第142話 令嬢はお出迎えする

 訓練ばかりするようになってから一週間、後数日で魔法騎士団が現地に到着すると知らせがあった。

 毎日楽しく過ごしているが、クリスの彼女から凄く視線を感じるようになった。


 デポラも気が付いていたようで、余計な嫉妬をさせないように、クリスと二人にならないように気を付けた。

 元々いつも周囲に他の人がいたけれど、更に気を付けなければ。


「あの子、どういうつもりなのかしらね?」 

 デポラと寝る前に話す。二人だけなので、庶民のフリもしない。


「ちょっとクリスと仲良くし過ぎたかな」


「そこじゃないわ。普通の嫉妬って感じじゃないもの。あの子に今回のお礼は言われた?」


「うん? 話したことないよ。見かけることは多いけど。庶民が貴族に話しかけるのもおかしいし」


 自分で言いつつ、他の貴族とはいつも通り話している事に気が付いた。

 イザーク様、デポラ、クリス、クリスのご両親。貴族ばっかりだわ。


「あの子ね、私とダーリン、イザーク様の所には、部屋までお茶付きでお礼に来たのよ」


「お礼を言いに来たんでしょ? だったら良くない?」


「エルやギルドの人にはお礼を言ってないでしょ?」


「うーん? そうなの? ギルド員の雰囲気が苦手? 子爵令嬢だったっけ?」


「辺境出身で、兵士に交ざって動いている人が? ギルド員だけ? 違うでしょ。どちらかというと権力が好きって感じね。クリスさんが素敵なだけに、つり合いとしては微妙よね」


「えっ、デポラ、まさか!」


「違う! 注目するとこそっち違う!」

 デポラにいかにダーリンが素敵であるかを力説された。


 ちょっとデポラもクリスのことが気に入っている? くらいの軽い返しのつもりだったのに、もうお腹いっぱいです。私が悪かったです。もう言いません。


 その後もジリジリと視線を感じながら過ごした。私がイザーク様と話をしている時も凄く見られている。

 イザーク様が人目を引くタイプだからだと今までは思っていたが、ちょっと違う気がして来た。


 そんな中、ようやく魔法騎士団が到着したとエーリヒから連絡があった。

 領館の状況が落ち着いているので、今日は休憩して明日からダンジョンへ行くことに決まったそうだ。


 エーリヒからこちらに一人送りたいと言われたらしく、イザーク様に連れられて転移魔法を創る。

 領主様に許可をもらって一応領館の敷地外になる、見回りをする壁の上でお出迎え。


 騎士団の誰かかと思っていたら、ディートリヒがやって来た。何で。


「何で来た」


 思わず身構えて言うと、うっすらディートリヒが笑った。何か怖い。


「イザーク様たちと内密に、でもしっかりと話したいことができてね」


「何かあったのか?」


 イザーク様はディートリヒが来ると最初から知っていたみたい。だったら教えてくれたら良かったのに。

 あれ? 私の正体がバレていることを伝えたっけ? 後で聞いたら、ディートリヒから聞いていた。


「えぇ。残念ながら。デポラ嬢やダーリング様、それとヴェルナー様とも話をしたいのですが」


 そうじゃないかとは思っていたが、お兄様の存在も既にバレていた。領館の部屋を一室借りる。

 内密って所に嫌な予感しかしない。全員分のお茶とお菓子を用意して防音魔法をかけて落ち着くと、ディートリヒが話し始めた。


 イザーク様の提案で、最初から話をしてくれる。


「部隊長は王妃陛下の親類です。そして、現場での評価と書類上の評価が全くの別物でした。そして、書類上だけ優秀な為に、実績がありません」


 現場での評価が悪いのなら、騎士団への入団そのものもコネを使った可能性があるってことかな。

 ダーリンがピリッとしている。本来の騎士団は、完全実力主義だからね。


「今回の件がその部隊長の実績作りに選ばれたようです。土地柄それ程のモンスターはいないという予測と、王都から離れていて情報操作がしやすいことが理由だと考えられます」


「実際にはモンスターと自分たちの実力が見合わずに、実績作りに失敗した。それで終わらないのか?」

 お兄様が聞く。


「現在、妙なことになっていまして。誰かが今も、強引に部隊長の手柄にするつもりで動いています」


「騎士団員は現場主義で運営面を文官に任せているとは言え、さすがに能力の無い人間を部隊長にすること自体あり得ないと思います。それに魔法騎士団が現場に来た時点で、手柄というのは無理だと思うのですが」

 ダーリンが反論した。


「書類上の評価は驚くほど優秀ですよ。騎士団の運営トップは王弟殿下ですから、王弟殿下の署名で部隊長になっていました。書類に騙されたのか、故意かはわかりませんけどね」


 その言い方だと、ディートリヒは故意だと疑っているな。背後に王弟がいるって。何か規模が大きくなってきた。


「つまり、トップが故意なら現場をどうにかすればってこと? 流石に黙らせられる面子じゃないよね?」


 お兄様がイザーク様を見ながら聞いた。イザーク様を嘘つき扱いするのは至難の業だと私も思います。


「現場に来た魔法騎士団長と話をしたのですが、ローヴィル卿の連絡が遅すぎて、手に負えない状態だったと聞いて派遣されていたのです」


「はぁん、彼らにすれば、既にどちらの言い分が正しいのかはわからないということか」

 イザーク様が言う。


「努力はしたが自分たちの力が至らないばかりに、ローヴィル卿の失態が露見するのは申し訳ない。だからダンジョンギルドへ要請したと。そこまでの話が魔法騎士団に伝わっています」


 そこで言葉を切って、ディートリヒが皆の顔を見た。


「現場にいる団員のほとんどは部隊長と口裏を合わせ、一部が現場から上げた抗議も、どこかでローヴィル卿に対する抗議にすり替えられていました」


「あぁん?」

 思わず声が出た。


「エル、その言葉遣いは庶民でも駄目だろ」

 直ぐにお兄様から注意が入った。


「人として、顔も駄目だ」


 イザーク様からも。だってだって、自分たちのせいでここが危なくなったと言うのに、何だそれ。許せん。

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