第143話 令嬢は現状を聞く

 ベルンハルトとそのお供は今現在全員から事の経緯を聞いているが、全員が同じ事を言っている。既に口裏合わせが終わっていた。

 頼みのエーリヒは、部隊が撤退を判断した後に呼ばれて合流した為に、最初の状況を見ていない。


「団員のほとんどが、職務規定違反を部隊長に握られているようです」


「部隊長に守られているうちは騎士団でいられるが、それが外れれば騎士でいられなくなると?」

 ダーリンが渋い顔で言う。


「その通りです。巧妙に隠蔽されていましたが、調査の結果、処罰の上に除隊要件を満たしている人が既に複数。では最初に誰が巧妙に隠したのかと言う問題になりますよね」


「王弟……?」

 デポラがぽつりと呟いた。


「そこはまだ調査中です。けれど、部隊長に強力な後援者がいることは間違いない。それに、最初に現場にいた騎士が口裏を合わせている以上、後から参加した人々の証言は意味がない。ローヴィル卿と部隊長、どちらの言い分が正しいのかに話が移ってしまう」


 つまり、ローヴィル卿が自分の対応の遅さを部隊長になすりつけようとしているのか、部隊長が自分の失敗を隠蔽しようとしているのかの戦い。

 だけれどここでは完全に部隊長の隠蔽で話が進んでいる。だよね。


「現場に来ている騎士団員は真実を話す気はないのか?」

 イザーク様が聞く。


「真実を話した瞬間に処罰対象で除隊が待っているので。既に処罰対象である証拠を突きつけても、除隊後の事を考えれば話さないでしょう」


 話すと部隊長のバックに消されるかもしれない的な? もう、小説みたいな話になっている。


「おかしな話ですが、処罰後の保護を確約しないと話さないでしょうね。そして、それがベルンハルト殿下や騎士団関係に弱いガロン侯爵家では、信用に足りないと判断されています」


「えー、悪い人を保護するってなに」


 おかし過ぎる話に私だけでなく、ダーリンがますます渋い顔になっている。


「ローヴィル卿にも圧力がかかっている情報を掴みました。今後の援助や今回参加したギルド員に対する報復をちらつかせているようですね」


 ため息しか出ない。


 所詮は遅れて現場に着いた人たちという扱いで、このままではローヴィル卿の失態を人的被害無しにおさめた部隊長の手柄になるらしい。

 無理があり過ぎる気がするけれど、情報操作と権力を使えば可能とか。うんざりするわ。


「今の状況ではどちらが真実かよりも、権力争いで勝つか負けるかか」


 イザーク様が真剣な顔で言う。真面目な話の最中なので言えないが、その顔も色気が漂っていてイケメンです。


「そうです。残念ながら、ローヴィル卿の味方が中央には少ない。ローヴィル卿の失態となれば、ギルド員への報酬も辺境伯としての負担になります」


「ゲルン卿もガロン卿も動いているんじゃないのか?」

 お兄様が聞く。


「既に動いていますよ。それでもちょっと時間が足りない感じなんです。魔法騎士団がダンジョンの問題を解決するまでに、どこまでいけるかです」


「それで俺たちか」

 お兄様が言う。


「はい。根回しする人員の身分が足りていません。跡継ぎに言われた方が説得力があります。特に騎士団内部は荒れています」


「騎士団が荒れているとは?」

 ダーリンが聞く。


「最初の一報、それに彼らは自分たち騎士団の清廉さに誇りを持っている。どちらの情報が正しいか決めかねています。更に、権力闘争だと気が付いた人は、騎士団員が権力闘争に関わるべきではないと考えているようです」


 ダーリンがぎゅっと拳を握り、デポラは思案を始めた。


「あれだけのモンスターが徘徊したのだから、土地は荒れている。無駄金を使う余裕など無いはずですが、ローヴィル卿は恩を仇で返したくはないと、ギルド員に対する報復を恐れて口をつぐんでいるようです」


「お人好し過ぎるな……」


 イザーク様の呟きに私も賛成。私たちだって、騎士団員が現場を放棄した瞬間は見ていない。

 それでも私たちが来るまで何もしていなかった騎士団と、辺境伯の人たちでは、辺境伯側を信じる。


「一応言っておきますが、部隊長や騎士団員は黒で確定です。騎士団に同行していてローヴィル卿と連絡が取れなくなっていた兵士二人が、監禁されていたのを確保しています」


「今後のことも考えると、ここで負けると厄介だな」


 イザーク様は既にどう動くか考え出した様子。


「ええ。確実に。関係各所に真実をばら撒き、静観するつもりの人や騎士たちを動かして下さい」


「ひっくり返すか」

 イザーク様なら本当にひっくり返しそうで、安心感がある。


「ええ。ここまでしてあの部隊長を出世させたい理由がまだわかりません。何かもっと別の計画のために彼を利用したいのではないかと考えられるのですよね。ガロン侯爵家を嵌めたいにしては彼は本家からは遠すぎます。けれど、王妃陛下には遠くない」


「そうだな。ただ金のためだけというには、俺たちが関わった時点で危険が多すぎる。さっさと切り捨てた方が得だろう。何かあるな」


「ええ。協力をお願いします」


「わかった。役割分担を決めよう」

 イザーク様の言葉にお兄様が待ったをかけた。


「待って。それ多分、ノルン侯爵家は関わらない方がいい」

 うちの人脈は碌でもないからね。


「……そうだな。俺たちが連絡に時間を使っている間、領館を頼む。ヴェルはまず、昼寝だな?」


 ディートリヒがさらに今わかっている情報をダーリンとデポラに話している横で、イザーク様は通話を始めた。

 私に役に立てることはなさそう。ここにいてもできることはないので退室しようとしたら、ディートリヒに待ったをかけられた。


「念の為、ギルド員は騎士団と合流せずに帰れるよう手配してるから。ギルド員にエーリヒさんと組めば遠距離転移魔法が創れる人に詳細は伝えずに、転移魔法の準備を頼んでもらえる?」


「わかった」

 それって私の事だし、今聞いた。退室してエーリヒと通話しよう。


「後でローヴィル卿とも話がしたいんだけど」


 お兄様は私に任せると言ってお昼寝に行ってしまった。ディートリヒの話が終わったら、私が案内することになった。

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