第14話 令嬢は別館に入寮する
中央階段の後ろにある扉から中に入ると、真っ直ぐに伸びた広い廊下に扉が左右に並んでいた。
真っ直ぐに伸びた廊下の先には立派な扉があり、そこを開けると今度は渡り廊下になっていた。
渡り廊下を進んで曲がると一際立派な扉があり、フランツがこちらが別館の入り口ですと教えてくれた。エントランスまで遠いな!!
「日差しの関係なのですが、本館の四部屋よりいい条件になるよう建てられているのです。そのため、渡り廊下が長くなっております」
急遽増築した事情を聞いて、なるほど納得。本館からあぶれた人への配慮ということか。
この辺は冬はかなり雪が降るらしいし、日差しは重要だよね。
別館はそれなりの広さがある二階建て。別館と言ってはいるが、一人用なので別邸だと思う。
二階に寝室とクローゼットに居間、浴室、一階は控室に応接間、厨房と食事室に使用人部屋が二部屋ある。
ノーラに目線で確認すると、問題ないと頷いてくれた。だよね。
「使用人部屋が二つなので不便かと思うのですが、足りない分の使用人部屋は本館にご用意できます」
「ここで問題ありません。使用人は二人だけですし、本館に用意して頂く必要もございません」
「本当に大丈夫ですか?」
心配そうにフランツが聞いてきた。
広さは充分だし、応接室にある螺旋階段が素敵。何より、本館を通らずに出入りできるのがいい。
「もちろんよ。気に入ったわ。エントランスへ繋がる廊下も、必要であれば使ってもいいのですよね?」
「はい。我々の誰かと会うことになるかも知れませんが……」
「そんなの気にならないわ。そちらも気にしなくていいと他の方にも伝えて頂けるかしら。お仕事の邪魔をしたくはありませんから、端に避けることも必要ないとお伝え下さい」
フランツは嬉しそうににっこり微笑んだ。たぶん、一番気にしていたのはそこだろう。
一度本館に戻って入寮手続きを終えると、ノーラはフランツから寮の説明を聞き、到着したマーサは本館につけた馬車を別館へ誘導しに行った。
私は共用部分の談話室を確認して、フランツにお礼を言って外扉から直接別館へ向かった。
本館から別館の外扉は死角に入っている。素晴らしい。
部屋は隅々まで綺麗にされていたので、窓を開けて新鮮な空気を入れた。二階からの見晴らしもいいな。
ノーラも来たので一階へ戻ると、馬車に積んであった荷物が既に外扉から室内に積まれていっていた。
入寮時に長い馬車列を引き連れることが上流貴族のステイタスらしいのだが、無駄なことはしたくないので必要な物しか持って来なかった。
マーサが荷物が全て揃っているか確認した後、領地からの長旅につきあってくれた皆にお礼を言って別れた。
もちろん私も率先して荷ほどきをやります! ノーラが渋い顔をしているが、無視。
螺旋階段の見た目はとても素敵だったが、トランクを運び上げるのにこんなに苦労するとは思わなかった。
重くて大きなトランクを持って、くるくるするのが非常に辛い。あまり見かけない理由がわかるというもの。
すぐに一階と二階を結ぶ転移魔法を展開したら、ノーラに呆れられた。
「こんなことに上級魔法を使うなんて、ありえませんね」
「だって、絶対この方が効率いいじゃない」
「それはそうですけど……」
言いながらノーラも利用している。ほらやっぱり。便利なのだから出し惜しみなんてしないぞ!
私のドレスや宝飾品、生活用品などはノーラとマーサに任せて、細々とした自分の荷物を片付けていると、通話機が鳴った。この曲はデポラから。
「おはよう、デポラ」
「おはよう、エル。今入寮手続きで受付にいるんだけど、エルの部屋はどこよ。もう着いているんでしょう?」
「ふふふふ~。私は別館を確保しました! 面倒な人に会わなくてすむ!」
「別館? 何それ……。ああ、これか。なるほど……。わかった。フランツありがとう。友人のよしみでエルからも出入りしやすい部屋にしておくわ。使用人区画の近くは人気が無いでしょうし、目立たなくてちょうどいいわね」
「デポラ、大好き!」
「はいはい」
そっけなく言って通話機が切れた。
デポラは私に冷たい態度を取りがちだが、実際は凄く優しい照れ屋さん。
デポラは艶々の黒髪黒瞳の美人さんで、多くの騎士や魔法騎士を排出している名門ウテシュ伯爵家の令嬢。
だからか、顔がキリっとしている。鍛え上げられた体に、立派なぼいーんを装備している。
出来る女戦士とかそんな雰囲気ではあるが、中身はただの乙女。だけれど怒らせてはいけない。
口喧嘩では言葉選びが秀逸で精神への威力が抜群過ぎるし、物理的には危険を感じるくらい本気で強い。
武の名門ウテシュ伯爵家出身だからではなく、デポラ個人がかなり有名。
手合わせで私は秒で負けるし、勝てる気がしない。
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