第2話 元凶

現実と夢の区別がつかないまま休日を過ごし、次の登校日を迎えた。


「おはよ!」

キョウコが何もなかったかのように明るく挨拶をしてくる。


「ダンスサークルでキョウコと一緒になったんだね!キョウコも部長から変なお願いされたって困ってたよ」

カスミはいつもの調子だ。


“やっぱりあれは寝ぼけてたのか”

自分の記憶を疑いながら席についた。


授業も終わり、帰り支度をしているとカスミがいつも通り近づいてきた。

「さっ!帰ろっか」

当たり前のように駅まで送らせるようになってきた。


不確かな嫌悪感とともに歩いていると......


「キョウコ、コウスケと別れるかもって言ってた」

表現できない感情に押しつぶされそうになった。


「コウスケが考えてることが分からないって。一度キョウコの話を聞いてあげてくれない?男目線で考えるといいアドバイスとかできるかもしれないじゃん」

告白された時と同じだ。返事ができなかった。


沈黙の中、歩いていると自転車の前を黒い猫が横切った。


「可愛いけどなんか不吉だね」

カスミが思いをそのまま口にするときは居心地が悪いときだ。

咄嗟に口を開いた。


「ごめんごめん。俺がアドバイスできることがあるか考えちゃってた。俺もあんまり恋愛とか経験ないからさ」

「全然大丈夫だって!キョウコも少し意見さえ聞いてもらって、簡単なアドバイスがもらえるだけでも気持ちは楽になると思うからさっ」


「わかった。一回話してみる」


次の日の学校終わり。

この日は珍しくカスミが声をかけてこなかった。


“そっかキョウコと話すんだっけ”

不安と困惑が入り乱れ、忘れたフリをしたかった。


「お疲れさま!わざわざゴメンね、カスミにもありがとうって伝えといてね!」

普段の明るいキョウコだった。


「どこで話す?」

俺はぶっきらぼうに答えた。


「何その冷たい感じぃ~。あの時はあんなに優しかったのにぃ」

この一言で急激に罪悪感が増した。


“やっぱり夢じゃなかった”


「いや、いつもこんな感じだから」

平然を装うつもりが逆によそよそしくなった。


「じゃあ駅の裏にある公園にしようよ!」

公園といっても砂場とベンチだけがあるような子どもが寄り付きそうもない公園だ。

日暮れも少し早まってきたこともあり、夕方の帰宅時間にも関わらず公園には俺とキョウコだけだった。

公園の一番奥にある、砂場から少し離れたベンチに座った。


「カスミは何て言って今日話す機会を作ってくれたのかな?」

座るなり、とぼけた顔でキョウコは話し出した。

「コウスケのことで相談にのってあげてほしいって」

気まずそうな表情で俺は言う。


キョウコの顔から笑顔が消え、一時の沈黙が流れた。

風が木々を揺らし、葉を散らしながら吹き抜けていく音だけが響いていた。

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