたくなかったのに、気持ちが抑えられなくて言ってしまったのが悪かったんだと思う。今日来てもらったのはね、私たちのこれからのことについて話そうと思ってなんだ。一人だと上手く話せそうになくて友達に来てもらって…言ってなくてゴメンね」


「全然大丈夫」

一言も話さないカスミの友人に不気味さと不信感を感じながら答えた。


「あの時、達也は変わるって言ってくれたじゃん。だからすごく期待してたんだ。また出合ったときみたいに笑いあえる日が戻ってくるのかなって。でもそうじゃなかった。あれから前以上に壁を感じるようになって、達也のことが分からなくなって。仕方ないことだけど、ダンスサークルがあるからって一緒に帰れない日も増えたりしてさ、何を見たら良いのかも分からなくて」


「ごめん」


「ううん。でも今の感じだったら付き合ってる意味……」

カスミは言葉に詰まった。


「俺から話すよ。あれから俺も自分なりに色々と考えて今の状態で一緒にいるのはお互いのためにならないと思った。大して彼氏らしいことはできなかったけど、今まで一緒に過ごせて楽しかったし、本当に感謝してる。ありがとう」

ハッキリした言い方はできなかった。


「別れるってことでいいんだよね?」

カスミは困った顔で聞いてきた。


「うん。勝手でごめん」


それ以上カスミが話すことはなかった。


「それは別の人が好きになったから?」

無言を貫いていたカスミの友人が話し出した。


「そういうわけじゃない」

すかさず答えた。


「ふ~ん」

何が言いたいのか分からなかった。


「じゃあ行くね!今日はわざわざありがとう!」

店を出るときにはいつものカスミに戻っていた。


テーブルには熱気を失ったコーヒーが3つ並び、

一つは全く手をつけられていなかった。


“あの友人はなんだったんだろう”


冷めたコーヒーの苦さも感じなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る