第6話 暗転
あたりをキョロキョロしていると、
「どうかした?」
挙動不審な俺にカスミが問いかける。
「なんでもない」
少なくとも近くにキョウコの姿はなかった。
居酒屋では0次会と題し、先輩たちがすでに飲んでいた。
1年生はまとまって席についた。
ダンスサークルの時とは違って、テーブルの指定もなく、各自で楽しむ雰囲気だった。
「それにしてもリコ本当にバスケ上手だね!」
カスミは満面の笑みでリコを賞賛していた。
「そんなことないよぉ」
リコもまんざらではない表情で答えている。
「あっキョウコだ!こっちこっち」
遅れてきたグループの中にキョウコの姿があった。
「ゴメン、遅れちゃって」
LINEで連絡を取り合っていたようだった。
“最悪だ”
急激な居心地の悪さに席を立とうとした。
「どこ行くの?トイレ?トイレは角曲がったとこだよ」
平然とした表情でキョウコが言う。
「うん。ありがとう」
キョウコの笑顔が少し怖く感じた。
俺は変なことを口にしないようにソフトドリンクだけにしていた。
突然カスミからもっと近くに来るように手招きされた。
言われるがまま近づくと、肩に頭を乗せてきた。
「そういうのは家でやってよ」
リコはあきれた顔でため息をついた。
「ちょっと酔ったみたい」
カスミが顔を赤らめながら話した。
しばらくそのまま大人しくしているとキョウコからLINEが来た。
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へぇ~ラブラブじゃん…
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状況が状況だったのでひとまず無視した。
そろそろ解散というタイミングで突然キョウコが頭を伏せて泣き出した。
この状況でキョウコに言葉をかけるわけにもいかないため、静観しているとキョウコは立ち上がって店から出て行った。
「キョウコどうしたんだろ?」
カスミは寝ぼけ眼で心配していた。
キョウコが店から出た後、LINEが来た。
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公園に来て。待ってるから。
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飲み会も終わり、カスミはリコと帰りが同じ電車だったため、一緒に駅まで向かわせた。
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まだいる?今から行く
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キョウコにLINEを返したが、返答はなかった。
真っ暗な公園の一番奥に一人顔を伏せて座る子がいた。
座っている場所でキョウコであることはすぐにわかった。
「ごめん、遅くなった。どした?急に泣き出したりして」
何て声をかけるのが正解か分からなかった。
「達也さ、カスミのこと好きか分からないって言ってたよね。好きじゃなくてもああいうことはしてあげるんだ」
......。
「私はさ、達也のこと好きだよ。好きだから少しでも一緒にいたくて飲み会も参加した。でも、あんなところ見るぐらいなら参加しなきゃよかった」
「ごめん」
謝る必要がないことは俺が一番分かっていた。
ただ、泣かせている加害者になることが嫌だった。
「達也はさ、私のこと嫌い?」
「嫌うことなんて何もないよ」
「そうやって気を遣われるとまた期待したくなっちゃうんだよね…。ダメだってわかってるのにさ。こないだ公園で挨拶したときはどんな気持ちだったの?」
「素直に可愛いと思ったのと、罪悪感かな」
「罪悪感?カラオケのときのこと?本当にそう思ってたらしないよね」
キョウコの言う通りだった。
カラオケの一件以降、キョウコの事を目で追ってしまう自分がいたことには気づいていた。
「達也、私と付き合ってよ」
胸が痛くなった。
「今はできない。カスミがいるから」
「じゃあいつまでも待つから」
「もう夜も遅いし、帰ろう」
返事をしないまま最寄り駅までキョウコを送っていった。
別れ際、キョウコは満面の笑みで
「待ってるからね」
と話し、街灯の中へと消えていった。
携帯を見ると30分前にカスミから連絡が来ていた。
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実はリコとかと帰ってたんだけど、途中でもう1軒寄ることになってさ。
今、終わったところなんだよね。
勘違いだったらごめんね。
達也のことを見かけたって言ってる子がいたから連絡したんだけど、
今何してる?
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踏切の音が聞こえなくなるほどの拍動を感じた。
電車の通り過ぎたあとの静けさがやけに虚しく、震える指先が携帯の画面を暗闇にした。
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