第7話 氾濫

翌朝、カスミへ返信したが、既読すらつかなかった。


学校に到着するとリコから呼び出された。

「今日カスミ学校休むって言ってたんだけど何か知ってる?」


「いや何も聞いてない」


「そっか、達也なら何か知ってるかと思ってさ。ちなみに達也昨日飲み会の後、どうしてた?」


「具合がよくなかったからすぐに帰って寝てた」


「ならいいんだけどさ。カスミが連絡つかないって泣き出しちゃってさ。あとマヤが達也らしき人が公園で誰かと話してたって言ってたからよけいに」


「いや、真っすぐ帰って気づいたら寝てた」


「ちなみに、キョウコがあのあとどこに行ったかとか知らないよね?」


「知らない」


「そっか、変なこと聞いてごめん!」

リコの明らかに何かを知っているような口ぶりに、いつ責められるかと覚悟していた。

ハッキリとはしていなかったが、公園にいた事実まで知られている以上、カスミから切り出されるのも時間の問題だろう。

“悪い事は続くな”


授業にも集中できなかった。

学校が終わる頃、カスミから連絡がきていた。

終ったら昨日の公園に来るようにという内容だった。


片づけを終え、急いで公園へと向かった。

奥のベンチに殺風景な公園には似つかない恰好の女性がいた。


「お疲れさま」

いつになくか細い声でカスミは言う。


「お疲れ、どした?学校休むなんて珍しいよな」

俺はひとまず様子を伺った。


「サークルの懇親会の後さ、寝てたって言ってたけど、本当は何してたの?」

唐突さがカスミの心情を表していた。


「なにも……」

どこまで知っているか分からないため、自分から話すことは避けた。


「なんでこの公園に呼んだか分かる?」


「わからない」


「マヤからこの公園に達也が女の子といたって聞いたからだよ。本当にわからない?」

人違いだと伝えてもカスミの気持ちが晴れることはないだろう。

それ以上に、いつか発覚して面倒くさくなることが嫌だった。


俺の中で様々な葛藤はあったが今正直に話すことを選んだ。


「ごめん。実はキョウコが心配で連絡したらここにいるって言われて…」

カスミは驚いた表情をしていた。


「本当だったんだ…ちょっと人違いならいいなって思っちゃてた。急に飛び出して行っちゃったもんね。私もちょっと心配はしてた。でも…なんで達也が心配してあげる必要があるの?なんで達也が寄り添わないといけないの?」

カスミは寂しそうな笑顔で目を潤ませながら言った。


「それは…」

カスミの言葉が核心をついていたため、言葉に詰まった。


「キョウコと何かあったの?」


「いや、別に」


「別にってなに?なかったらないって言うよね?」


このときの俺は自分の保身ばかり考えていた。


「無いけど、コウスケの相談に乗ってたら、好きだと言われた…泣いていた理由が俺だったから、放っておくこともできなくて…」


「関係ないじゃん!なんでキョウコが達也のことで泣くの?私がそばにいたから?達也は私の彼氏なんだから普通のことじゃん!なんで?ねぇ…わかんないよ。私はどうしたらいいの?」


泣いて訴えるカスミにかける言葉がなかった。

落ち着くまで隣で背中をさすっていた。


「キョウコにもそうやってしたの?」

今は何をしても悪循環だ。


「してない。ただ話を聞いていただけ」


「もう何を言われても素直に聞けないよ…」

これまで嘘をつくことを何とも思っていなかった。

一度も嘘がバレたことがなかったからだ。


「ごめん、もう疑われるようなことや、紛らわしいことはしないよ」

苦し紛れだった。


「私はどうやって信じたらいい?信じれる気がしないよ」


「信じてもらえるように俺が変わるよ。それでも信じられなかったら別れよ」


“別れる”という言葉を出した途端、カスミの目は堰を切った。


落ち着きを取り戻してきたとき

「お互い思うことがあればちゃんと伝えようね。良いことも悪い事も」

意味深い一言だった。


次の日から明らかに変化したことがあった。


いつもカスミが一緒にいるグループが3人になっていたことだ。

キョウコが完全に別のグループと行動するようになっていた。


「最近、あのグループとキョウコは一緒にいなくなったな」


学籍番号が一つ前だったこともあり、普段から一緒に行動していたタケシは気づいていた。

タケシは端正な顔立ちで身長も180cm以上あり、ファッションにも気をつかっているモデルのような見た目だった。

成績も優秀であり、テストのときにはいつもカンニングに協力してもらっていた。


タケシにはカスミのこともキョウコのことも話していた。


「そろそろどうにかしないと達也の居場所がなくなるんじゃないか」

俺もうすうす感じていた。


カスミとは毎日のように一緒に帰っていたが、以前と比べると会話も少なくなっていた。

カスミに信じてもらうためにどうするかを最初は考えていたが正直少ししんどくなってきていた。


「最近、ちょっとしんどくなってきちゃってさ」

タケシには素直に伝えていた。


「無理して一緒にいる必要ある?」

自覚していなかったが、その一言で気づかされた。


「たしかに」


「達也とカスミちゃんの問題だから、これ以上は言わないけどさ」

本当にできた奴だ。


「とりあえず、次のテストも頼むな」


「テストはいいけど、それまでにこの問題どうにかしとけよ」

“上手いこと言うな”と笑い合っていた。


俺とカスミにとってはもちろんだが、関わる友人たちにも気にさせてしまっているのは確かだった。


“どうする”か…


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