第10話 殿下の決断
令嬢に興味が持てず交流しないまま十四歳になり、婚約者を選ぶ為のお茶会に参加することになった。
子孫を繋ぐことは王族の義務だし、当然のことだと思って参加した。
事前調査が入っていて、将来の王妃に相応しい人しか招待されていないと聞いているので安心だ。
最初はちゃんと交流して気が合いそうな人を選ぼうと思っていたが、今は単純に見た目が好みのタイプを選ぼうかなとぼんやり考えていた。
適当に挨拶を済ませ、茶会が始まった。着飾った令嬢が集まって来たが、誰が誰なのか全くわからない。
似たような令嬢が多くて困惑した。今王都の流行りなのかもしれないが、流石に見分けがつかない程は困る。
ディーのフォローがなければ、失礼なことをしてしまう所だった。
何とか話はするものの、これといった決め手もなくて困ってしまった。
困っている間にも令嬢たちはどんどんアピールをしてくる。少しゆっくり考えさせて欲しい。
気が付くと、頼りにしていたディーがいなくなっていた。
辺りを探すと、会場の端のテーブルで優雅に珈琲を飲んでいるのが見えた。許せん。
俺をこんな状態の場所に置いていくな。本来してはいけないことだが、断って席を立った。
ディーは一人ではなかった。俺の好みドンピシャの令嬢と話をしていた。あれは誰だ。
あの銀髪はノルン侯爵家のエルヴィーラか。あまり見かけなかったので印象に残っていなかっただけのようで、見た目の全てが好みだった。
テーブルに来ていたのに、人が多過ぎて気がつけなかったのだろうか。
遠慮されたのか、俺に席を譲って立ち去ってしまった。少しくらいは話したかった。
全く話せていないから、人となりがわからない。事前調査で問題は無いのだろうが、どういう人だろう。
両親に言う前にまずは顔の広い叔父さんに相談したいと思って、叔父さんの執務室へ向かった。
叔父さんは仕事中にも関わらず、俺の急な訪問を受け入れてくれた。
叔父さんの執務室の奥にある休憩室で、叔父さん自らがお茶を淹れつつ聞いて来た。
「どうしたんだい? 今日は婚約者を選ぶお茶会だろう。運命の人にでも出会った?」
叔父さんが茶目っ気のある笑顔で言う。そう、まさにそれ。いつもこちらが話す前に、叔父さんには悟られてしまう。
表情を悟られない様に努力しているのに、叔父さんには敵わない。隠そうとすればするほど、顔が怖いと言われる。
「一目見て気に入ったのだけれど、他の令嬢に取り囲まれていたせいで、一言も話せなかったんだよ」
「あらら。それは残念だったね。お相手が何処の令嬢かはわかる?」
「ああ。ノルン侯爵家のエルヴィーラだ」
とにかく凄い好みのタイプだった。
「……そうか。ベルンは見る目があるね。良いと思うよ」
叔父さんは笑顔だった。
「叔父さんはエルヴィーラを知っているの?」
「そりゃそうだろ。侯爵家の令嬢なんだから」
「そうなんだ。良いのか……」
話せば仲良くなれるかもしれない。
「大丈夫だよ、ベルン。国王陛下や王妃陛下に今から報告に行くといい」
「……うん、そうか。そうだな。今から言いに行ってくるよ。ありがとう、叔父さん」
「いえいえ。どういたしまして」
ベルンハルトは淹れてもらったお茶の存在も忘れて、部屋を出た。
父に報告……は仕事中だから今はまずいか。仕事の邪魔は駄目だときつく言われている。
母は……まだ茶会が終わったばかりだから着替えているな。二人揃っている時に話した方がいいか。
ディーに先に報告に行こう。ディーもまだ城にいるはずだと思ったら、やっぱりまだいた。
おそらく母と今日のお茶会について話すのだろう。ディーはいつも周りをよく見ている。
部屋にいた侍女に退室してもらってから話す。
「ディー、婚約者はエルヴィーラにしようと思うんだ」
「……どうして?」
ディーの雰囲気が怖い。めちゃくちゃ怖い。これは俺が何か失敗している時の反応だ。
だけれど、ディーに聞かれているのに沈黙を選ぶ事も出来ず、素直に理由を話す。
「ひ、一目惚れ……」
長年一緒にいるからって、いるからこそ、こんな事を言うのはかなり恥ずかしい。どこの乙女だよ。
今まで散々そう言う事を言ってくる令嬢にうんざりしていた癖に。でも今なら彼女たちの気持ちもわかる。
「……どこに?」
「えっ、どこにって、顔、とか?」
どこ? 何か全体的に? 一目見た時からこの人しかいないと思った。具体的にどこかと聞かれると困る。
「碌に話をしたこともない人と結婚する気?」
「いや、でも、一目惚れ……」
「一方的なものでしょ。そもそもあのお茶会は性格の相性を見る為のものなのに、見た目だけで決めるのはありえないよ」
一方的。確かに。言われてみて、何故か直ぐに決めなければいけないと焦っている自分に気が付いた。
「きちんと話をして交流を深めて、この人とならやっていけるとお互いに確認すべきなんじゃないの?」
一目惚れとは恐ろしい。ディーに言われて気が付いたが、俺は何もかもをすっ飛ばそうとしていた。
王族になれば生活が今までと大きく変わる。そういった事も相手にはきちんと話をしておいた方がいいに決まっている。
「……うん、そうだな。一目惚れに舞い上がって焦っていたみたいだ。ちゃんと学院で仲良くなってからにしようと思う。ありがとな」
「いいえ。まだ陛下たちには話してないよね?」
「ああ。先に散々迷惑をかけて来たディーに言わなきゃと思って」
「そう。陛下たちには学院で婚約者候補と交流してから決めたいと言ったらいいと思うよ」
ディーの雰囲気が戻って良かった。それに、自分が物凄く焦っていたことに気が付けて良かった。
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