第136話 小姑の本領発揮 3
救援部隊を見送った後、ベルンハルトのお守り役で付いて来ざるを得なかった風を装って、騎士団に交じって雑談に励んだ。
ただの学生で大した事も出来ない、評判の悪いベルンハルトに相応しい側近候補を演じた。
「ディートリヒ様もなかなかえげつないよね。皆は優秀だと言う噂が嘘だと信じ始めているよ」
優秀なエーリヒに褒められたが、内容が嬉しくない。早急に話題を変える事にした。
「皆さんの言動と目線や行動範囲からですが、あのテントに秘密があるのだと思います」
目線だけでエーリヒに伝える。
「へぇ。早いね。流石」
ディートリヒが優秀なのではない。相手があまり優秀な人員ではないようで、騎士団員にしては口が軽かった。
核心については何も話さないが、会話で得られる情報は非常に多かった。
さり気なく雑談をしていると、お互いに上に振り回されて大変だねと同情された。同情を集めて情報も集めた。
不幸中の幸いと言うべきか、辺境伯の兵士は捕らえられているだけで、無事なようだった。
夜になるのを待って、エーリヒとこっそりテント内部に侵入することに成功した。
認識阻害や感知など色々な魔法が付与されていたが、エーリヒが問題なく侵入させてくれた。本当に優秀。
「……誰だ?」
寝ていた男二人が気配で起きた。兵士としてかなり優秀そう。
「北の辺境伯所属の兵士の方ですか? 私はローヴィル卿から依頼されて、お二人を探していました」
騎士団がアレだったしディートリヒが明らかに若いので、こちらを信用する気配が全くない。
「正確に言うなら、ローヴィル卿が相談したゲルン卿経由でここに来ました。お名前を確認しても?」
ゲルン卿とローヴィル卿がかなり懇意にしていることは、ハルン侯爵家の手前それ程知られていない。
お陰で名前を聞き出す事に成功した。連絡が取れず行方不明となっていた兵士二人だった。
こちらを信用し始めた二人に、二人がテントに閉じ込められてからの状況と、既に別動隊が領館に到着したことを伝えた。
二人がようやく安心したように思うと同時に、信用されつつあると感じた。
「別動隊にはゲルンのイザーク様、ウテシュのデポラ嬢、フォードのダーリング様も加わっています。モンスターが排除されるまで、領館は問題ないでしょう」
二人に何があったかを聞いた。
ダンジョンに騎士が到着後、騎士が現場を仕切っていたが全く実力が足りなかった。
結局二人が中心となってモンスターを間引いたが、元々人手不足で呼んでいたので当然対処しきれない。
早々に部隊長が撤退を命令。モンスターを躱しつつローヴィル卿に連絡しようとした時に、後ろからガツンとやられたそうだ。
「……ご愁傷さまです。怪我は?」
思わず口から言葉が出た。役に立たない騎士を守りながら通話しようとしたら後ろからなんて、最悪だ。
「頑丈なので二人共たんこぶ程度です。ですが魔力封じをつけられてしまい、外部と連絡も取れず、テントからも出られません」
エーリヒがさらっと魔力感知を防ぐ魔法を展開後、癒し魔法で二人の治療を始めた。
本当にこの人は何でも出来るな。その間に魔力封じを調べると、少々厄介な仕様になっていた。
「魔力封じは、付けた本人以外が外せない様になっていますね。エーリヒさん、何とかできます?」
「人使いが荒いね、ディートリヒ様。無理に外すと特定の人物に知らせる仕組みにもなっているね。バレない様に仕様変更しちゃいましょうか」
外す以上の仕様変更って。本当にこの人は凄い。
この人が後から合流する部隊でなければ、兵士二人とエーリヒだけでダンジョンも何とかなったのではないかと思ってしまう。
「えーと、はい。出来ました。魔力を感知されたらバレるので、魔法は使わないで下さいね。物理も魔法も死なない程度に弱体化させるので、何かされたらやられている演技をして下さい。それから、移動させられたら位置がわかるようにしましたので、安心してさらわれて下さい」
安心してさらわれるってどういう状況だと突っ込みたいが、証拠を集めるのには最適な仕様変更だと思う。
この人は優秀を通り越して怖い人かもしれない。さすがゲルン卿と懇意にしているだけはある。兵士もかなり驚いている。
二人には虚偽の報告が城に届けられているので、今は証拠を集めるのを優先したいと伝えた。
申し訳ないが、二人にはもうしばらくこの不便な状況に居続けてもらうことになった。
自分たちが動けない事に歯がゆそうにはしていたが、捕らえられている二人からの情報も充分有益だった。
何事もなかったようにエーリヒとテントから出て、ディートリヒのテントに二人で入った。
勿論、外部に音が漏れない様にしている。ディートリヒとエーリヒが協力関係にあることは、証拠が集まるまでは伏せておきたい。
「エーリヒさんは、その、魔法が凄いですね」
「いやいや、ディートリヒ様の方が凄いよ。僕も探ってはいたけれど、あのテントを今まで特定できなかったからね。たった数時間で特定するなんて凄いよ」
エーリヒはモンスターの間引きをしつつの情報収集だったからだとは思うが、ディートリヒは自分が虚しくなりそうで強く否定はしなかった。
エーリヒと本格的に情報交換をして夜が更けていった。今回の騎士団員のほとんどが部隊長の子飼いだと予めわかっていたが、本当に例外は数人しかいなさそうだった。
「明日からも、頑張りますかね……」
色々ともやもやすることはあったものの、各所に必要な通話をした後、明日に備えてディートリヒは寝る事にした。
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