第140話 イケメェェェェェェェン!!

 二人の対戦が今回も静かに始まる。静かだけれど、周囲がかなり興奮しているのがわかる。

 私とデポラが色々とやっているのを少なからず見ていたし、相手をすることで協力もしてくれていた。


 皆その途中経過がどうなっているのか、気になっている。


 イザーク様がデポラへ踏み込むタイミングに合わせ、クリスが私に合図をくれる。デポラに魔法を展開。

 デポラは身体強化の改良版を展開し、私は速さと物理的な圧を増すための魔法を重ね掛けする。


 不足する筋力は追い風と向かい風で補助して、イザーク様に斬りかかる時は、剣が重く速くなるように重力魔法と追い風の重ねがけだ!

 イザーク様とデポラの剣が合わさる。さて、どうなるか。


 ……イザーク様が訓練場の端まで吹っ飛んだ。何処かで見た光景。


「デポラぁぁぁぁぁぁぁぁ! やり過ぎ!!」


 お兄様に防護魔法がちがちにしてもらっておいて良かった。


「ちがっ、エルの魔法が強力すぎたのよ!!」


「嘘だぁぁぁぁぁ。イザーク様、ご無事ですかぁぁぁぁぁ」


 二人で慌てて駆け寄ると、イザーク様は面白そうに笑っていた。


「いいな、これ。久し振りにゾクゾクしたよ」


「イケメェェェェェェェン!!」


 何か凄いイザーク様が格好良かったので、思わず叫んでしまった。同じく駆け寄っていたお兄様にはたかれた。


 髪をかき上げながらの台詞が、凄い格好良かったです。笑顔に色気も凄い感じました。はい、ごめんなさい。

 興奮し過ぎました。落ち着きます。私の叫びに静まりかえっていた訓練場は、笑いに包まれた。


「心配して駆け寄ったんじゃなかったのか! 何がイケメンだ!」


 お兄様にこってり怒られた。ごめんなさい。反省しています。真っ先に心配をするべきでした。


 イザーク様はちゃんと無傷。良かった。デポラとイザーク様は既にさっきの魔法について話し込んでいる。

 さりげなくダーリンもデポラの隣を陣取って参加している。私もそっちに参加したいな。


「まぁまぁ、シスコンはそれくらいにして。エルちゃん、俺も今のやりたいな。詳しく教えてよ」


 イザーク様の言葉に、集まってきていた他の人も同意を示した。

 デポラとクリスの通訳付きで説明すると、Sランクでも難し過ぎると言われた。そうなのか。


 とにかく何故追い風とか向かい風のイメージで、速さや圧が補助できるのかがわからないらしい。

 そこが通訳にも上手に説明できなかったので、何人かに体感してもらったら風魔法とは違うと言われた。


 そうなのか。私としては感覚で風魔法に分類していた。

 魔法は理論も大切だけれど、最終的には感覚派です。すみません。


 それぞれが自分ができる範囲で試すために、自主訓練組が増えた。

 私たちにはダーリンが加わって、自分自身でできるように本格的な訓練が始まった。


「誰が最初にこの凄い魔法を会得出来るか選手権みたいだな」

とイザーク様に笑われた。


 デポラに試した魔法を自分にも試したが、私の場合は魔法に自分が追いつけずちぐはぐになった。

 初期に選手権から脱落して、地道に身体能力の向上に努める。私はデポラ監修の元、体幹トレーニングに励みつつ剣技を磨いた。


 剣の対戦相手はクリスにしてもらっている。指導してもらうのに、丁度いい実力差と言われた。

 色々な人に悪いところを指摘されながらできる訓練っていいな。


「ちょ、本当にエルはどこ目指してるんスか」


 自分でもいい感じに切り込めたと思ったら、そう言われた。動きが良くなってきたと自分でもわかる。

 多少魔法での補助を入れてはいるが、デポラを呪った成果もあるかも?


「……暗殺? になるのかな、これ」


「いや、ダメでしょ」


 結局あの魔法を完全に使いこなせそうなのは、デポラだけだった。

 私のふんわりイメージ魔法を、複合魔法で再現したらしい。私のイメージと体感だけで再現するとはさすが。


 再現できたデポラに皆がどうやったのか聞きまくっていたが、最終的には完全再現を全員が断念した。

 微調整が非常に難しく少しでも失敗すると、逆に身体を痛めるくらい複雑なんだって。


「使うとしたら命懸けの場面で、イチかバチかの最後の切り札だな」

とジョンに言われた。


「そんな!?」


「そんなレベル。まっ、切り札が増えて助かったが」


 深く考えていなかったけれど、デポラに怪我をさせずに済んで良かった。

 それにデポラの為に考えた魔法だから、男性陣には自前の筋肉で頑張って欲しい。


「結局エルが、人外みたいな魔法の使い方をしていたってことでスね」


 クリスが言って来たが、人外って何だ。その言い方だと、デポラも人外になりますけど。


「そうだな。そもそもデポラ嬢の反応速度が異常の域だから、凡人はこの程度までかな」


 程々に安全に強化する方法を編み出して、皆の尊敬を一心に集めているイザーク様。

 イザーク様が凡人だったら、私はどうなるのだ。私とデポラは続けるが、一旦この集まりは解散となった。

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