第5話 勝てない交渉

「なんで?」

不意に出た言葉だった。


「なんでは変じゃない?バスケサークルに入ってるからだよ」

ジャージ姿のキョウコは相変わらず子どものように笑う。


「あぁそっか」

何故か急に昔見たテレビの内容を思い出した。

高さが同じだった場合、雷は冷や汗をかいている人に落ちやすいという内容だった。

今ここで雷が落ちるなら間違いなく俺だ。


「良かったぁ。誰も知ってる人いなかったらどうしようかと思ってたんだよね」


少し違和感があった。


「カスミとかと話してないの?」


「カスミ?最近あんまり話してないかも」


「カスミからリコとか元々バスケ上手だって聞いてたし、てっきり来るなら皆と一緒に来るもんだと思ってた」


「最近ね、あんまりみんなと一緒にいないようにしててさ。コウスケのときにみんなにも心配かけちゃったし」


違和感について言及するつもりはなかったが、自然と解消された。


続々とサークルメンバーらしき人たちが集まる中、集合時間ギリギリにカスミたちは到着した。


到着するなり

「キョウコもバスケ入ってたんだ!何で教えてくなかったの?」

お嬢様の皮肉にも聞こえるような口調で話した。


「言い出すタイミングが無くってさ」

少し気まずそうにキョウコは返した。


「最近キョウコあんまり声かけてくれないもんね、なんかあったら遠慮なく言ってね!」

聞き耳を立てていたが、“なんかあったら”という部分が妙に気にかかった。


“カスミは何か気づいているのか”

ふと頭を妄想に近い想像がよぎった。


「うん。大丈夫!ありがとう」

目配せをしながらキョウコは離れていった。

俺は気づいていないフリをして、準備運動を続けた。


試合は経験者が活躍する中、男女混合チームにも関わらず、リコが一際輝いていた。


「リコすごいよね!」

カスミは自分のことのように自慢げに話してくる。


「さすが女子選抜に選ばれるだけあるよな」

素直に関心していた。


「そういえば、今日の懇親会どうするの?」

カスミの目は輝いていた。


「面倒だから行かないかな」

一気にカスミの顔色が変わった。


「せっかくだし、行こうよ!先輩とかに過去問とかもらえるように交流しとかないとさ!」

断りづらい理由で追い打ちをかけてきた。


「誰かにもらうからいいよ」

頑なに拒んだ。


「あれ~、達也はカスミの酔ったところみたくないの?」

試合を終えたリコがからかいに来た。


「大丈夫」

横目でカスミを見ると今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「やっぱ行く」

流されやすい性格を恨んだ。


「やったー!じゃあ同じ席で飲もうね!」

晴天の夏空のような表情でカスミは言う。


俺はどうしても気になっていることがあった。

“飲み会にキョウコが来たらどうしよう”


体育館の片づけも終わり、懇親会に参加するメンバーは一緒に移動することになった。

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