第138話 令嬢は案外暇になる
交代で壁周辺を警戒しながらも、それなりにのんびりした日が続いた。人数が増えたし、何よりモンスターが周囲にあまりいなくなった。
お兄様が念の為、威力を低くした防護魔法を張り続けているが、夜から明け方にかけては全員の体力回復を優先して、元の威力に戻している。
私が集めた魔石が有効活用されていても、やっぱりちょっと負担があり過ぎるよう。
代わりを五人がかりで用意しようとしたが、上手くいかなかった。私も役立たずだった。
お兄様のスペックが高過ぎて、五人がかりでも代わりになれないなんて、イザーク様でも想定外だった。
なのでお兄様の防護魔法を交代で補助し、昼は見回りの回数と人数を増やしてお兄様の防護魔法が無い状態にすることになった。
それでも疲れが溜まるみたいで、ユキちゃんやコタローと一緒に静かに過ごしていることが多い。
睡眠時間も長くなっていて、防護魔法を他の人に任せるお昼は、もふもふに囲まれてお昼寝している。
モフモフと一緒にお昼寝するお兄様も素敵です。お兄様、無理はせずに頑張れ。相変わらず寝相良いな。
私はデポラ、ダーリン、イザーク様と一緒に見回りに参加しながら、防護魔法の維持にも参加している。
全て私が寝落ちしている間に決まっていた。この組み合わせだけ破壊力がありすぎる気がするのだが、私の運動神経が壊滅的だからですか。
ねぇ、誰か。苦笑いじゃなくて本当のことを教えて。本当は私が参加しない方が皆に迷惑をかけないとかじゃないよね?
こういう時にちゃんと教えてくれるのは、クリスしかいない。クリスに突撃した。
「クリス様、見回りのこの組み合わせはどう決めたのでしょうか」
「ああ、それはですね……。まず、連携が取りやすいということで、知り合い同士が組むことになりました。エルはギルドの人とも知り合いだから、そちらに入っても問題ないですよね?」
クリスが遠い目をしている。薄々続きがわかってしまったが、最後まで正確に聞きたい。
「そうですね。連携が上手くとれるかまではわかりませんが、仲は良いと思います」
「ですよね。人数的にギルド員側にエルを組み込もうとしたら、ヴェルが反対しました」
「やはりか」
お兄様の拗らせは、残念ながらまだ治っていない。
「そうなんでス。そもそも見回りに参加させないと言い出して」
「相変わらずか」
つい素で返答してしまう。
「人数的に無理だとわかると、デポラさんと組む以外は許さないと。それでデポラさんとエルが組むと決まりました。そうスるとですね、ダーリング様が出てくるわけですよ」
「まぁ、そうだよね」
心配だろうし。
「四人一組にあと一人。ギルドの人たちが面白がって、デポラさんと一緒が良いとか言い出してカオスでした」
「そうですか……」
大変だったのだろう。労るようにクリスの背中をぽんぽんしておいた。
きっと最終的には面倒になったイザーク様が、問答無用でおさめたんだろうな。これ以上の詳細は聞くまい。
皆の苦笑いの意味がわかっただけで充分だ。多分、デポラは私の反応を面白がっていただけだろうけれど。
貴族オーラをまき散らしながらもすっかり周囲に馴染んだイザーク様が、雪の結晶モチーフのアクセサリーのデザインを考えていたので、私も混ぜてもらった。
領館に避難していた熟練お爺さんの手によって、素敵なアクセサリーがいくつかできた。私の希望が取り入れられたデザインもいくつか考えられた。
その後も手持ちぶさただったので、まだ終わっていなかった拾った魔石の仕分けを手伝ったりして過ごした。
正直ちょっと暇。食事は作ったのを空間収納から出すだけだし、やることが見回りくらいしかない。
防護魔法維持のお手伝いは、何かをしながらでもできてしまう。皆もそうだったようで、全員の気力体力が回復したら訓練が始まってしまった。
領館なのにとても立派な訓練施設があるせいだとも思う。だけれど私も参加することにした。
見回りの後にデポラたちと一緒に訓練場へ行くと、一斉にデポラに視線が集まった。
皆がデポラと対戦をしてみたくて話しかけようとうずうずしている感じ。おじさん達の視線が熱い!
その様子にすぐに気が付いたダーリンが、俺に勝った者しか認めん!! と立ちはだかった。
ダーリンにとって、いつでもデポラは守るべきお姫様。うっかり怪我なんかをさせるような相手とは組ませたくないので、選別が入る。
お姫様が異常に強いんだけど、それはまた別の話。ただそうやって守ろうとしてくれるダーリンが、デポラは大好き。はい、ご馳走様~。
早速ダーリンと希望者の対戦が始まった。ベテランSランクに食らいつくダーリンも本当に強くて、いい勉強になる。
デポラがきゃあきゃあ応援していたのだが、そっとイザーク様に連れて行かれた。
あっさりイザーク様とデポラの対戦が始まり、周囲に人が集まった。
気が付いたダーリンもギルド員との対戦を止めて、二人を見ている。
身近な所にダーリンにとって一番の敵がいたわけだけれど、イザーク様なら絶対にデポラを傷つけたりしないという信頼関係は築かれているようだ。
ダーリンが情けない顔で二人を見ているが、強引に止めに入ったりはしなかった。
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