入学式のあれこれ

第13話 令嬢は一番乗り?

 さっさと領地に帰り、その後また社交の為に王都へ行ったり帰ったりした以外は、何事もなく過ごした。

 年が明け、これから魔法学院入学に向けて学院の敷地内にある寮へ引っ越すことになる。


 魔法学院と専門学院は国の直轄領にあるが、王都からは離れているのでほとんどの学生が寮生活をする。

 寮の部屋は先着順で選べるので、入寮受付日の朝に到着するよう領地を出た。


 ノルン侯爵領は王都近辺に比べ、夏は涼しく冬もそれほど寒くならない。

 王都に近付くほど冬の名残か、朝晩が冷え込み出す。学院がある直轄領は王都よりも冬が寒いらしい。


 既に授業が始まって専門学院にいるお兄様に、一緒に学院へ行こうと誘われたが断った。

 ぎりぎりまで領地にいた為に、そういう変化を楽しむ間もない勢いで学院を目指した。


 宿の関係でキリキリ進んでトラブル無しでも四日かかるところを、半分の日程で爆走した。

 魔法を駆使しているだけなので、無理はしていない。


 魔法学院と専門学院の敷地は周囲を壁と不法な出入りを防ぐ魔法で囲まれていて、出入りは門番がいる場所からしかできなくなっている。

 馬車は一旦門で待機して、門番に魔法で不審物や危険な物が入っていないかを確認される。


 毒とかの薬物とか、怪しい魔法が付与された何かとかのそういう系。

 空間収納については聞かれなかったので、何も言わずにやり過ごした。確認出来ているのか知らないが、噂になったりしては困る。


 確認に時間がかかるので、その間に敷地案内図を受け取り入寮手続きのために女子寮へ。

 まだ他の馬車は見当たらないので、一番乗りできたみたい。


 一人で良かったのだが、領地から連れて来たノーラに付き添われて入寮手続きへ。マーサは馬車に居残り。

 ノーラとマーサは私の専属使用人だけれど、仕事は仕事として、基本は姉妹のような関係を築いている。


 二人のお姉ちゃんは私がちゃんと入寮手続きができるのか不安なよう。失礼な。きっとたぶん、できるぞ。

 ノーラは髪の毛をきっちり纏めた真面目な感じで、マーサは緩くウエーブした髪のほんわか系。見た目だけでなく、中身もそんな感じ。


 女子寮は外観からしてお金をかけまくった別荘のようだった。白亜の別荘に、思わず地図を二度見した。

 建物の正面中央にある重厚な扉は開け放たれていて、中が見える。


 広々としたエントランスから二階に上がる大きな階段まで、深紅の絨毯が敷き詰められていた。

 幅広の豪勢な中央階段の存在感が凄い。一歩足を踏み入れると絨毯はふかふかで、天井には立派なシャンデリアが下がっていた。


 エントランスは吹き抜けで、二階の回廊にずらりと扉が並んでいる。

 どんだけ贅沢な寮なんだと、心の中でつっこまずにはいられなかった。

 早速扉横にあった受付へ。


「おはようございます。私は女子寮専属使用人のフランツと申します。お見知りおき下さい」


 受付をしてくれているのは、三十代前半くらいの短髪の男性。

 令嬢達が興味を示さないような、絶妙な見た目をしている。

 いい意味で地味だけれど、整っていて清潔感もある。そして優しい目元に好感が持てる。


「おはようございます。ノルン侯爵家のエルヴィーラです。こちらこそよろしくお願いします」


「……まずはお部屋ですね。エルヴィーラ様はこの二部屋のどちらかにされるのがよろしいかと思います」


 間取り図を広げながら見せられた部屋に驚いた。

 中央階段をあがってすぐの横並び四部屋が特に広いのだが、既に両端の二部屋がルイーゼとイザベラにおさえられていた。


 一番乗りじゃなかった。フランツは真ん中の二部屋を指し示している。

 いやいや、この二人の間の部屋なんて絶対に嫌。三年間、何の嫌がらせ。


 もう一度見取り図とエントランスを見比べてみる。二階の部屋は、全ての出入り口がエントランスから見えるようになっている。

 こそこそ出入りするには中央階段近くの部屋か、入り口すぐの部屋か。一番目立たない部屋はどこだ。


「あの、フランツさんはこちらにお勤めになって何年くらいでしょうか」

「え、十年ほどでしょうか」

 質問の意図がわからなくて、警戒された気がする。


「そうですか。ご相談なのですが、ご経験上あまり他の方と会わずにすむ部屋はどこになるでしょうか」


「失礼しました。二階正面の部屋はお気に召しませんでしたでしょうか」


 十年も女子寮の専属使用人でいられる男性なのだから、守秘義務なども完璧だろう。

 好感が持てる顔つきだし、この際がっつり相談にのってもらおう。


「ご存知だと思いますが、今年は殿下の婚約者候補の方が入寮されます。私はできるだけ皆様と関わらずに、学院生活を送りたいのです」


 婚約者候補のリストは当然持っているはずで、私が婚約を希望していないこと、誰の派閥にも加わるつもりがないことに気が付いてくれるだろうか。

 もっとはっきり言うべきかと思いつつ、フランツを見ると思案中。


 二階はきっと婚約者候補とその派閥の有力者で埋まる。王子を部屋に招くこともできるのに一階はない。

 二階の普通の部屋よりも、一階の部屋は狭い。王子を招くには狭すぎる。二階から離れたいんです! そして隠密行動がしたいのです!


「失礼なご提案になるかも知れませんが、お聞き頂けますか?」


「ええ」

 むしろお願いします!


「使用人区画を改築して廊下にしたため、エントランスへ出る廊下が使用人と共同になっておりますが、増築した別館がございます。別館に外扉がありますので直接お部屋へ出入りすることも可能です。一度ご覧になりますか」


 私は頷いた。素晴らしそうな提案。フランツは別の使用人を呼んで受付を任せて、自分自身で案内してくれた。

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